Works 196号 特集 人事のダイエット

レゾナック|統合時に新たな文化を創造、変革に前向きな体質への改善

2026年06月16日

企業合併は人事の無駄をなくす好機だといえる。2023年に誕生したレゾナックの例を見てみよう。CHROの今井のり氏は新しい文化の創造を通して体質改善というダイエットにつなげた。

今井のり氏

レゾナック・ホールディングス
取締役 常務執行役員
最高人事責任者(CHRO)
今井のり氏


昭和電工と日立化成が統合し、2023年に誕生した機能性化学メーカー、レゾナック。統合の約1年半前から、今井のり氏は旧日立化成側の統合リーダーとして、昭和電工側の同じくリーダーだった現代表取締役CEOの髙橋秀仁氏と、新しく作る会社像を徹底的に議論した。


その結果、どちらかに合わせるのではなく、新しい会社を一から作ること、それも新しい企業文化の創造から着手することで合意した。今井氏が話す。「どちらか一方が主役になるわけではなく、一緒になって新しい会社を作ろうという共通の思いに達することができました」


企業文化の変革から始めたのは、企業文化を作ることが事業戦略そのものだと考えたからだという。「企業文化は対面するマーケットで決まります。機能性化学という事業分野は川下に近く、お客さまに真摯に向き合い対応できる自律性が高い人材の存在が肝になります。トップダウン型ではうまくいかず、社員一人ひとりの個の能力とそれを解き放つ『共創文化』が不可欠なのです」


こうした考えに至る背景には、今井氏の幼少期からの「役割意識の強い日本の文化」に対する違和感が影響している。「企業社会はまず組織があり、ポジションがあり、それに個人が従うという構造です。役割意識という縛りから解き放たれたら、個の能力がもっと生きる。文化を作ることこそがCHROが担うべき役割だと考えました」

CEOとともに社員と直接対話 行動様式の変容を目指す

まず2021年の1年間で、社員の意見も取り入れながら、既に掲げていたパーパスを軸として大切にする価値観を整理、4つのバリューとして明確化していった。パーパスは「化学の力で社会を変える」。バリューは、「プロフェッショナルとしての成果へのこだわり」「機敏さと柔軟性」「枠を超えるオープンマインド」「未来への先見性と高い倫理観」の4つだ。「パーパスは抽象的になりがちなので、まずはバリューの実践によって、行動様式を組織の壁を越えて自律的に動くように変えることを重視しました。マネジャー層を起点にカスケード式に現場に浸透していくよう、人事評価項目やエンゲージメントサーベイに反映させ、リーダーとメンバーがバリューについて議論する研修を実施したり、バリューにかなった行動を解説する事例ハンドブックも作成、配布しました」


特筆すべきは、CEOの髙橋氏とCHROの今井氏がタッグを組み、パーパスとバリューの浸透に最前線で取り組んできたことだ。「一度に多くを浸透させようとしても無理。2022年は発信、2023年は共創、2024年は自律、2025年は現場と、注力するテーマを毎年定めて一点突破を目指しました」


具体的には、2022年はパーパスとバリューの認知を深め、会社の将来像と背景にある経営陣の思いを伝えるために、70カ所以上の拠点を2人で回るなどし、以降も毎年継続している。


企業文化を変えるには、マネジャーに武器を与えるトレーニング、社員全員が試せる場、経営陣のコミットメントという3つが不可欠だという。


マネジャー向けのトレーニングとしては、2022年に行った「共創型コラボレーション力強化研修」がある。「共創力強化のために必要な5要素として、無意識の思い込みの排除、心理的安全性の確保、発信力、傾聴力、ファシリテーション力を学んでもらったうえで、研修前と研修3カ月後で、自身の360度評価の値がどう変わるかを見ました」


社員全員が試せる場は、「グローバルアワードAHA!(アハ:Awards of Harmony)」が好例だ。組織の垣根を越えたチームが、パーパスとバリューを踏まえた行動宣言を策定し、その目標と取り組みをエントリーしてもらい、優秀なチームを表彰する。そのほか、パーパスに即した具体的な行動を実践し、広げていくREBLUC(レブルック:Resonac Blue Creators)と呼ばれる社内コミュニティもある。


最後の経営陣のコミットメントには、印象的なエピソードがある。「CEOの髙橋は当初、シャープで歯に衣着せぬ物言いもあり、社員向けのスピーチの評判がよくありませんでした。役員合宿で全員でダメ出ししたのですが、最終的には、無難な方向に整えるのではなく、髙橋のよさを踏まえたうえで、必要な補完はほかの役員が担おうと、変革に向けたワンチームとしての結束が生まれていきました」


その結果、CEOとCHROが企業文化の変革に集中し、事業はほかのCXOや各BU長に権限を委ねることで、変革を支える経営の形が作られていった。


会社は人生を豊かにするコミュニティの1つだ

今井氏は、旧日立化成に新卒で入社した後、経営企画、米シリコンバレーでの海外営業など、幅広い領域でキャリアを積んできた。今井氏は経営企画部長時代に、ロバート・キーガンの著書『なぜ人と組織は変われないのか』(英治出版)に強く影響を受け、「戦略は文化に依存するから、そこから変えるべきだ」と、役員向けに施策を提案したことがあった。「当時は人的資本という言葉もなく相手にされませんでしたが、今は追い風が吹いています。未来は過去の延長線上ではなく、その未来を決めるのは、人的資本といった非財務指標だと役員はもちろん投資家も認識するようになりました」
 
現在は現行の職階を撤廃し、すべてのポジションについて必要なスキルを定義したうえで、ふさわしい人材をあてるスキルベースの人事改革を進めている。「事業部長や拠点長向けの説明会を実施したところ、明らかな反対者はいませんでした。この会社にいる限りは変わっていくのが必然、という認識に立ち、『どうしたら運用できるのか』という視点での建設的な意見や質問ばかりでした。文化の創造という体質改善を経て、変革推進のためのコミュニケーションコストが大きく下がっているのを感じます」
 
今後の課題をどう捉えているのだろうか。「今年の注力テーマが実は『ハピネス』なんです。かつては違和感を持たれたような言葉ですが、今は違います。会社はそれぞれの人生を豊かにするコミュニティの1つであり、社員が幸せにわくわく働ける環境は戦略的に作れるはず。中長期のエンゲージメントを高め、仕事の生産性を上げていくことにまずは注力していきます」



Text=荻野進介 Photo=刑部友康