Works 196号 特集 人事のダイエット
人事の「体脂肪」調査:人事に関わる環境、戦略、施策に潜む無駄
確実にある人事と現場のギャップ、戦略性の無駄への影響
人事・労務の部課長と、それ以外の現場の部長を対象に、人事領域のさまざまな活動に対してどのような無駄を感じているのか調査を実施した。その結果が下記のグラフだ。無駄の上位・下位ランキングは。どんなところに人事と現場のギャップがあるのか。現場の把握からスタートしたい。
【調査概要】
■調査方法:インターネット調査
■調査期間:2026年3月9〜12日
■有効回答数:242人(人事・労務の部課長以上154人、それ以外の管理部門や事業の現場の部長以上88人)
■回答者所属部門
人事・労務部門(人事・採用・人材開発・組織開発部門、労務部門)
その他部門(社長室、経営企画・事業企画部門、総務部門、経理・財務部門、広報・宣伝・IR部門、調査・マーケティング部門、購買部門〈購買・資材など〉、製造・生産部門、営業・販売部門、情報システム部門、研究・開発部門、その他)
■回答者年齢:30代〜60代
■回答者勤務先従業員数(連結)
1,000〜1,999人:16%
2,000〜4,999人:23%
5,000〜9,999人:13%
10,000〜19,999人:14%
20,000人以上:33%
※データは四捨五入のために100%にならないことがあります。
調査設計協力・分析協力・執筆=吉川克彦氏(大学院大学至善館 学術院長 教授)
[図表1]人事の「無駄」の選択率と選択率順位(人事・労務、その他)※クリックすると大きく表示されます
【調査の設計と回答者】人事の幅広い項目で「無駄」を俯瞰的に捉える
人事のダイエットを論じるにあたり、まずはどこに無駄があるのかを調査によって探ることにした。調査の内容は、人事に関わるさまざまな活動について60の項目を設け、それぞれについて、投下されている資源(ヒト、モノ、カネ、時間)は「適切」か、それとも、期待される成果に対して過剰な資源が投じられていて「無駄がある」かを聞くものだ(なお、当該の活動に知見がなく判断できないこともあろうと考え、これらに加えて「わからない」を選択肢に含めた)。
採用、配置・評価・登用、育成・組織開発、報酬・福利厚生など幅広い項目を設けることによって、人事の各領域を俯瞰的に捉えることを狙った(項目の詳細については図表1参照)。これに加えて、人材マネジメントの方針や優先順位、施策の見直しに関する項目を3問(HRM方針・優先順位の見直し、経営者の優先順位が明確、人事が常に制度などを改廃)設け、1. まったくそう思わない〜5. とてもそう思う、の5段階で聞いた。人事の戦略性が無駄の有無に与える影響を分析することが狙いだ。
[図表2]人事部門の所属人数(連結)
国内の企業(連結での従業員規模が1000人以上)で働く管理職を対象にインターネット調査を行い、不良回答が疑われるサンプルを排除し、人事・労務部門で働く管理職(部長・課長)154名、その他の現場や管理部門で働く管理職(部長)88名からの回答を分析対象とした。
回答者の属性としては男性が94%、年齢は50代が中心(55%)、勤続年数は21年以上が過半であった(69%)。所属企業の産業は製造業(31%)、金融・保険(14%)、IT・通信・ソフトウェア・メディア・広告(13%)、卸売・小売・商社(8%)など、幅広い産業分野を含んでいる。また、連結での従業員規模別の人事・労務部門(HRBP含む)の所属人数の集計値(参考値)は図表2の通りだ。
【全体傾向】人事・労務の3割、その他の4割は「人事にあまり無駄がない」
最初に、各回答者がどの程度、人事の諸活動に無駄を見出しているかを概観する。回答者ごとに、60個の設問のうち何項目について「無駄がある」と回答したかをカウントし、その分布を0〜9項目、10〜19項目というように10区切りで群に分けたうえで人事・労務部門、その他部門のそれぞれについてグラフ化した(図表3)。
人事・労務、その他ともに「無駄がある」を選んだ数に大きなばらつきが見られた。最も当てはまる回答者が多かった群は「0〜9項目」であり、人事・労務部門では34%、その他部門では44%がここに当てはまる。回答者の相当数が、人事の諸活動にあまり無駄はないと捉えていることが見て取れる。
