Works 189号 特集 長寿就労社会 定年“消滅”時代、あなたはどう働きますか?

求む50代以上エンジニア 「レガシー」技術スキルにも需要増

2025年05月26日

人材サービス企業のエイジレスは、ミドルシニアのIT人材と企業のマッチング事業を展開している。代表取締役の小出孝雄氏に、50歳以上の人材が活躍し成果を生み出すためには、個人と企業、法制度、それぞれに何が求められるかを聞いた。


同社は主に50代以上の就労を支援しており、これまでの登録者は約1万人に上る。小出氏は「IT技術者に関しては、50歳以上の採用が確実に増えています」と話す。

事業を始めた2022年当時は、顧客企業の開拓に行くと、「若い人材のほうがニーズがあるのでは」と勧められることもあった。しかし今や同じ企業が、ミドルシニア採用を始めるといった変化も起きている。

「多くの企業がDXを進める一方、現役世代のIT人材は減り、人手確保のためミドルシニアを採用せざるを得なくなった面は確かにあります。しかしそれだけではありません」

企業のニーズが特に高いのが、基幹システムなどで使われるプログラミング言語「COBOL」のような、1960~1970年代に主流だった技術を扱える人材だ。これらの技術はいずれ新しい技術に置き換わるといわれてきたため、若手にスキルが継承されてこなかった。しかし予想に反して今も多くのシステムで使われ続けており、維持管理のためこうした「レガシー」技術が不可欠となっている。

小出氏らは創業直後、スタートアップと求職者をマッチングしようとしたが、あまりうまくいかなかったという。求職者は、スタートアップの求める最先端の技術に追いつくのが難しいうえ、若手主体のカルチャーにもなじみづらかったのだ。そこで注目したのが、レガシー技術を求めるSIerやITコンサルティング企業だった。

「求職者は大手IT企業やメーカーの技術者が多く、それなりの規模を持つ組織の一員として働くことに慣れています。中堅企業に顧客の軸足を置くようになって、マッチングの成功率が高まりました」

「御曹司」のレッテルに苦悩 年齢への偏見をはがす

小出氏が同社を興したのは、老舗企業「桃屋」の創業一族に生まれたことが強く影響している。

「子どものころから、『御曹司』というレッテルを貼られてからかわれることが多く、とても嫌な思いをしてきました」

生い立ちに関係なく力を発揮できる場で働きたいと、公認会計士の資格を取り大手監査法人に入社した。起業を模索し始めたときも「事業を通じて社会に存在するさまざまなレッテルをはがしたい」と考え、最も大きなレッテルの1つである年齢に着目した。

「日本社会は他人を判断するときも、自分が行動するときも年齢に縛られがちで、若者と高齢者の間に、不要で不毛な分断も生まれています。ジェンダーレス、ボーダーレスに加えて『エイジレス』が必要だと思ったのです」

ただ企業全体としてミドルシニアには余剰感があり、とりわけ専門領域を持たない人材の転職支援はハードルが高い。専門性の高いIT技術者に特化すれば事業成長の可能性が高まると考え、今のビジネスに行きついた。

しかし技術者であっても、ミドルシニアの転職のハードルは若手に比べればはるかに高い。同社を通じて転職に成功した人のなかには、それ以前に約200社から断られた人もいる。求職者が企業に選ばれるには、何が必要だろうか。

「40代のうちに、ITでもたとえばインフラなど、専門領域を作っておくことが重要です。またインフラなら固定のコンピュータだけでなくクラウドもある程度扱えるなど、専門領域内の新しい技術も一通り知っておくとベターです」

もう1つ大事なのは「どのポジションにいても、手を動かしておく」ことだ。企業が求めるのはプレーイングマネジャー的な人材だが、管理職として指示を出すだけだと、数年でスキルは確実に落ちる。このため、「手を動かさないうえに年収も高い部長級は、転職が難航しがちです」。

逆にいえば文系であっても、専門領域と現役の腕という2つの要件を満たす人材、たとえば最前線に立つ営業人材などは、転職の可能性が広がるという。

選考にあたっては、68歳のキャリアコンサルタントが面談指導も行う。

質問から外れた内容を長々と話す人もいるため、「結論ファーストで簡潔に話しましょう」といったアドバイスが有効なのだ。「『エイジレス』の考えからは外れますが、少し年上のコンサルタントから言われたほうが、年下の社員が話すより説得力が高まるようです」

年収の高望みは禁物 「若いほど有利」も事実

年収を高望みしすぎないこともポイントだ。若い世代は、転職によって年収アップも見込めるが、ミドルシニアの場合は下がることのほうが圧倒的に多い。

「まずは、自社で再雇用された場合の年収を把握することが大事です。たとえば60歳で年収が1000万円から400万円に下がるなら、50代後半で年収800万円の企業に転職し、65歳まで働いたほうが生涯年収は高くなります」

採用の際はスキルベースで報酬を決めて契約することが多いため、50代後半で働き始めて定年を迎えても、一般的な再雇用のように一律で大幅に年収が下がることは少ない。ただ現役世代と同様、評価に応じて変動することはあり得る。

同社の登録者のなかには、ネイティブレベルの英語力とプロジェクトマネジメントのスキルが評価され、70歳で月収100万円のオファーを得た人もいる。しかし残念ながら「1歳でも若いほうが転職しやすい」ことも事実だ。求職者のボリュームゾーンは57、58歳だが、60歳を超えると年を追うごとに転職は難しくなってしまうという。

「50代後半で『定年したときに備えて準備したい』と当社を訪れる人もいますが、それは危機感がなさすぎます。『65歳までの年収確保を考えるなら今、動き始めたほうがいい』と勧めることもあります」

また企業内では、経営層と人事と事業部のどこかに年齢への偏見があると、採用が止まってしまうという。現場の30代のマネジャーが『50代は使いづらい』と反対したり、数年後には再雇用になる人材の採用に、人事が難色を示したりするケースだ。また人事制度が年功的に運用されていると、既存社員との整合性などを考える必要が出てくるため、採用が進みづらい傾向もある。

企業側の年齢差別は、法的には禁じられている。しかしキャリア採用市場の現在地は法律と乖離しており、求職者の年齢は事実上、企業側に開示されている。小出氏はこのことが差別を助長する一因だとして、年齢の非開示を徹底すべきだと主張した。さらに障害者雇用のような、「法定雇用率」の適用も検討すべきではないか、とも提案した。

「企業の自発的意思に任せていては、採用を増やそうとしても限界があります。年金支給年齢のさらなる引き上げも予想されるなか、ある程度強制力を持ってシニアの雇用を守るべきではないでしょうか」

Text=有馬知子 Photo=今村拓馬

小出孝雄氏

エイジレス
代表取締役