Works 192号 特集 2026年-2035年 次の10年 雇用の未来を描く
エッセンシャルワーカー領域に特化した教育の再設計を
日本の高等教育は企業の人材ニーズと連動し、「漫然とホワイトカラー」を育ててきました。しかし、生成AIの登場により、就職もキャリア継続も難しくなる時代が来ています。今後、より求められるのは2つの大学のモデルです。
1つは、世界で学術競争を担う少数のグローバル大学。もう1つは高等専門学校に類する、多数を占めるべき職業教育大学です。職業教育といっても、文理問わず知識や特定の技術に偏重した教育であってはなりません。
たとえばこれまでプログラミングスキルは非常に高く評価されてきましたが、生成AIの登場によって自然言語で指示を出せばAIがコーディングをしてくれるようになりました。今後、人に必要なのは、適切な課題を発見し、適切な解を得られるように適切なプロンプトを出して、AIが出した選択肢のなかから適切な意思決定を行える力です。その意味で教養教育との融合は不可欠です。
「大学では教養教育を重視すべきだ」と反駁されることがありますが、職業教育と教養教育は決して矛盾しません。医学部で生命倫理を深く学ぶことが良医を育てるように、専門性と教養は相互に補完し合うものだからです。人間を理解し、社会と向き合う力がなければ、専門性は空回りします。
高校教育の見直しも急務です。普通科偏重の結果、工業高校や商業高校が軽視され、地域の現場で活躍できる人材が育ちにくくなっています。早い段階でジョブ志向に目覚めた人に対し、質の高い教育を受けられる制度へ転換するなど、職業教育の価値を再定義する必要があるでしょう。
突き詰めれば課題は、「日本の中間層をどう再生するか」です。デジタル社会では製造業時代のような雇用の包摂性が失われ、分断が生まれて格差が拡大します。保護貿易で中間層復活を図るアメリカのやり方は、私は日本には適さないと考えます。むしろ地方の技術や観光資源を活かし、そこで働くアドバンスト・エッセンシャルワーカーを国全体で育て、ホワイトカラーのデスクワークだけに偏らない、「現場で働く人生は豊かで幸せだ」と思える職業観を形成すべきだと思います。
Text=入倉由理子 Photo=冨山氏提供
冨山和彦氏
日本共創プラットフォーム代表取締役会長、IGPIグループファウンダー。
ボストンコンサルティンググループ、コーポレイトディレクション代表取締役を経て、2003年産業再生機構設立時に参画しCOOに就任。解散後、2007年経営共創基盤(IGPI)を設立。2020年日本共創プラットフォーム(JPiX)を設立。近著に『ホワイトカラー消滅』(NHK出版新書)などがある。
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