Works 197号 特集 活躍寿命を延ばせ

フランス:人生の修正ではなく再発明を。年齢という雇用差別に挑む企業連合

2026年08月24日

少子高齢化という構造変化に直面しているのは日本だけではない。フランスでは、55歳から64歳の就業率が6割にとどまる一方で、2030年までに人口の3割が60歳以上になる。シニア層の労働市場への参画を目指し、設立された企業連携プラットフォームがClub Landoy(クルブ・ランドワ)だ。

シビル・ル・メール氏の写真

Club Landoy創設者
バヤール・グループ(Bayard Group)
常務取締役
シビル・ル・メール氏
Ms.Sibylle Le Maire

2019年、社会の高齢化を見据えて企業プラットフォーム「Club Landoy」を創設。さらに、ロレアルをはじめとする大手企業とともにシニア雇用の行動指針である「50+憲章」を立ち上げる。メディア・コミュニケーション領域で豊富な実績を持ち、フランス経済界におけるシニアインクルージョンと世代間協働の旗振り役として活躍している。


Club Landoyは、2019年にフランスのメディア大手バヤール・グループ内に設立された。現在、公的機関や大企業を含む約30の組織が参画し、シニア従業員の経験の再評価や、活躍期間の延伸、多世代協働の促進を目指して活動している。

Club Landoyの創設者であるシビル・ル・メール氏は、フランス社会が抱える根深い問題をこう指摘する。「現代のフランス労働市場において、年齢による雇用の差別は、性別や出身、障がいによる差別を上回る深刻さを抱えています。EU統計局のデータによれば、55歳から64歳の就業率は60.4%にとどまり、隣国ドイツの75.2%や欧州平均の65.2%と比較しても低い水準です」

シニア層を単なるコストや去りゆく存在として捉えるのではなく、組織の価値であり「資産(アセット)」として再定義すること。この問題意識から、Club Landoyの参画企業が署名した、50歳以上の社員に対する具体的な行動指針となる「50+憲章(50+ Charter)」が作られた。「シニアの雇用のために取り組むことは、社会全体の利益(共通善)のために取り組むことです。単に高齢化する、その年齢を『耐え忍ぶ』社会から、人々が活躍し続けるアクティブな社会、つまり長寿という機会を『自らつかみ取る』社会への転換を目指しています」

この憲章には、化粧品大手のロレアルをはじめ、大企業が相次いで署名(参画)している。企業が参画する動機は、CSRにとどまらず、ビジネス上の実利的なメリットと地続きになっている。

1つは、ITやヘルスケア、交通、物流などの産業の労働力不足、ベテランが持つ暗黙知やスキルの継承、キャリア終盤を迎えた従業員の生産性とエンゲージメントの維持といった課題への対応だ。これらに加えて、ル・メール氏は企業ブランディングへのメリットも挙げる。「現代の若い求職者は、成果を出している限りは勤務時間や場所を選べるという柔軟性に加え、自律性、尊厳、責任感を実感できる仕事を求めています。また、顧客層の高齢化が急速に進む市場において、社内の労働力を顧客層のデモグラフィックに合致させることは、もはや選択肢の1つではなく、マーケティング上の不可欠な要素なのです」

2023年にマクロン政権が断行した、受給開始年齢を62歳から64歳へ引き上げる年金改革も、企業の背中を強く押した。従業員がこれまでより長く自社にとどまるという現実を前に、企業は「いかにして彼らに64歳まで健康に、高いモチベーションを持って働いてもらうか」という能動的な戦略への転換も迫られているのだ。

「今さら投資しても・学んでも」という「二重の諦め」を乗り越える

「50+憲章」は、参画企業に対して法的・強制的に課された義務ではない。企業が自社の持続可能性のために自発的に署名し、自社の人事戦略や文化を変革していくことを宣言したものだ。具体的には、「10のコミットメント」(図1)として、現場で実践可能な行動項目が定められており、参画企業は自社のフェーズに合わせてこれらを活用している。

