Works 192号 特集 2026年-2035年 次の10年 雇用の未来を描く
地方の中堅中小企業にホワイトカラーの移転を促せ
日本には約300万社の中堅中小企業が存在し、そこに働く人々が全体の7割を占めています。特に地方には高い技術力を備える企業や、インバウンド需要の高い観光資源に恵まれた企業も少なくありません。これらの企業が都会で余るホワイトカラーの次の活躍の場になり得ますが、彼ら彼女らには魅力的な職場として認識されておらず、人材の移転は進んでいません。
中堅中小企業には現業系の会社が多く、生産性を上げることは人員削減につながります。効率化をしないことが、地域の雇用の受け皿になるという構造不況の「負の遺産」でした。しかし、強みを磨き、生産性を高め、賃金も上げなければ優秀な人材が働きたいと思える職場になりません。
一方、大企業で働いてきた「漫然とホワイトカラー」が、すぐに地方企業の役に立てるわけでもありません。求められているのは、経理・労務・営業改善などを通じて経営を支援し、生産性を引き上げられる人材です。ところが大企業では多くの人が部下として動く立場にあり、経営判断の経験は乏しい。専門性も限定的で、ニーズのミスマッチが生じています。
それでも希望はあります。経営者直下の事業責任者など重要なポジションに若手人材を派遣し、経営力を身につけさせるベンチャーフォージャパンのような成功事例も出ています。若手人材が地方企業で経営経験を積み成長するだけでなく、地方企業の変革の一翼も担っています。こうしたロールモデルを増やすことで、地方企業への転職が「挑戦」ではなく「選択肢」として受け止められるようになるのです。
大企業では、若手に早期から「ボス」としての経験を積ませるべきです。「ボス」としてのジョブディスクリプションを明示し、それを果たすための教育機会を与えていきます。自社にとって有益なだけでなく、地方の企業を牽引できる人材の育成によって、社会全体の生産性を押し上げることにつながります。地方企業には生産性向上の余地が大きくあり、そこに経営能力を備えたホワイトカラーの知恵を移転すれば、飛躍的な成長が期待できるのですから。
ホワイトカラー人材の「再配置」は単なる雇用対策ではなく、日本経済の再構築の柱。今後の日本に必要な構造改革だと強く確信しています。
Text=入倉由理子 Photo=冨山氏提供
冨山和彦氏
日本共創プラットフォーム代表取締役会長、IGPIグループファウンダー。
ボストンコンサルティンググループ、コーポレイトディレクション代表取締役を経て、2003年産業再生機構設立時に参画しCOOに就任。解散後、2007年経営共創基盤(IGPI)を設立。2020年日本共創プラットフォーム(JPiX)を設立。近著に『ホワイトカラー消滅』(NHK出版新書)などがある。
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