Works 192号 特集 2026年-2035年 次の10年 雇用の未来を描く
AI時代に余る「漫然とホワイトカラー」を改革せよ

Photo=今村拓馬
ホワイトカラーは社会や企業に動く情報を集め、中継し、媒介することで、高い付加価値と生産性を生む仕事を担ってきました。情報化時代にホワイトカラーは増加し、多くの人が目指す「理想像」だったのは世界共通です。日本的な特徴は、何ができるかがはっきりしない「漫然とホワイトカラー」を増やす構造が内在していることです。
日本はジョブ型ではないため、仕事に求められる役割、それを果たすための能力やスキルが曖昧です。さらに長期雇用と年功的な人事制度によって、専門職、小売りや生産現場のブルーカラーも年を重ねると職務がはっきりしない管理職というホワイトカラーへと昇進していき、その数は増えていきます。
しかし、AIがホワイトカラーの業務を急速に代替し始め、今やその構造は限界を迎えています。アメリカではAIを前提に人員構成を再設計し、大胆な削減と再配置が進んでいますが、人がやるべき仕事を見定め、そこに必要な人材を投入しようとしています。一方、日本は「人を減らさない」という慣習に縛られ、本質的な変革に至っていません。販管費率の高さは、その余剰が競争力を削いでいる証左です。
AIを前提に組織をゼロから設計 それを鏡として全組織を変革
まず取り掛かるべきは「漫然とホワイトカラー」を減らし、本当に必要な業務と人数を洗い出すことです。一般に組織改革は既存の組織の人数、業務を前提として効率化を目指す漸進的なアプローチを取りますが、それではAI時代に対応できるトランスフォーメーションは難しい。既存の組織を変革するのでなく、AIを前提にゼロベースで組織を設計し直し、ジョブ単位で仕事を定義し直す。そうして立ち上げた新しい組織を鏡としてほかの組織も変えていくほどの覚悟が求められます。
個人への支援も必要です。1つは、真のリスキリングです。全員に一律でAI教育を施すのではなく、事業の未来を見据えて課題を設定しそれを実現に導く判断力、つまり人やAIを導く「ボス」としての判断力を身につけさせることが急務です。
その過程で自社には必要とされない人材も出てきます。AI時代に生き残れるホワイトカラーは2~3割ほどでしょう。彼ら彼女らを「飼い殺し」にせず、企業と政策が協力して新たな役割を得られるよう支援する仕組みをつくるべきです。雇用保険の再設計を行い、学び直しのためのバウチャー制度を整え、個人が自由にスキルを獲得する支援をするなど、単なる補助ではなく社会としてセーフティネットを再構築する必要があります。
Text=入倉由理子 Photo=冨山氏提供
冨山和彦氏
日本共創プラットフォーム代表取締役会長、IGPIグループファウンダー。
ボストンコンサルティンググループ、コーポレイトディレクション代表取締役を経て、2003年産業再生機構設立時に参画しCOOに就任。解散後、2007年経営共創基盤(IGPI)を設立。2020年日本共創プラットフォーム(JPiX)を設立。近著に『ホワイトカラー消滅』(NHK出版新書)などがある。
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