一方、60項目中50個以上の項目について「無駄」と回答した人が人事・労務部門では8%、その他部門では2%存在した。人事の諸活動のほとんどの領域に無駄があると考える回答者も少ないとはいえ存在した、ということだ。
なお、図表3においては、人事・労務部門の回答者よりも、その他部門の回答者のほうが「無駄」と回答した項目数が全体的に少ないように見えるが、このデータの解釈には注意が必要だ。というのも、全体的な傾向として、人事・労務部門よりもその他部門のほうが、「わからない」の選択率が高かったためだ。人事・労務部門以外の回答者においては、管理職であっても、個々の項目が捉える人事の諸活動の実態をよく知らないことがあるのだろう。よって、人事・労務部門よりもその他部門の人々のほうが人事の諸活動をより適切だと評価している、と、このデータを解釈するべきではないと考える。
[図表3]無駄と回答した項目数の分布![[図表3]無駄と回答した項目数の分布](/works/special/item/w196_chart3_1-1.webp)
【無駄の所在】人事は採用関連に、その他部門は評価や組織開発に無駄を感じる
次に、項目別の集計に基づいて、人事の諸活動のどこに無駄がありそうかを探る。図表1のグラフに、60項目のうち「無駄がある」の選択率の上位5項目、下位5項目を、人事・労務部門、その他部門のそれぞれについてオレンジ色、青色でハイライトした。
人事・労務部門の回答で、最も「無駄」の選択率が高かったのは、「組織に根付いた慣行、お作法」だった(53%)。次いで、「社員の配置」(48%)、「人事異動」(45%)、「人材採用の形態」(42%)、「募集活動」(42%)、「手当の仕組み、その結果としての個別支払額、支払総額」(42%)が多く選ばれている。
一方、最も「無駄」の選択率が低かったのは、福利厚生に関するものが多く、「医療・健康関連」(16%)、「財産形成支援」(21%)、「食事・通勤関連」(27%)が含まれる。また、「初期配属」(26%)、「入社時に行う導入研修」(27%)についても「無駄」の選択率は低かった。
その他の部門の回答でも、上位3つの項目は人事・労務部門と共通している。「組織に根付いた慣行、お作法」が48%、「人事異動」が44%、「社員の配置」は39%だった。ただし、人事では無駄があるという評価が多かった採用関連の項目の選択率はそれほど高くなく、「能力・行動評価の制度」(38%)、「業績評価の制度」(35%)、「評価の実施・合意形成」(35%)といった評価関連の項目、また、「上司―部下間の対話」(35%)や、「大規模組織での対話・会合」(35%)といった組織開発関連の項目に対して「無駄」を選択した回答が多く見られた。
また、「無駄」の選択率が低かった項目が、「財産形成支援」(8%)、「医療・健康関連」(9%)、「休職・休暇制度」(14%)、「食事・通勤関連」(17%)に集中した点も、人事・労務部門の回答と共通の傾向であった。加えて、「採用に関わる外部パートナーとの連携」(16%)も選択率が低かった。
人事・労務部門とその他の部門の回答で、共通の傾向と異なる傾向がある点は興味深い。共通の傾向として、第1に挙げられるのが「組織に根付いた慣行、お作法」だ。かつては意味があったかもしれないが、今日においては無駄になっている慣行やお作法がそのまま放置され、人々の時間やエネルギーの浪費につながっている組織が多いこと、また、その見直しが困難であることを示唆しているように思われる。第2が、人材の配置と人事異動に関する問題意識が見られる点だ。年功的な登用や配置と、ローテーションに象徴される日本型人事に変化が訪れていることが、こうした問題意識の背景にあるのかもしれない。
異なる傾向としては、人事・労務部門では採用に関する項目の「無駄」の選択率が比較的高かったのに対し、その他の部門では評価に関する項目で選択率が高かったことが挙げられる。新卒・中途採用ともに売り手市場になり、同時に多くの企業が中途採用の比率を高めているという変化のなか、人事・労務部門がそれにうまく適応できず無駄が生じているのかもしれない。その他の部門には、そうした人事・労務部門の問題意識が見えにくいと考えられる。
