Works 189号 特集 長寿就労社会 定年“消滅”時代、あなたはどう働きますか?
佐藤尚之氏はなぜ50代以上コミュニティ「グッド・エルダーズ」を作ったのか

50代以上の社員が社内でやる気を失っていく……そんな企業は珍しくない。そんな中高年に向けて、佐藤尚之氏は「good eldersであろう」と呼び掛け、当事者たちのコミュニティを設立した。その狙いを聞いた。
今、私は63歳ですが、電通時代の同年代たちが年齢を重ねてしょぼくれていく姿を見てきました。2024年に日本の50歳以上は人口の5割を超え、65歳以上も3分の1を超えています。中高年になると新しいテクノロジーに追いつけなくなり、会社でも経験値を生かしにくくなります。若い社員から見れば、やる気や希望を失った50、60代がいる会社で働きたいと思うわけがありません。
そこで立ち上げたのが、50歳以上のコミュニティ「グッド・エルダーズ」です。50代以上になっても希望ややる気を失わず、若い世代から「あんな年の取り方をしたい」「人生楽しいのかも」と思われるには、2つの軸を持つことが重要です。
1つ目は、目標設定をすることです。会社で役に立たなくなるのは、目的を失ってしまうから。複業をするなどして次の目標を持っていれば、今働いている会社でもちゃんと役に立ちたいとスイッチが切り替わります。新しい目標を持つためには、今までの価値観をきちんと終わらせることが必要です。50歳半ばで役職定年を迎えるならその価値観を終わらせなくてはならない。これまでの価値観を棚卸しし、自分が大事にしている価値観を見つめ直すこと。そうして初めて、何をやりたいのかが見えてくるのです。
とはいえ、これまでの価値観を終わらせるのは難しい。そのために「ニュートラルゾーン」に身を置き、新たな人々との出会いが必要になるのです。
会社のなかで役職定年や再雇用で急に自分の価値が下がってしまうように感じるのは、ニュートラルゾーンを経ずにいきなりその時期を迎えてしまうから。再雇用の前から、いろんな仕事に複業などで挑戦しながら、生きがいを探していくのでもいいでしょう。本来であれば企業側も、再雇用前に、ニュートラルゾーンを設計すべきだと思います。新しいスキルを身につける機会も与えずに働かせている。仕事を辞める前に50代のモチベーションを上げることができれば、相乗効果として30代、40代の社員のモチベーションも上がります。
もう1つの軸は、幸せに生きることです。『グッド・ライフ』という本にもありますが、幸せに生きるための条件はよい人間関係を持つことに尽きます。目標ができて何かをやろうと思っても、出会いの場もなく、人とのつながりを失ったならば幸せにはなれません。私たちのコミュニティでは、まず自分は何がやりたいのか、コーチングやワークショップを通じ自分で目標を見つけます。そのうえでコミュニティのつながりを利用して、その目標を実行できるようにします。
150人ぐらいから始まったコミュニティですが、紹介制で少しずつメンバーを増やし現在は約400人、2025年中に500人を目指しています。メンバーは50代が6割、60代が3割弱。約120のグループがあり、メンバーがそれぞれ好きなグループに参加しています。グループのテーマは、実家じまい、介護、移住、俳句、サウナ、沖縄などさまざまで、死を考えるデスカフェやファイナンシャルプランナーを呼んでの老後資金に関するイベントも開催しています。コミュニティを通して一人ひとりが目標を見つけ、それを実行していくのです。
このコミュニティは僕にとっての若者貢献でもあります。若者世代の不安の1つは、自分が高齢者になったときを考えると希望を見出せないこと。そこを変えていければと思っています。
Text=横山耕太郎 Photo=佐藤氏提供

佐藤尚之氏
グッド・エルダーズ
コミュニケーション・ディレクター
1985年に電通入社。コピーライター、CMプランナー、ウェブ・ディレクターを経て、コミュニケーション・ディレクターとしてキャンペーン全体の構築に従事。『ファンベース』(ちくま新書)、『明日の広告』(アスキー新書)など著書多数。