Works 189号 特集 長寿就労社会 定年“消滅”時代、あなたはどう働きますか?

現役社員同等か働き方限定社員か シニアに2つの働き方を選択を用意したサミット

2025年05月26日

首都圏にスーパーを展開するサミットは2025年度から定年を実質延長し、65歳まで現役と同条件・同待遇で働けるよう人事制度を改定したうえで、本人の希望で働き方を選べる、フレキシブルな定年延長を実施する。制度改定の経緯や課題について聞いた。


同社の既存の制度では60歳で定年を迎えたのち、希望者は嘱託社員として65歳まで継続勤務が可能で、現在約8割が嘱託に移行している。嘱託社員は異動範囲が5店舗に限定される一方、賃金も60歳以前の7割程度に下がるという。

新たな制度では、本人の希望で働き方を選択できる。

まず、仕事の内容が変わらなければ60歳以前と同じ処遇で65歳まで働き続けられるようにした。制度改革を専任としてリードした人事業務・企画部特命担当の須合一樹氏は「同一労働・同一賃金という視点でもありますが、仕事内容が変わらないのに、ある日を境に突如として賃金が下がるという状態を改め、社員の意欲を高めることが狙いです」と理由を説明する。

この働き方を選択した場合は異動範囲の制限がなく、評価も「現役世代の社員と同じ土俵で」(須合氏)行われる。それでも制度導入に先駆けて嘱託社員に意向を聞くと、8割ほどが60歳以前と同等の働き方に戻ることを希望した。

同時に異動範囲を限定した働き方を新設し、「限定なし」「地域限定」「店舗限定」という3つのなかから、生活環境の変化に合わせて働き方を選べるようにした。勤務日数や時間も短くしたい、という人はパートタイマーに転じることもできる。また60歳以上の社員には、上司が毎年その後の働き方の意思確認を行い、たとえば「家庭の事情が落ち着いたので、『地域限定』から『限定なし』の働き方に戻りたい」といった希望にも都度応じるとしている。

パート上限年齢75歳に 採用難きっかけに制度改定

「定年再雇用制度」の見直し(2025年6月~)「定年再雇用制度」 の 見直しの図解出所:サミット

シニアパートについては2016年、上限年齢を70歳から75歳へ引き上げるとともに、シニアパートとなった際に時給を原則1割引き下げるという制度を見直し、通常のパートタイム社員と同水準で処遇することとした。

背景にあったのは、採用難の深刻化だ。特に都心はフルタイムの共働き家庭が多く、パートの主な担い手となる主婦らの数が少ない。当時、採用を担当していた須合氏は「都心で新店を開くとき、なかなかパートを確保できず、最寄りの鉄道路線を延長した先の埼玉県などから人を集めたこともありました」と振り返る。

こうしたなかで、既存の社員に長く働いてもらうための施策が重視されるようになったのだ。また75歳までパートとして働ける小売業は当時まだ少なく、長く働けることをアピールして採用につなげたいとの考えもあった。

現在、同社では約2300人のシニアパートが勤務している。実際、どのような働き方をしているのだろうか。立川市にある羽衣いちょう通り店のグロサリー部門で働く宮坂和夫氏(66歳)に話を聞いた。

サミット宮坂氏の写真
サミット 羽衣いちょう通り店 グロサリー部門
宮坂和夫氏

宮坂氏は定年後、65歳まで嘱託社員として働き、現在はシニアパートとして、週4日、午前8時から午後4時半まで売場に立っている。「接客の仕事が好きで、ずっと続けたいと思っています。定年後は精神的、時間的にゆとりができたこともあり、現役時代以上に仕事が楽しいです」と笑顔を見せた。同時に「仕事以外の人との関わりにも時間を使いたい」という希望もかなえ、週2回は日中4、5時間ほど、趣味のテニスに打ち込む。

店では日常業務だけでなく、子ども向けの射撃大会などのイベントを企画・運営したり、翌日が雪予報なら「本日まとめてお買い物を」と店内放送で呼び掛けたりと、創意工夫をしながら働いている。また来店者から要望や意見を出されたとき、「年の功」の人当たりの良さを発揮してうまく応対することもある。

「職場はある程度自由に、やりたいことをやらせてもらえるし、若手と話しやすい風土もあって働きやすい。ここ1、2年は若手に伝えられることがあれば伝えておきたい、という思いも強まり、向こうから話しかけやすい雰囲気を作ることも心がけています」

店長らもシニア活用を歓迎 将来は「75歳以上」も視野に

シニアは同社にとって、単なる「必要数を充足するための人員」ではない。鮮魚や精肉のさばき方1つとっても、熟練者の仕事は美しく、商品として見ばえがする。

「シニアが働き続けられるようになり、本人だけでなく店長や部門長からも『まだまだ働ける人を手放さなくて済む』と歓迎の声が上がっています」と、須合氏は話す。

同社は需要予測型のAI自動発注システムやセルフ精算レジを導入しており、業務の標準化や効率化も積極的に推進している。一方で、シニアの経験に裏付けされた「長年のカン」やお客様に寄り添う姿勢も、業務を行ううえで役立っているという。

しかし、年を重ねれば身体機能の衰えも避けられない。このため65歳以上のシニアパートの場合、契約更新にあたって「商品裏の細かい成分表示を読めるか」「片足立ちを30秒キープできるか」といった簡単なチェックも行っている。結果的に自ら体力の限界を感じて離職する人もいる一方、75歳の上限まで働き続ける人も一定数いるという。

須合氏は「これから健康寿命が延びるなか、いずれ75歳以上まで雇用を延長することも視野に入ってくるでしょう。それに合わせてオペレーションを整えていく必要もあると考えています」と語った。

Text=有馬知子 Photo=刑部友康

須合一樹氏

サミット
人事業務・企画部特命担当