Works 189号 特集 長寿就労社会 定年“消滅”時代、あなたはどう働きますか?

サイボウズ 2006年から年齢に関係なく100人100通りのマッチングを実践

2025年05月19日

課題山積のシニアとミドル施策。先行して対策を講じる企業の人事トップに、現在と未来のビジョンを聞いた。


サイボウズでは一人ひとりの個性を重視し、人事施策においても100人100通りのマッチングが基本です。多様な個性を石垣のように組み合わせてチームを作っているので、自分はチームに対してどんな貢献ができるのか、誰もが常に向き合い続ける必要があります。基本的にチームがその人を必要とし、個人とチームの契約が成立すればいいのです。

マッチングが成立する限り、何歳であっても働き続けることができます。2006年に「定年なし」を明確に定め、会社の成長とともに資産形成ができる従業員持株会制度は充実させていますが、退職金もなく、長く働くことこそ貢献という考え方ではないのです。

給与は、仕事内容と貢献度によって決まります。いわゆる職能等級にあたるものはなく、職種ごとに求められるスキルレベルと報酬レンジを定めています。社外の賃金相場も参考に給与レンジの調整をすることはありますが、全員の給与を一律に上げたり下げたりはしません。メンバーのキャリア自律を支援する観点からもこれが適切と考えています。

当社では若手が多かったこともあり、60歳を超えて働く社員の例がほとんどなく、定年制の是非が話題になることはありませんでした。定年の議論が出たのは、50代以上の従業員も増えてきた最近のことです。しかしこのとき、改めて処遇のあり方を見つめ直し、100人100通りのマッチングを貫くことを確認して進めています。

加齢に伴う体力の衰えが原因で、結果的にアウトプットが落ちてしまうことはあり得ますが、これは年齢差よりも個人差が大きい。自らの状況に合わせて仕事のサイズを変えるなどして、最終的にチームとマッチングすれば問題はありません。

マッチングが成立するように 企業も個人も努力していく

人事としては、多様な働き方ができる環境を整えたり、業務の範囲を区切って応募しやすくしたり、自主的にスキルアップできる場を用意するなど、マッチングの可能性が広がるように努めています。同時に個人の側も、サイボウズで長く働きたいのであれば、常にマッチングが成立するように頑張ってもらいたいと思います。逆にマッチングが成立しなければ、年齢にかかわらず関係は終わりとなります。必ずどんな関係も終わりが来ますし、関係性は変わり得ます。それを社員も認識し、行動する必要があります。

そもそもこれらの仕組みは、チームとして成果を出しながら、多様なメンバー一人ひとりが幸福に働けることを目指して取り入れてきたもの。理想に向けて皆が努力してきたから今があるわけで、単に「自由な働き方ができる」面ばかりが注目されるのは違う。何のために年功にとらわれない仕組みになっているのか、新しく加わったメンバーにも理解を深めてもらえるように、最近ではマッチングのポリシーを言語化したり、各種制度が成立した経緯を紹介したりしています。

運用にあたっての課題もあります。評価については、各部門のマネジャーによって判断にばらつきが生じることもないわけではありません。人間のやることですから、年齢に対する無意識のバイアスから完全には自由になれません。

それでも年齢を理由に一律の基準を押し付けるのは、メンバーの自律性を奪うことになりかねません。人事としても、マネジャーに伴走するなどしてさまざまな手を打ちながら、100人100通りのマッチングを今後もさらに追求していきたいと考えています。


Text=瀬戸友子 Photo=今村拓馬

中根弓佳氏

サイボウズ
執行役員 人事本部長