その他の部門の無駄の回答率が高い評価や上司─部下間の対話については、人事・労務部門が公平性・公正性や人材育成を考えた制度設計を行っているものの、現場から見るとその意図や意義がよくわからない、また、過剰に感じる、といったすれ違いが起きているのかもしれない。実際、フリーコメントでは、人事・労務部門からは「属人性」を無駄の原因として指摘するコメントが、その他部門からは「人事が現場を理解していない」といった指摘が見られた。
【属性による違い】海外売上比率の高い企業で情報管理の困難さが浮き彫りに
回答者の企業が属する産業や、企業規模、資本形態、海外売上比率などによって、上記の60項目への「無駄がある」「適切である」の回答傾向に違いはあるのだろうか。統計的に有意な違いが見られるかどうかについての分析を行った。
まず、企業規模の大小は、単体、連結ともに無駄との間で明確な関係が見られなかった。一方、海外売上比率(連結)が高い企業では、「人事に関するITシステム」「人材に関するデータの管理や整備」について「無駄」を指摘する回答が多い傾向があった。海外現地法人で働く人々が多く、その情報管理が困難であることが、この結果への影響として考えられる。
また、産業や資本形態(外資系VS日系)についても分析を行った。なお、各産業カテゴリーに当てはまるサンプル数が限られ、外資系企業がサンプルも5%と少なく、分析自体の信頼性には限界がある。あくまでも参考としてほしい。
産業については、運輸・物流・交通で「ポストオフや降格の運用」「労働時間管理」に無駄を指摘する傾向が強く、流通・小売・商社で「組織に根付いた慣行、お作法」の無駄の選択率が低いなどが特筆すべき点だ。資本形態では、「自己申告・社内公募」「能力・行動評価の制度」「期待や目標の設定・コミュニケーション」「評価の実施・合意形成」「評価結果のフィードバック」など人材配置や評価に関連する項目で、外資系企業のほうが「無駄がある」の選択率が低い傾向が見られた。
【人事の戦略性】人事の戦略性への評価が高いほど無駄の選択率が低い
最後に、人材マネジメントの方針や優先順位、施策の見直しに関する3つの質問「人材マネジメントの方針や優先順位は、経営や組織のニーズの変化に合わせて、常に見直しがなされていますか(HRM方針・優先順位の見直し、グラフ内以下同)」「経営層から、人材マネジメントに関する優先順位が明確に示されていますか(経営者の優先順位が明確)」「人事部門内で、常に業務や制度、施策の改廃を行っていますか(人事が常に制度等を改廃)」への回答と、「無駄がある」の選択率の関係についても分析を行った。
非常に興味深いことに、これらの3つの項目にポジティブな回答をしているほど、無駄の選択率が低い傾向が、幅広い項目において見られた。全体の傾向を捉えるため、上記3つの項目への回答(1.まったくそう思わない〜 5.とてもそう思う)による、回答者が「無駄」を選択した数の平均値の違いを図示する(図表4)。たとえば「HRM方針・優先順位の見直し」のグラフは、「見直しが常になされているか」に対して「まったくそう思わない」と回答した人の無駄の選択率は33.6%にのぼるが、「とてもそう思う」と回答した人の無駄の選択率は13.7%と3分の1程度まで下がる。同様にいずれのグラフにおいても、右下がりの傾向が確認できる。
[図表4]人事の戦略性による「無駄」の選択率の違い![[図表4]人事の戦略性による「無駄」の選択率の違い](/works/special/item/w196_graph2.webp)
調査対象者全体の無駄の選択率の平均が19.5%だったことを鑑みれば、いずれの項目に関しても「そう思う」「とてもそう思う」と回答した人々、つまり、人事施策と戦略の結びつきがあると感じている人々の無駄の選択率の低さは明らかだといえよう。
上記の属性別の分析結果と、この結果を総合すると、無駄の有無は企業の属性によって大きく左右されるというよりもむしろ、企業による人事の戦略性の違いによって左右される傾向があると考えられる。
調査設計協力・分析協力・執筆=吉川克彦氏(大学院大学至善館 学術院長 教授)
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各種お問い合わせ![[図表2]人事部門の所属人数(連結)](/works/special/item/w196_chart2.webp)