参画企業はさまざまな形で変革に着手している。保険大手のアクサは、「大胆さに年齢は関係ない」というタイトルのキャンペーンを展開した。シュナイダーエレクトリックや別の保険大手のAG2Rは、シニア以降の一律の働き方を見直している。何の仕事をどのように続けたいかは、その人の経験や志向によって異なるためだ。タイヤ大手のミシュランでは、職場の人間工学に投資し、工場で働く労働者の身体的負担を軽減することで、60代でも健康に働き続けられる環境を整えている。

しかし、50代以上の人々が次のステージに向けて新しいことを進める際、企業も個人も心理的な壁にぶつかるという。ル・メール氏はそれを「二重の諦め」という言葉で表現する。「企業側が『もう彼らに投資しても回収できない』と諦め、従業員本人も『今さら新しいことは学べないから逃げ切ろう』と諦めてしまう現象です。過去の成功体験が長ければ長いほど、新しいスキル、特にデジタル領域を受け入れる際の心理的抵抗は大きくなります」

この壁を乗り越えるためにも、Club Landoyでは、4つの重点テーマを軸に企業の変革をサポートしている。具体的には、履歴書から年齢欄を外すなどバイアスを排除する「インクルージョン」、50代以降にも平等な教育機会を保証して選択肢を広げる「研修・リスキリング」、職場環境の人間工学的な改善や柔軟な働き方、介護者支援を進める「健康・ケア」、そして長いキャリアを支えるための資産形成やリテラシー向上教育を行う「財務」の4領域だ。これらを包括的に推進することで、企業が中高年層の心理的抵抗をなくし、主体的推進力を回復させる土台を築いている。

<図1>[「50+憲章」:10のコミットメント]

「50+憲章」:10のコミットメントを一覧にした図コミットメントでは、採用やスキル継承など具体的な項目に加え、この公約を全従業員とマネジメント層に周知し、世代間共生の重要性への意識を高めることで年齢に関するステレオタイプを排除すること(1)、また、年齢にかかわらないすべての従業員のキャリア支援への配慮の重要性(2)にも言及している。ル・メール氏は、「『50+憲章』への日本企業の参加も歓迎したい」と話す。
出所:Club Landoy Webサイト(編集部翻訳、抜粋)

何度でもキャリアを再方向付けする余白や機会を組織のインフラに

Club Landoyは、時代の変化に合わせて活動の焦点を進化させている。現在の重要アジェンダを、ル・メール氏は3つ挙げる。「1つは従業員の親の介護と仕事の両立支援です。また、マルチステージの人生を自律的に生き抜くため、早い段階からの資産形成やライフプラン教育など、ファイナンシャル・リテラシーの獲得を企業が支援する必要があります。これが2つ目です。そして最後、最も重要なのが、『AI & 50代以上』です」

Club Landoyの共同創設企業のロレアルは、全世代向け教育プログラム「Gen AI for All」を開発した。テクノロジーへの心理的障壁を取り除き、シニアが持つ豊富な経験に基づく「分別」をAIと融合させ、業務で本質的なインパクトを生み出すことを目指す。実務が代替される時代だからこそ、シニアの判断力とAIの融合が、企業の新しい推進力になるという実践例だ。

Club Landoyの活動は、「これまでの人生モデルを修正(Repair)することではなく、まったく新しい物語、新しい人生モデルを再発明(Reinvent)していくプロセス」だと、ル・メール氏は強調する。

「企業におけるリスキリングやキャリア開発の本質は、企業と従業員の間の社会契約そのものを再設計していく文化変革にほかなりません。大人が対等なステークホルダーとして互いの約束を更新し、何度でもキャリアを再方向付け(Reorient)していく。そのための余白や機会を組織のインフラとして組み込むことが求められています」

Text=入倉由理子 Photo=Club Landoy提供

関連する記事