Works 197号 特集 活躍寿命を延ばせ

NEC|新入社員が役員の課題を解決。世代間の対話が活躍寿命を延ばす

2026年08月27日

キャリアロンジェビティの実現には、年齢も立場も多様な社員が交わり、価値観や知見を交換する場を持つことが有効だと考えられる。NECが導入したリバースメンタリングは、新入社員が役員層の課題を聞き取り解決することによって、まさに異なる世代の社員が「学び合う」機会を作り出している。

森田 健氏(右)と河野実穂氏(左)の写真

NEC
ピープル&カルチャー部門 カルチャー変革 エバンジェリスト
森田 健氏(写真右)

ピープル&カルチャー部門 タレントマネジメント統括部 プロフェッショナル
河野実穂氏(写真左)


同社は2024年からリバースメンタリングを始め、毎年7月頃に実施している。ピープル&カルチャー部門のカルチャー変革エバンジェリスト、森田健氏は導入の目的について「製造業からソフトウエア企業へと事業構造を変革するなかで、上意下達の色彩が強かった組織風土を、フラットに対話するカルチャーへと変えてきました。リバースメンタリングも、意識変革を加速する取り組みの1つです」と説明する。

通常のリバースメンタリングと異なり、同社の取り組みは、メンター役を務める新入社員が組織をリードする役員の悩みや課題意識を引き出し、その解決に向けたアイデアを主導的に構想する点に特色がある。対話を通じて課題の本質を整理した後は、AIも活用しながら短時間でPoC(概念実証)となるアプリケーションを開発し、解決策をその場で具体化していく。

「経験豊富な役員層と向き合えるよう、新人には事前に『武器』も渡しています」と、同部門プロフェッショナルの河野実穂氏は話す。事前に2時間×5回のオンライン・対面講座で、「メンター育成」を実施する。課題のブレイクダウンや視点の取り方、問いを立てて答えを引き出す力、AI活用スキルなどを鍛える。準備講座なしで同種のワークショップを実施したこともあるが、準備があったほうがはるかに高い効果を得られたという。

「答えが出てもそこで終わらせずに問いを重ねる、といったトレーニングを繰り返すほか、リハーサルも行い、役員に緊張せず向き合えるようなマインドの醸成にも努めます。準備講座はメンタリングに役立つだけでなく、その後の成長も早めると考えています」(河野氏)

参加者は「手挙げ」で募る。毎回定員以上の応募者が出るため、本人たちの書いた志望動機などを参考に、人数を絞り込んでいる。「当社が今求めているのは、自ら意思を示しそれを表現できる人材です。手挙げで選ぶやり方は、新入社員への『意思表明した人に成長機会を与える』というメッセージであり、志望動機を読んで選ぶことで、意思を言葉にする力も求めています」(森田氏)

組織の最上位レイヤーにいる役員が、自分たちの言葉に耳を傾けてくれるという経験が、新入社員の心理的安全性を高める効果もあった。「参加者は職場に戻ってからも、上位者に臆せず意見を言えるようになったのです」と河野氏は言う。

また、森田氏は「社員が本当に『新人』のうちに実施することが鍵」とも話した。「半年ほどたつと新入社員はよくも悪くも、上下関係に合わせた振る舞いを学んでしまいます。怖いもの知らずに役員と接することができるのは、入社直後のわずかな期間だけなのです」

黄色・緑色・赤色・青色・水色・ピンク色のTシャツを着た社員が散在する中、グループで話し合っている風景。各自ノートパソコンを開き、大きなモニターに視線を向けている。 新入社員のチームは3~4人。役員も含め、全員をニックネームで呼ぶフラットな場だ。全体のプログラムは約4時間。AIを使いながら課題の本質を見極め、解決策を練り、PoC(概念実証)まで行う。最後に発表者以外は自由にほかのテーブルに着き、成果をシェアし合う場が設けられている。

若手の振る舞いから気づきを得る 役員同士のつながりも重要

役員たちも当日、カラフルなTシャツを身につけて楽しそうに参加する。自分たちのアイデアを、新入社員がいとも簡単にアプリに落とし込んでいくことに、驚く役員も多い。2025年に同研修に参加した執行役Corporate EVP兼CHROの長田志織氏は、「私の新人時代と比較すると、現代の若手人材は極めて優秀だと実感しました。デジタルネイティブ世代の彼らと一緒に、アジャイルに仕事に取り組めることがわかりました」と話す。

前述の通り、新入社員には入念な事前準備をしてもらう一方で、役員には、当日までメンタリングの内容について詳しい説明をしない。経営に参画するなかで想定外の事態への対応を迫られることも多いので、事前準備のない「素」の状態から、瞬発力を発揮してもらうためだ。

役員たちがこうしたいわば下剋上のようなワークショップを受け入れられる背景について、「7、8年前なら事前説明は必須でしたし、説明しても『なぜ必要なのか』といった反論が出たでしょう。こうした古く重いカルチャーが今のように変わったのは、変革によって役員同士がつながる『面の経営』を取り戻したためだと考えています」と、森田氏は分析する。

「面の経営」は、1960~70年代に経営を担った元会長・小林宏治氏が提唱した経営方針だ。

2000年代以降、半導体やパソコンなどへ事業が多角化するなかで、各部門が個別最適を追求するようになり、組織の「サイロ化」を招いた。同社は2012年の役員合宿を皮切りに、「面の経営」の復活に乗り出す。部門長レベルの役員30~40人程度が定期的に集まり腹を割って対話したことで、フランクかつ濃密な関係性ができ、スピーディに意思決定できるようになった。他部門への説明資料の作成や根回しといった、ムダな業務も減った。こうした土壌ができたからこそ、リバースメンタリングも役員が集まる施策の1つとして受け入れられた。

「手挙げする人材」を育成 次世代のリーダーへ

2026年度は、定員120人に対して応募者は250人。一定のボリュームではあるが、新入社員全員が手を挙げたわけではない。河野氏は、「手を挙げたいが職場に迷惑をかけるのは避けたい、という責任感から、応募を見合わせる人も少なくありません」と説明する。

官公庁などからの受託事業を経営の柱としてきた同社は、顧客の求める品質基準を満たす製品を納入することをミッションとしてきた。このため社員も、仕事を受ける側として場を弁え、要求を的確に把握することを求められてきた。「従来は事業の性質上、ニーズに対して受容的であることがよしとされてきた面もあります。しかし、提案を通じて顧客の事業を変革する、という新たなビジネスモデルには、自発的な人材を採用・育成する必要がある。全員が手を挙げるようになってほしいです」(森田氏)

同社は現在、人材育成を抜本的に見直すなかで、若手を抜擢してリーダーに育てる仕組みの構築にも取り組んでいる。「手挙げ」をベースとしたリバースメンタリングを、育成の入り口として活用する方針だ。「ただ、リバースメンタリングで自らの意欲やアイデアを解き放つ経験をしたとしても、部署に配属されたらものが言えなくなってしまった、というのでは元も子もありません。意欲を起点としたリーダー人材の育成と同時に、さらなるカルチャー変革も急務です」(森田氏)

そのためにも、「リバースメンタリングを役員の1つ下の層である、統括部長級でも実施したい」と、森田氏は話す。ただ対象人数が多いことなどから、実現の方法を検討中だという。同社の取り組みはリーダー人材の育成にとどまらず、社員に異なる世代からの学びや気づきを提供することによって、若手の自律意識を高め、長く活躍してもらう基盤づくりとしても効果的といえそうだ。

Text=有馬知子 Photo=刑部友康

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