Works 197号 特集 活躍寿命を延ばせ

ドイツ|健康長寿実現に向けた、国策としての予防医療充実の働きかけ

2026年08月31日

ドイツの医療システムは世界的にも高い評価を受けているが、それは急性期疾病への対応の側面で、予防医療への取り組みは不十分だ──ドイツ連邦議会へのロビー活動を行うアレクサンダー・ティーツラッツァ氏は言う。健康な高齢化に向けた、ティーツラッツァ氏の活動目的や使命を聞いた。

アレクサンダー・ティーツラッツァ氏の写真

PRIMA Founder & CEO
アレクサンダー・ティーツラッツァ氏
Mr. Alexander Tietz-Latza

ドイツ連邦議会や欧州議会の政策スタッフ、医療科学技術マネジャーを経て、長寿・健康領域の政策・普及活動に従事。国際長寿アライアンス(ILA)ディレクター。2025年より現職。


私は2025年10月に、NPO法人としてPRIMA(Prevention and Innovation of Medicine and Ageing)を立ち上げました。ドイツ全土での予防医療の充実と「健康な高齢化」実現に向けた投資や法整備を連邦議会に働きかける活動をしています。私自身は、ドイツ連邦議会や欧州議会の政策スタッフなどの経験を通じて、15年以上にわたり、「長寿と健康」に向き合ってきました。ただ、片手間の関与では、健康な高齢化を現実的に進めるための働きかけは十分にできません。政府や研究機関との強力な関係構築と取り組みの推進を加速させなければいけない、という思いから、PRIMAを設立したのです。

欧州のなかで予防医療に後れをとるドイツ

その背景には、ドイツの現状に対する私自身の苛立ちがあります。ドイツは、既に超高齢社会にあり、2050年までに人口の30%が65歳以上になると予測されています。80歳以上の高齢者も急増し、加齢に起因する疾病によって、医療、介護、社会システムの負荷が大きく膨らむことが目に見えています。高齢化社会と堅牢な社会経済を両立させるには、予防医療への投資を通じて「有病期間」を圧縮し、健康寿命をできるだけ延ばすことが必要です。しかし、ドイツは急性期の疾病に対する医療システムは充実しているものの、予防医療や慢性疾病への取り組みは欧州の他国と比較しても劣後しているといわれています。予防医療への投資は連邦政府の活動のアジェンダに組み込まれているものの、具体的な取り組みとして見えているものはあまりない、というのが現状なのです。

ドイツの定年は67歳に引き上げつつありますが、定年を過ぎてから得る収入は、月2000ユーロまでは非課税となります。この仕組みは、熟練の労働力が不足しているなか、人々が長く働くインセンティブとして機能しています。そのためには、やはり健康であることが欠かせませんが、前述の通り、国レベルの予防医療の環境は不十分です。一部の企業では「職域保健」として、個人の健康管理への関与や、個人データの集計・分析を通じた予防医療への取り組みを始めました。今後は、企業レベルではなく、国レベルで、予防医療や健康な高齢化に対する取り組みや法制化が本格化していくことを期待しています。

あえて中立の立場で健康な高齢化の実現を図る

たとえばタバコ税を引き上げることによって、喫煙者は減りました。一方、アルコールは、バーバリア地方ではいまだにランチにビールが許されているなど、規制はかけられていません。やはり規制や制度は効力を持つため、健康な高齢化という観点から、将来的には定年のさらなる引き上げなどの政策支援も必要になるでしょう。

政策を変えるには、私自身が政策立案側に立つ、というよりは、中立の立場で、国、研究機関、医療機関と強力なネットワークを築き、健康な高齢化への長期的な基盤構築を後方から主導する存在であるべきと感じました。その使命を負って、PRIMAは強力に活動を進めていきます。

Text=佐々木貴子 Photo=Works編集部

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