Works 189号 特集 長寿就労社会 定年“消滅”時代、あなたはどう働きますか?

NEC 適材適所とキャリア自律で年齢にかかわらず活躍できる場を

2025年05月19日

課題山積のシニアとミドル施策。先行して対策を講じる企業の人事トップに、現在と未来のビジョンを聞いた。


ミドルシニア関連の施策では、役職定年の廃止や雇用延長制度の改定など、年齢にかかわらず社員が活躍できる仕組みを導入してきています。ただし、これらはミドルシニアのための施策として作られたわけではなく、10数年前から進めてきた全社的な変革の流れの一環として生まれてきたものです。

NECでは、2000年代から2010年代半ばにかけて業績低迷が続き、会社の存続そのものへの強い危機感を持ってビジネスモデルの大転換を図ってきました。2013年以降、第3の創業として社会価値創造型企業への変革を打ち出し、2018年からは実行力の改革として「Project RISE」を始動。これまでのように同質性の高い組織では会社を変えることはできないと考え、多様性を取り入れて「人」の力を最大限に引き出すため、本格的に人事制度をはじめとするカルチャーの変革に着手しました。

以来、外部人材を積極的に登用するほか、グローバル基準の評価の仕組みを取り入れ、社員へのフィードバックを徹底しています。さらには、従来の社内の人材公募制度を大幅に拡充した「NECGrowth Careers」を導入したり、社員のリスキリングやキャリアカウンセリングを手がける専門会社「NECライフキャリア」を設立したりと、矢継ぎ早にさまざまな仕組みを構築してきました。2024年には、いよいよ全社員にジョブ型人材マネジメントを導入し、2025年4月からはグループ会社含む6社で展開します。社員のキャリア自律を前提とした「適時適所適材」の実現を目指しています。

徹底的に年功を排除し ジョブマッチングを推進

年齢などの属性にかかわらず多様な人材が活躍できる環境づくりを進めるなかでも、ミドルシニアのキャリア自律支援には特に力を入れています。2030年度までに、当社国内グループにおいて60歳の定年年齢に達する社員は2万人以上、約30%に上ると想定しており、シニアの活躍なくして会社の成長は望めません。一方で、過去の我々の組織カルチャーに長く触れていた世代でもあり、主体的なキャリア形成に向けて意識を転換していくことが極めて重要です。

現在は、社内の人材公募の仕組みである「NECGrowth Careers」を活用して、年齢にかかわらず、誰もが自由にやりたい仕事に挑戦できるようになっています。定年後の再雇用は最大70歳まで延長し、再雇用者向けの公募制度も導入しています。

また、56歳で実施していた管理職の役職定年も廃止しました。もともとは役職定年により新陳代謝が進むことを期待していましたが、実態としては在任者が56歳になるまでポジションが空かないといった事例も生じていました。年齢にかかわらず最もふさわしい人を適時適所適材で登用するようにしたところ、56歳以上で管理職に復帰した人や、逆に20代で管理職になる若手も出てきています。

主体的にキャリアを形成するためのサポートも行っています。ミドルシニアに向けては、40代後半、50代前半、50代後半にキャリア研修を行うほか、NECライフキャリアのキャリアアドバイザーとの面談やジョブマッチングのサービスも随時受けることができます。スキルアップのために必要なリスキリングの仕組みも用意しています。

NECの人事・組織改革の全体像NECの人事・組織改革の全体像出所: NEC

個人としても会社としても 活躍できる場を探し続ける

人事の基本的な考え方は、適切な目標を立てて適切な評価を行い、年功ではなく、活躍できる最適な人材を登用することです。これを徹底して常に新陳代謝していかなくては、組織の成長が止まってしまいます。

そこで大切なのは、評価の低い人にもきちんとフィードバックを行うこと、そして活躍できない人をそのまま放っておかないということです。評価が低くなってしまう要因は、今の仕事とのミスマッチにあるのかもしれず、別の職場に移れば活躍できる可能性は大いにあります。近年、当社のエンゲージメントスコアは上がっていますが、自分に合った仕事に就き、活躍を評価され、適切に報酬を得られる人が増えたことも影響していると思います。常に人材が流動し続けていくことが、重要だと考えます。

今のミドルシニアの社員を見ても、非常に優秀な人が多いと感じます。ただしビジネス環境がどんどん変化するなかでは、自分が最も活躍できる場所を常に探し続けていくことが欠かせません。

その意識を持って活躍している社員も出てきています。50代後半で研究職からキャリアアドバイザー職に転身した女性社員は、研究を通じて「働く人の幸せ」に関心を持ったことをきっかけに、リスキリングして職種転換を図りました。また、20年以上当社のレガシーシステムの開発に携わりながら、オープン系技術の知識も身につけてきた50代の男性社員は、現在は販売促進部門で、システムのモダナイゼーションを図る顧客への対応に、幅広い技術知識を生かして活躍しています。会社としても社員のキャリア自律を支援し、このような主体的にキャリアを築いていくミドルシニアを増やして、その存在を多くの社員に示していきたいと考えています。

日本全体で少子高齢化による人口減少が進み、労働力不足が問題となるなか、今後は社会全体で適時適所適材の仕組みを構築することが必要になるでしょう。我々自身がその先進的な事例として、常に新陳代謝する組織であり続けるよう努めていきます。


Text=瀬戸友子 Photo=NEC提供

堀川大介氏

NEC
執行役 Corporate EVP 兼 CHRO 兼
ピープル&カルチャー部門長