Works 196号 特集 人事のダイエット

東急不動産|運動会やイベントへの積極投資が創る強靭な組織と一体感

2026年06月16日

多くの日本企業が行っていた運動会などの活動は、日本的な働き方が変容するのに伴い廃れていった。一方、東急不動産はイベントを通じて組織の一体感の醸成に取り組む。その経緯や効果を聞いた。

中村友昭氏(右)奥村佳明氏(中央)森 玲美氏(左)の写真

東急不動産
人事部

人材戦略グループ 兼 経営企画部
グループリーダー
中村友昭氏(写真右)

人事部 統括部長
奥村佳明氏(写真中央)

コーポレートコミュニケーション部
ブランド推進室 議長
森 玲美氏(写真左)


同社が運動会を復活させたのは2022年。コロナ禍で希薄化した社員同士のつながりを取り戻すことが目的だった。加えて2021年、再生可能エネルギーに本格参入するなど事業が多角化し、若手・中堅に占めるキャリア採用者の割合も増えて、業務の性質もキャリアも異なる社員が混在するようになっていた。このため2023年に当時の星野浩明社長(現会長)は「UNITE(団結)」という行動指針を打ち出し、各事業や全社員が一体となって顧客への提供価値を生み出すことで、選ばれ続ける企業を目指そうとした。
 
人事部統括部長の奥村佳明氏は「運動会をはじめとするイベントも、『UNITE』を具現化するための取り組みの1つ」だと説明する。2022年の競技はオンラインで行われたが、閉会式では全参加者約200人が大会議室に集まった。社内のコミュニケーション促進を担当する森玲美氏は「社員が一堂に会したときの熱量は想像以上に大きく、それを目の当たりにして経営陣も、『集まる』ことで生まれるエネルギーの大切さを強く認識するようになりました」と振り返る。
 
そこで創立70周年に当たる翌2023年には、リアルの運動会が開かれた。トップが経営戦略上、必要なイベントだと位置付けたことで「今さら運動会なんて」という社員の抵抗感もほとんどなかったという。当日は、社長や役員、正社員に加え、契約社員なども含めて約240人が参加した。奥村氏は「みんな競技前はクールに構えていたのに、開始の笛が鳴ると本気で勝ちに行く。社員があそこまで熱くなるとは、思いもしませんでした」と回想する。
 
「年次や職位に関係なく、競技に熱中する役員の姿に社員が親近感を抱き、心理的安全性が格段に高まりました。また社員同士も、仕事中は見られない同僚の新たな表情を知る、いい機会になりました」(森氏)
 

東急不動産運動会の全体写真
運動会には社長や役員もプレーヤーとして参加し、社員と力を合わせて勝利にこだわりプレーする場面もあったという。

年齢や部署を越えて交流 多様な事業をまとめる力に

2025年には3~5人の社員がチームを組み、同社が広域渋谷圏内に所有する物件を回って獲得ポイントを競う「タウントレック」や、物件巡りとクイズを組み合わせて地域を深掘りする「謎解きイベント」も行われた。
 
「『広域渋谷圏』は、東急グループが重点開発をしている地域です。経営戦略上重要なエリアを楽しみながら知り『自分ごと化』することが、狙いの1つでした」(奥村氏)
 
一連の取り組みの最大の眼目は、日ごろ接触の少ない社員同士が、部署や年齢の垣根を越えて交流することだ。運動会では社員が部署横断でチームを作り、役員がキャプテンを務めた。タウントレックも、年齢や部署が異なる人同士とチームを組むと、高いポイントを得られるルールにしたため「若手社員が先頭を切って街を歩き、役員がついていく場面も見られました」(森氏)。
 
奥村氏は「事業プロデューサーを目指すという社員のありたい姿に加えて、事業の多角化に伴い、異なる部署への異動もかつてより多くなっています。社員がほかの部署のメンバーと交流し、お互いの業務を知ることが、組織としてのまとまりを生み新たな価値提供にも寄与する、と考えています」と述べた。
 
組織風土づくりの取り組みは、大規模イベントの開催にとどまらない。2025年には人事部内に、企業カルチャーの醸成など組織開発に取り組む部署として、人材戦略グループが新設された。奥村氏は「非財務的な価値や強みを持つことが、環境の変化に負けない強靭性、持続性につながるのではないか」と語った。

東急不動産タウントレックの様子
タウントレックは今年度以降、東急不動産ホールディングスグループの新入社員合同研修に導入し、チームビルディングやグループとしての一体感を高めることに役立てたいという。


※東急グループが渋⾕まちづくり戦略において定める、渋⾕駅から半径約2.5kmのエリア。

平等に対話の場を提供 人事を筋肉質に

日本企業には、人事部の裁量を事業部門に移譲する動きもあるが、同社は逆に、配属に対する人事の関与を強めようとしている。人事部人材戦略グループリーダーの中村友昭氏は、理由について「当社は従来、各部署の意向が配属に強く反映され、人事が十分に役割を果たせていない面がありました。こうした背景に加え、社員の中長期のキャリア形成や、事業の枠を超えた人材の最適配置を考える必要性が強まったためです」と説明する。
 
人事が組織を俯瞰して人を配置するようになったことで、全社最適で優秀な人材を配置できるようになった。一方で配属を主導する以上、人事が社員一人ひとりについてよりよく知る必要があるとして、約1200人の社員全員と面談するようになるなど人事側の負担は大きくなった。
 
「ただ、なすべき仕事は引き受けると同時に、会社と社員のメリットにならない業務はスリム化し『筋肉質な人事』も目指しています」(奥村氏)。サーベイやアンケートの一部を廃止したり、回数を減らしたりしたほか、3年ほど前からは、新入社員の配属にAIマッチングも導入した。
 
新入社員には希望する配属先を、部署側には新人に求める能力や特性などの要素をそれぞれ提示してもらい、AIでマッチングを行う。これによって人事スタッフに関しては、配属そのものにかかる手間や、ミスマッチが生じたときのアフターフォローなどの負担が軽減された。新入社員と部署、双方の配属への満足度も高まったという。
 
一方で既存の社員の異動については、AI導入を見送っている。「既存の社員は、過去のキャリアや家庭の事情、部署との関係性などAIでは消化しきれない要素が多く、面談を通じて丁寧に配置を行う必要があるためです」(中村氏)
 
同社人事部の取り組みからは、社員同士、社員と人事など、組織内のコミュニケーションには時間と労力を惜しまない、という姿勢がうかがえる。働き方改革やDXによって多様な社員が活躍できる環境が整いつつある半面、組織全体の「対話」の総量は減ってしまったのではないか、という課題意識がその根底にある。「飲み会などのインフォーマルな交流も減り、あったとしても育児や介護などで参加の難しい社員もいます。これからの時代、企業はすべての社員へ平等に、人間的につながれる機会を提供することも求められているのではないでしょうか」(奥村氏)



Text=有馬知子 Photo=今村拓馬、東急不動産提供