Works 196号 特集 人事のダイエット

ポーラ/オルビス|人事戦略のシンプル化で「ムリ・ムダ・ムラ」の排除

2026年06月16日

ポーラ・オルビスホールディングス傘下のオルビスは、作り込まれた人事評価制度を見直してシンプルにした結果、成果を出した社員が評価される仕組みが機能し始めた。当時、HR統括部長として人事制度改革を牽引したポーラHR本部本部長の岡田悠希氏に、改革の経緯などを聞いた。

岡田悠希氏

ポーラ
HR本部 本部長
岡田悠希氏


オルビスは2018年、「第二の創業期」としてリブランディングや構造改革に着手した。同年、ポーラからオルビスに出向した岡田悠希氏は「新たな事業戦略を実行するには、社員も前例踏襲型の働き方から脱し、挑戦するマインドを持つ必要がありました」と説明する。
 
そこで、コンサルティング会社の力も借りて、成果を重視した人事評価制度を導入した。11項目のコンピテンシーを5段階で評価し、インセンティブも細かく設定するなど、有効だと思われる要素をすべて盛り込み、当時は「理想的な制度ができた」と、自信を持ってリリースしたという。
 
しかし運用開始から1年、2年と時が過ぎても、制度はあまり有効に機能しなかった。管理職による業務目標の設定とその評価は「年中行事」化して漫然と行われ、社員の行動変容や、挑戦する企業カルチャーの醸成にはなかなかつながらなかったのだ。

「評価の仕組みが難しすぎて、社員は『何をすればどれだけ報酬が上がるのか』を理解できず、管理職の評価も形骸化してしまっていました。制度がトゥーマッチで、運用しきれなかったのです」
 
このため岡田氏らは制度を再度見直し、「ムリ・ムダ・ムラ」をなくすことに取り組んだ。11項目のコンピテンシー評価をやめ、行動評価についてはオルビス行動指針の「お客様目線」などの項目を実践できているかについて、◎、〇、△をつける形へと大幅に簡素化した。これによって、評価にかかる手間や時間といったコストを削減すると同時に、報酬と紐付けることで社員が行動指針を意識して動くようになり、企業カルチャーの醸成にもつながった。
 
岡田氏は制度の見直しを行うにあたり、マネジメントや採用の知見を持つ社外の専門家にメンター役を依頼し、指摘を受けながら進めていった。

「社外の専門家から施策の目的や成果を問われ、うまく答えられないこともありました。こうした『壁打ち』が、施策の必要性を改めて考えるきっかけとなり、無駄をなくすことにつながったと思います」

業務目標の設定に力点 業績へのインパクト重視へ

シンプルな行動評価を導入する一方で、「業務目標の設定とその評価は緻密に行い、報酬との連動性も強めて、成果を出した人が報われる仕組みにした」という。


従来は、個人ごとにすべての業務に対して目標を設定していたが、見直し後は事業戦略に合致し、業績に与えるインパクトが大きい3つの業務に絞って目標を設定するようにした。

「この結果、ルーティンワークなどは評価の対象外となりました。さらに企画などの定性的な仕事も、プロセスではなく内容が実現した時点で、業績に及ぼした成果を評価する、と定義を明確化しました」


岡田氏と担当役員は、全社員の業務目標が的確かどうかをチェックし、評価者である管理職にフィードバックした。

「はじめはこんなにシンプルな仕組みでいいのかと思いましたが、成果重視の評価は結果的にうまく回っていくようになりました」

それまでは経営陣が新たな事業戦略を示しても、評価制度が複雑なために管理職がそれを業務目標に落とし込めず、戦略と現場の業務に食い違いが生じていた。しかし制度をわかりやすくしたことと岡田氏らのサポートの結果、管理職が適切な業務目標を設定できるようになり、現場でも戦略に沿った施策が進むようになった。

「付加価値を生み出す人材を評価するようになったことで、社員も自分は何をすべきかが明確になり、『挑戦が評価につながる』という認識が浸透し始めました。評価されないルーティンワークを見直し、業務のムダをなくすことにもつながっています」


ただ管理職のなかには、マネジメントのやり方を変えられない人も一定数存在した。このため部長クラスは、ポストオフや配置転換などによって、3~4年間で9割が入れ替わったという。若手社員にも、成果重視の戦略をチャンスと捉える人がいる一方、「従来のオルビス」への愛着から変革に不安を抱き、離職する人もいた。また岡田氏自身も当時を振り返ると、社員の気持ちに配慮したメッセージが不十分だった、という思いがある。

「新卒採用の基準を抜本的に変えるという施策を、既存の採用基準で入った自分たちへの否定と捉えた社員もいました。過去を打ち消してでも、改革を断行するといったイメージを与え、不要な不安を抱かせてしまったと反省しています」

ポーラでも人事改革 評価スキル向上が課題

オルビスに続いてポーラも2025年、人事制度改革をスタートさせた。岡田氏は同年7月、ポーラに戻り、まずは新たな人事評価制度の「スリムアップ」に取り組んでいる。運用面でも、業務目標が事業戦略と合致していなかったり、権限や裁量を超えた目標が設定されていたりするケースが見られ、取り組むべき課題は多いという。

「たとえば新商品のローンチには、広告や営業など多くの人間が関わっており、商品企画の担当者に販売関連の目標を課しても、本人の努力だけではどうにもならない。その人の裁量に合わせた目標を設定する必要があります」
 
このためオルビスと同じように、管理職に対する業務目標のフィードバックや管理職の手前の人材に対する研修などを通じて、評価スキルの向上に取り組んでいる。ただし、ポーラはオルビスに比べて組織の規模が大きいだけに、制度の見直しなどに関する合意形成も、より丁寧に進める必要があるという。

「オルビスは役員が少なく、比較的カジュアルに物事を決められましたが、ポーラでは多くの経営陣からさまざまな意見が出されます。経営層とのコミュニケーションでは、改革の目的とゴールを提示したうえで、今議論すべき点を明確化するようにしています」
 
オルビス時代の反省から、社員との対話も重視している。2025年12月、全社員に人事戦略を説明したときも組織の歴史に対するリスペクトを伝え、制度改革は過去を否定するものではないと強く訴えた。

「社員の感情を無視して施策を実行しても、結局はハレーションを招き、改革が円滑に進まなくなってしまいます。急がば回れで、多くのメッセージを発信し表現にも気を使うことが大事だと学びました」
 
オルビスとポーラの改革には、一度作った制度に固執せず、うまくいかなければ見直すフットワークの軽さがうかがえる。たとえばオルビスでは人材育成に関しても、2018年に等級別の研修を廃止した後、コンテンツを社員が任意で学ぶ方式や、全社員に研修を義務付ける方式などを導入して試行錯誤を重ね、現在は管理職手前の社員など、対象を絞り込んだ育成に軸足を置いている。
 
過去の失敗から学び、制度をアップデートし続ける柔軟さも、組織の強みといえそうだ。



Text=有馬知子 Photo=刑部友康