Works 196号 特集 人事のダイエット

人材派遣の需給変化から考える 社外人材の生かし方

2026年06月26日

人材派遣業界は、企業の効率化の影響を受け、ニーズが拡大したり、縮小したりする。AIの進化や浸透が進む昨今、人材市場ではどのような需給の構造変化が生じているのか。人材サービス会社ランスタッドのオペレーショナルタレントソリューション(OTS)事業本部本部長の林純子氏に聞いた。

林 純子氏

ランスタッド
オペレーショナルタレントソリューション事業本部 本部長
林 純子氏


日本を含めた世界39の国と地域に拠点を構え、幅広い職種の人材派遣や人材紹介を行うランスタッド。林氏が本部長を務めるOTSの中核を担うのは人材派遣ビジネスで、受注数全体のうち約9割を占めるという。取り扱う職種としては、物流や製造などの現場系職種が多く、経理やカスタマーサービスなどの事務系職種も含まれる。
 
「ここ数年の派遣ビジネス市場は全体的に成長傾向にあるものの、職種ごとに細かく見ると、需要が縮小しているものと拡大しているものがあります」と、林氏は説明する。縮小したのはテクノロジーの進化や浸透に伴って効率化が進んだ分野だ。物流、製造現場において、近年、ロボットによる自動化が進んだ業務の受注数は減少した。事務系職種では、データを正確にパソコンに入力するデータエントリー業務も同様に、自動化の影響でニーズは縮小傾向だ。
 
一方で、高度な技術スキルを持つ人材のニーズが物流や製造の現場で高まっている。「物流と製造の派遣ビジネス受注数は、それぞれ前年比10%程度増加していますが、そのなかでも専門的なスキルを持ちつつ、デジタル面のメンテナンスもできる人材の依頼が多くあります」
 
またAIの普及を背景にデータセンターの需要が増えており、その運用や保守に当たる「電気主任技術者」などの国家資格を持つ人材のニーズは拡大している。また、物販や店舗での接客、カスタマーサービスなど、チャットボットでは完全に置き換えられない「人の介在」が求められる職種の需要の高まりも顕著だという。
 
近年のAIの進化や浸透は、企業に一層の効率化や生産性の向上を可能にする術を与えているのは確かだ。しかし、テクノロジーの進化に伴う「人」の需要や、結局は人にしかできない業務の需要は、極端な人手不足によってより拡大している、というのが現在地だ。
 
「人手不足は世界共通の課題ではありますが、特に日本では少子高齢化に伴ってZ世代の働き手が減っていることが影響していると思います」

社員の生産性向上と知識伝承 「自社で育てる」視点が重要に

こうした状況にあって、人事は限られた人材という資源をどのように生かしていくべきか。林氏は3つの提案があるという。
 
1つ目は、煩雑かつ工数がかかる業務の遂行は派遣社員に頼る一方で、社員には組織の運営上、よりコアとなる業務に集中してもらって生産性を向上させることだ。林氏は「真のパートナーとして経営課題に踏み込み、コンサルティング視点で協議を重ねた結果、業務体制の変革をともに実現した事例もあります」という。
 
2つ目は、本来は社員にこそ継承させるべきノウハウや専門的な知識を、次世代を担う社員に確実に伝える仕組みづくりだ。人材の流動化が進む職場では、長年にわたって職場に蓄積されたノウハウを知る派遣社員に固有の業務が集中する「業務の属人化」が起こりがちだ。
 
「特に事務系職種でこうした傾向が見られます。心当たりがある職場では、社員への知識継承のあり方を検討する必要があるでしょう」
 
3つ目は、企業が採用スペックについて多少妥協する姿勢を示すことも時には求められるということだ。AIの活用が急速に進むなか、現時点では専門人材の育成や採用が間に合っていない企業も多い。
 
「たとえばAIを活用したデータ分析が得意な人材を求める企業は多いものの、そもそもそのような高度なスキルを持つ人の数は足元では足りていません。企業が求職者に求める専門的なスキルと、求職者がエントリー時点で持っているスキルのギャップが広がるなかで採用が進んでいないのです。企業と求職者の双方が歩み寄り、まずは採用し、足りない知識は後々補っていくことが重要です」
 
同時に、求職者側のマインドセットの転換も促していく必要がある。
 
「今後は、『私のスキルでこの業務は無理だ』とあらかじめ決めつけず、学び続けて職種変更にも挑戦してみる、という意識がより求められるようになるはずです」
 
現時点では、AIによる業務効率化よりも人手不足の進行が速いといえそうだが、このようなときだからこそ、企業は自社に必要な人材をしっかりと見極め、うまく外部人材サービスを活用しながら、健康的な「ダイエット」を行っていくことが重要になりそうだ。

Text=川口敦子 Photo=刑部友康

関連する記事