Works 192号 特集 2026年-2035年 次の10年 雇用の未来を描く

包括的な移民政策で外国人と真の共生を

2025年11月21日

オーバーツーリズムの様子京都など特定の地域でのオーバーツーリズム問題が深刻化している。
Photo=AFP=時事


2025年7月の参院選では、外国人政策が大きな論点となりました。これは、4つの要素が複合的に重なった結果だと考えています。

第1に「外国人労働者」の積極的受け入れです。外国籍者の中長期在留者数は、2024年末に約377万人と1990年の3.6倍となり、今や総人口の約3%を占めています。2018年には入管法が改正され、新たに設けられた資格「特定技能2号」は在留期間の上限がなく、家族帯同を伴う日本への移住も可能となりました。

第2にオーバーツーリズム。2010年に1000万人足らずだった訪日外国人旅行者数は、2024年には3700万人近くにのぼりました。

第3に、ソーシャルメディアに蔓延するフェイクニュースです。参院選では、外国人犯罪の急増や生活保護の乱用など、裏付けのない情報が特に拡散されました。

第4は、国内経済の低迷です。円安・原油高を背景に、物価高が進む一方、賃金は上がらず、税・社会保障の負担は増大するばかり。排斥感情はフェイクニュースだけが要因でなく、根底には貧困や格差の拡大という根本的な問題があることを直視すべきです。

社会全体でどこまで違いを許容し どこまで適応を求めるのか議論を

少子高齢化の進む日本は、労働力や社会保障費の担い手が深刻に不足しており、外国人受け入れは今後も避けて通れない。鈴木馨祐法相は参院選後に記者会見を開き、日本の人口に占める外国人比率は、早ければ2040年に10%を超えるとの見通しを示しました。既に10%以上になっているほかのOECD諸国と比べると、まだ低めとはいえ、このままではより大きな軋轢が生まれる恐れはあります。

外国人受け入れを進める以上、政府の包括的移民政策の策定・実施は不可欠です。伝統的には社会の一体性を重んじつつ近年多くの外国人を受け入れてきた西欧諸国では、受け入れ自治体や中央省庁の権利義務を明確にしたうえで、言語習得・文化適応を義務付け、さまざまな動機付けをしています。しかし日本政府は、実質的な移民政策に転換しながらも、「移民」とは決していわず一時的な滞在という建前を貫いてきたことから、日本語教育やオリエンテーションを自治体や民間に一任してきました。経済的利益を優先し、外国人労働者や旅行者を増やす一方、国民の感情や生活が置き去りにされてきたといえるでしょう。2018年には「外国人材の受入れ・共生のための総合的対応策」が策定されましたが、一層の予算拡充、役割分担の明確化が必要です。

外国人には日本に滞在する以上、言語や文化を学び、国や自治体のルールを遵守してもらう。自治体では、迷惑行為に対して過料つき条例の制定も視野に入りますが、国籍でなく行為に対する規制である以上、日本人である我々自身の行動制限につながることも自覚すべきです。また生活習慣や文化の違いをどこまで許容するのか、あるいは適応を求めるのかという点は、社会全体で向き合い、判断することになります。

日本に住む以上日本のルールに従ってほしいというのは当然ですが、暗黙の了解や不文律を、外国人が「察する」ことは困難です。遵守してほしい秩序や規範は、わかりやすく言語化し、伝える必要があります。

近年では、2025年7月のカムチャツカ半島沖地震の津波警報の発令時、各局は「つなみ! にげて!」などひらがなのテロップを表示しました。多言語対応も大切ですが、いつもの日本語をより易しくするなど少し配慮するだけで、コミュニケーションが円滑になることも多い。

北欧諸国には、在留外国人が高齢者向けボランティアへの参加を通じて、言語や慣習を学ぶ取り組みがあります。高齢者の生活支援にもつながる好例といえます。

外国人に不慣れな日本が共生の道を探ることは、決して容易ではありません。しかし、その努力がなければ、経済と感情のはざまで、社会の分断も広がる一方ではないでしょうか。

Text=渡辺裕子 Photo=橋本氏提供

橋本直子氏

国際基督教大学准教授。

オックスフォード大学強制移住学修士号、ロンドン大学国際人権法修士号、サセックス大学政治学博士号取得。外務省、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)、国際移住機関(IOM)などで、世界各地の難民・移民政策に実務家として従事。一橋大学社会学研究科准教授を経て、2024年より現職。著書に『なぜ難民を受け入れるのか―人道と国益の交差点』(岩波新書)などがある。