Works 189号 特集 長寿就労社会 定年“消滅”時代、あなたはどう働きますか?
中小企業で求めらえるシニア人材とは 鍵は現場と同じ目線で
三田電気工業と奥野氏をマッチングした「右腕人材プログラム」。戦略マネージャー、亀井芳郎氏に、大手企業で働くシニア人材が活躍する処方箋を聞く。
内閣府プロフェッショナル人材事業は、各道府県の拠点が副業に積極的な提携の大企業から副業人材の紹介を受け、経営課題を持つ中小企業にマッチングするスキームだ。亀井氏は兵庫県プロフェッショナル人材戦略拠点で、大手企業を定年退職した人などを中小企業に常用雇用で紹介する「プロ人材」事業を2015年からリードしてきた。「しかし、いきなり転職すると現場でハレーションが起きてすぐに離職するケースが多くありました。そこで、月に1、2日程度、副業で中小企業を支援する『右腕人材プログラム』を始めたのです」
右腕人材の出身母体には、川崎重工、富士通、YKK、サントリー、AGC、キーエンスなどの大手企業が並び、派遣実績は約50社に上る。
派遣先となるのは、主に従業員50人以下の企業だ。「従業員が100人もいるような企業では、資金、ノウハウ、人材というリソースがあって、自力で生産性を上げられるからです。50人以下の企業はリソースが限られ、経営者は孤軍奮闘を強いられています」
亀井氏には苦い経験がある。アパレル製造小売りの副社長として経営計画の立案に携わってきたものの、いざ自分が社長となり経営不振に陥ったとき、何をすればいいかがわからず眠れない日々を過ごした。正しい戦略とは何かを知りたくてコンサルタントにも頼ったが、解が見えることはなかった。
「社長を退任後、中小企業診断士、MBA、博士号を取得しましたが、戦略とは仮説にすぎず、戦略をコンサルタントに教えてもらうだけでは意味がないとわかりました。中小企業で必要とされる支援は、現場が主体的に課題出しをし、現場目線で対策を立て実行することに伴走すること。それが右腕人材プログラムの最大のポイントです」
課題をともに抽出しコミュニケーションの地ならしをする
しかし、大企業を経験したすべての人材が右腕人材になれるわけではない。亀井氏は、ベースとしてコミュニケーション能力が必須だと説く。「大企業で評価されてきた人も多く、自分がやってきたことを半ば上から目線で教えようとします。まずは圧倒的に規模が違う会社では自身の経験がそのままでは通用しないことを理解し、相手の言葉に耳を傾けることが求められます」
50代以上で管理職経験が長くなると、現場の感覚をなくしていることも課題だ。「右腕人材は、現場と同じ目線で一緒に考えることが求められるので、現場の試行錯誤や苦労を知らなければ信頼関係が構築できません」
こうしたコミュニケーションの問題を乗り越えるため、右腕人材プロジェクトには、亀井氏自身の博士論文をベースに考案した「課題抽出プログラム」が織り込まれている。
その仕組みはこうだ。契約前に、右腕人材候補2人と現場の社員が課題の抽出に取り組む。現場の社員が会社の強みと課題を書き出す。全員の意見をまとめて課題の優先順位を決め、右腕人材2人がそれぞれ課題解決プランを提出。このプロセスとプランを踏まえて、いずれかの候補者を受け入れ側が選び契約、ともに課題解決に取り組む。右腕人材候補には、このプログラムを実行するためのスキル、マインドセットなどをトレーニングするという。
同時に、中小企業側の受け入れ体制も整う。「課題が明確になることで、自社にどんな人材が必要かもわかります。一緒に課題を抽出した人材とともに解決策を実行していくので、地ならしができている状態からスタートできます。シニアの活躍と中小企業の経営改革の両方を実現するには、丁寧に進める必要があるのです」
Text=入倉由理子 Photo=亀井氏提供

亀井芳郎氏
ひょうご産業活性化センター
兵庫県プロフェッショナル人材戦略拠点
ひょうご専門人材相談センター
戦略マネージャー