Works 189号 特集 長寿就労社会 定年“消滅”時代、あなたはどう働きますか?

人口減深刻な自治体を救う「支援する側」の高齢者 超高齢地域・飛騨市に聞く

2025年05月26日

岐阜県の最北端に位置する飛騨市は、高齢者が人口の4割を占める「超高齢地域」だ。高齢者も可能な限り働き、支え合う人材を確保する仕組みを作った狙いについて、飛騨市役所市民福祉部地域包括ケア課長の佐藤博文氏と課長補佐の井谷直裕氏に聞いた。


飛騨市の人口は約2万1900人で、65歳以上の高齢者の割合は40.4%を占める(2024年6月時点)。64歳以下の世代が減少するなか、市内の介護施設では職員の高齢化に伴って介護サービスの維持が困難になりつつある。在宅介護も、今いるヘルパーとケアマネジャーの数では、東京23区よりも広い市内を回り切れない。高齢者を支える人材の確保は長年の課題だ。

そこで飛騨市は、元気な高齢者に働いてもらうためのさまざまな仕組みづくりを模索してきた。

まず手を付けたのが「介護の仕事の仕分け」だ。「専門職でないとできないこと」と「それ以外のこと」に分けてみると、「食事介助や入浴介助、排泄介助など『プロしかできないこと』以外に、部屋の掃除や食事の片付け、話し相手など『プロでなくてもできる生活支援』に分類できる仕事があることがわかったのです」(佐藤氏)。

市はこの知見をもとに、市民を対象にした「飛騨市支えあいヘルパー養成講座」を2017年から計12回開催し、2024年7月までに156人が受講を修了した。受講者のうち、60代は36人、70代は63人、80代は26人と、60代以上が全体の4分の3以上を占めた。このうち、介護施設や在宅介護で生活面の介助をする「支えあいヘルパー」として雇用されたのは35人で、60代から70代後半が多い。佐藤氏は、「受講者からは、『家族の介護が終わったので学びたい』『健康のために外で働きたい』という声がありました」と話す。

支えあいヘルパー養成講座の様子「支えあいヘルパー養成講座」は、古川町や神岡町で開催され、基本理念や認知症の理解、コミュニケーションスキルなどを学ぶ。

さらに市は、40歳以上の市民を対象に、介護支援のためのボランティアも募集した。介護施設でのお茶出しや移動の補助、歌や楽器の演奏のほか、在宅の高齢者の買い物や病院などへの送迎を担当してもらい、仕事に応じてポイントを付与。ポイントは貯めて商品券に交換できる。2025年1月現在、同市内での登録者数は317人に上っている。

支え合いの人材確保の仕組みが一定の成果を出してきた一方で、「支え手のなかでも、これまで地域をまとめてきたキーパーソンが、高齢化に伴って活動が難しくなってきている現状があり、今後、どうやって新たな人材を掘り起こすかが課題になっています」(井谷氏)。

2024年11月からは、デイサービスに通う高齢者に、飛騨地方に伝わる人形「さるぼぼ」づくりを試験的にお願いしている。主な作り手は70代から80代の女性で、全員が要介護または要支援の認定を受けている。「デイサービスで『お風呂に入って、童謡を歌って終わり』ではなく、働ける人には働いてもらい、生き生きと過ごしてほしいのです」(井谷氏)

人形を作って地域のお土産として販売されれば、売れた喜び、さらにその収入でデイサービスのおやつを購入できる喜びがあり、井谷氏は「デイサービスになじめないこともある高齢男性についても、地元企業と相談して仕事を探しているところです。何歳になっても、『社会で必要とされている』と思えることは、その人の生きがいにつながるのではないでしょうか」と強調した。

「さるぼぼ」づくりの様子「さるぼぼ」づくりの取り組みは、利用者の生きがいの創出が第1の目的だが、利用者同士が作業を助け合うことで、介護職員の技量が重要なレクリエーションなどの負担が少なくなり、介護職員が減ったとしても質を保って運営できるのではないか、という考えがベースにある。

Text=川口敦子 Photo=飛騨市提供