Works 197号 特集 活躍寿命を延ばせ

コクヨ|すべての人に挑戦のきっかけを。事業と人材両輪で成長の循環を作る

2026年08月24日

コクヨは、社員が自らキャリアを考え、必要な能力を身につける機会をさまざまな形で提供することで、事業と人材に「成長の循環」を作ろうとしている。同社が世代を問わずすべての社員に身につけてもらおうとしている挑戦への意欲と行動は、キャリアロンジェビティのために必要な要素でもある。

遠田 純氏

コクヨ ヒューマン&カルチャー本部 コクヨアカデミア ファカルティユニット
遠田 純氏


同社は2030年に、過去3000億円前後で推移してきた売上高を5000億円に引き上げる目標を掲げている。「業績をジャンプアップさせるには、既存の事業の磨き上げに加えて、新規事業への参入やM&Aなど新たな試みによって、異次元の成長を実現していく必要があり、そのためには社員一人ひとりが、自ら挑戦ができるような仕組みと仕掛けが鍵になる」と、遠田純氏は言う。

このため2024年に人事組織を大きく変え、人材育成や意識変革、組織風土の醸成などに一体的に取り組む「ヒューマン&カルチャー本部」が立ち上がった。そのなかでも遠田氏らが所属する人材育成機関「コクヨアカデミア(以下、アカデミア)」は、人と事業が共に成長する「循環」を生み出そうとしている。社員には、社会をよりよくするためにやってみたいこと、キャリアを通じて実現したいことなどを「ヨコク」として示してもらい、アカデミアがさまざまな制度や研修を通じて、ヨコクの実現に必要な機会を提供している。「自分自身でキャリアを考え、必要な力を身につけてもらうための仕掛けを、あの手この手で提供しています」

仕掛けの1つが業務時間の約20%を使って、他部署の仕事に挑戦できる社内複業制度「20%チャレンジ」だ。社内アンケートで、社員の25%が「新しいことに挑戦したいが挑戦機会がなかった」と回答するなど、挑戦意欲のある社員に機会を提供できていなかったことが、導入のきっかけの1つだった。「社員が挑戦できないということは、事業における挑戦も十分でない可能性があります。経営陣と議論を重ね、成長機会を増やすための取り組みとして『20%チャレンジ』を打ち出したのです」

経営陣からは、「社員は社会からの預かりもの」という考えを聞くことができたと遠田氏は言う。企業は社員を預かる以上、たとえその人が組織を離れたとしても、自らキャリアを築ける人材に育てる義務がある、という決意がうかがえる。

また、アンケートなどを分析した結果、会社が挑戦の機会を渡したつもりでも、社員のやりたいこととのギャップがある場合、本人は「やらされている」と受け止め、成果や成長が伸び悩む傾向が見えてきた。このため人事は、応募者と部署をマッチングするにあたって、本人の希望する領域にアサインすることを重視している。

20%チャレンジに参画した人が、異動やプロジェクトへのアサインへつながる事例も増えるなど、次の新たな挑戦も生まれている。

対話通じたキャリア形成 隠れた挑戦意欲を引き出す

社員のキャリア形成では、対話を通じて本人の意向を把握し、それを尊重しながらも可能性を広げるための配置を進める。「本人がまだ気づいていない新たな成長の可能性を広げるといった狙いから、本人が想像していなかった異動やミッションへのアサインメントとなるケースもあります。こうした場合は意図や狙いをしっかりと説明し理解を求めています」

2023年からは人事と事業部門の役職者が、社員一人ひとりの中期的なキャリアを俯瞰し、成長に向けた可能性や克服する課題などを複眼で議論する「人材育成会議」も始めた。そこでは、新たなことへの挑戦を重視する提案があったり、まだまだ時期尚早と意見が出たりするなど活発な議論が行われている。「何が正解かではなく、人事と事業部門の多くの人が、社員一人ひとりのキャリアについて多角的に対話するプロセスが大事なのだと考えています」

「Kokuyo Career Dock」という、若手社員とその上司にキャリア形成を考えてもらうための研修プログラムも設けている。ワークショップ形式で若手向けと上司向けに分かれ、若手側が目指すキャリアや身につけるべきスキルを深掘りする一方、上司側は部下である若手社員との成長に向けた対話の仕方などについて考える内容だ。

若手に顧客起点のマーケティングスキルなどを伝える「マーケティング大学」や、30~40代の中堅リーダー層が成長戦略を構築する「マーケティング大学院」、デジタルスキルを提供する「KOKUYO DIGITAL ACADEMY」など、具体的なスキルを習得するための研修も用意している。さらに、さまざまな社員が登壇して自分の仕事について語るオンラインの「ヨコク朝礼/昼礼」や、年間300件ものイベントなどを通じて、挑戦を後押しする空気の醸成にも取り組んできた。「スモールステップで多くの体験機会を提供した結果、社員が潜在的に持っていた挑戦意欲が表に出てきたと感じています」

Kokuyo Career Dock(写真左)やマーケティング大学(写真右)

Kokuyo Career Dock(写真左)やマーケティング大学(写真右)は、社員の挑戦を促す機会となっている。

機会の提供はミドルシニア層が一歩踏み出すきっかけに

若手に限らずミドルシニア層にも機会を提供し、挑戦を促している点も大きな特徴だ。同社は45歳以上の社員の割合が高く、この世代の活躍を促すことが、成長の重要なファクターとなっているためだ。前述の20%チャレンジも、実は制度の利用者の3割を40代以上が占める。また、45歳以上の社員には社外での副業も解禁している。これらはミドルシニア層が新たなキャリアを模索し、一歩踏み出すきっかけともなっているというのだ。

たとえばある営業職の社員は、事業のチェックを受けるなかで監査部に関心を持ち、チャレンジ先として希望した。技術職の社員は、後輩の開発者たちの悩みを解決する術を知りたい、と人事の相談員のテーマに参画し、それを機に「これからの自身のやりたいことが見つかった」と準備を始め、その後、退職してセカンドキャリアを歩み始めた。人事が講じる「あの手この手」の仕掛けは、ミドルシニアに内在していた好奇心や「経験やノウハウを新たな領域で活用したい」「会社にまだまだ貢献したい」といった思いを引き出す役割も果たしていると、遠田氏は考えている。

人事組織の変革を経て、人事に関わる人々の意識や行動も変わってきた。あの手この手でさまざまな施策を打ち出す一方、うまくいかなければ軌道修正する「実験カルチャー」も同時に醸成されつつある。「まず仮説を立てて施策を展開し、修正すべき点が出てきたら速やかにチューニングする、というプロセスを踏みやすくなっています。人事も事業部門と一体となって、あらゆる世代の社員が挑戦に踏み出せるよう、必要なスキルを提供していきます」



Text=有馬知子 Photo=今村拓馬、コクヨ提供

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