Works 196号 特集 人事のダイエット

筋トレ専門家による、肥満気味の組織にも効くダイエットの要諦

2026年06月19日

人事のダイエットについてさまざまな角度から考えるならば、本家本元である身体のダイエットの考え方やコツも参考になるのではないか。そんな仮説のもと、“筋肉博士”として著名な順天堂大学教授の谷本道哉氏にダイエットや筋トレの要諦について話を聞いた。

谷本道哉氏

順天堂大学
スポーツ健康科学部 教授
谷本道哉氏

専門は運動生理学、トレーニング科学。NHK総合『みんなで筋肉体操』などテレビ出演多数。著書に『筋トレまるわかり大事典』(ベースボール・マガジン社)、『みんなで筋肉体操』(ポプラ社、共著)、『世界のビジネスエリートの常識 人生を変える筋トレ』(総合法令出版)など。


「私は人事のことは詳しくありませんが、きっと、組織を動きやすくするためにいろいろな制度を取り入れた結果、かえって足枷になってしまっている、この状態をなんとかしたいということなのでしょうか。組織に蓄積された無駄な脂肪を削ぎ落とし、強化すべきところは鍛えて、健康な組織を取り戻すということであれば、身体づくりと共通するところはあると思います」

谷本氏は、本誌の仮説に対して開口一番このように語る。では、そのダイエットに取りかかるために大事なことは何か。谷本氏は、自身の専門である筋トレに絡めてこう続ける。

“やるか、すぐやるか!”が谷本氏の筋トレのモットー

「私が筋トレに関していつも皆さんに言っているのは、“やるか、すぐやるか!”です。筋トレが必要だ、やろうと決めたなら、やらない選択肢はありません。すぐに始めたほうがいい。ところが、するつもりはあるのに、実践できていない人も少なくない。できない理由を見つけて後回しにしてしまう。こういうのは好きじゃないですね。余計なものに縛られずフットワーク軽く、身軽にどんどん進めていくというのが、筋トレでも仕事でも大切だと思います」

筋トレでいえば、「忙しくて時間が作れないから無理」「風呂上がりはゆっくりしたいから今日は筋トレはやめておこう」などと都合のいい言い訳をして行動に移せないといった話はよくある。

人事のダイエットに関してはどうだろう。「この制度は組織全体で見るとプラス効果は薄いが、一部恩恵を受けている社員もいるからすぐにはやめることができない」「社長の肝いりで始めた制度だから早々に見直すわけにはいかない」と迅速な改革をためらうケースは少なくないはずだ。そんなときは、“やるか、すぐやるか!”の言葉を念頭に、フットワーク軽く動くことを意識すべきなのかもしれない。

また、谷本氏がやらない言い訳と並んで注意すべきだと指摘するのが既成概念にとらわれることだ。

「筋トレの世界では、ジムに通って重いものを上げ下げしないと筋肉はつかないという既成概念がありました。しかし、今、その常識は変わってきています。ハイインテンシティ(高強度)であれば、ハイローデッド(高重量)でなくても筋肉はつくという考え方が一般的になっています。負荷重量は軽くても、もうできないというところまで続ければ筋肉はつくんです。私の恩師であり、日本を代表する筋肉研究者である故・石井直方先生がその効果を検証した、腕や脚にベルトを巻き血流を制限して低負荷の運動をする加圧トレーニングがその先駆け。その後、私と石井先生で取り組んだ、動作を3秒ほどかけてゆっくりと行うスロートレーニングの研究が続き、世界的に類似の研究が広まりました。それでも認めたがらない風潮は学術界にも多少あったのですが、多くの研究や追試が重ねられて、今や既成概念は覆されました」

このように、それまで常識とされていた概念が科学的研究によって反証されるケースは筋トレの世界に限らず起こり得る。人事の世界でも、時代の変化に伴う動向をしっかりとキャッチアップしておくことが重要となる。

「楽して効果あり」という喧伝に躍らされるな

上述のような専門家による重層的・多角的な研究がなされている一方で、似非科学や単なる個人の経験、都市伝説レベルの手法が簡単に流行しがちなのも、ダイエット、筋トレの世界ではよくある話だ。「ハイボールは太らない」なども、この種の都市伝説の1つだ。ハイボールにはアルコール以外のカロリーがないだけで、アルコール自体にはカロリーがあり、しかも内臓脂肪に変換されやすい。では、なぜこのような真偽の怪しい話が広まるのだろう。

「人は聞こえのいい話に飛びつきたがるものだからでしょう。楽して痩せられると喧伝されると、すがりつきたくなる。しかし、実際にやってみると、効果が少ないことはよくある。この手のダイエット法の提唱者には、エビデンスがあると主張する人も多いのですが、自分の主張に都合のいいデータを持ってきて、科学的根拠があるように見せることはできます。聞こえのいい話は、眉に唾つけて聞いたほうがいいかもしれません。内容をよく見て真偽を判断する必要があると思います」

“やるか、すぐやるか!”は重要だが、“何をやるか”に関しては慎重に検討する必要があるようだ。

ダイエットは生活習慣の変革 決して終わりはない

ここで話の方向性を変えよう。谷本氏は、NHK総合「おはよう日本」内で放送されていた「筋肉体操」の講師としても知られる(2026年4月からはNHK総合「午後LIVEニュースーン」内、15時台で放送)。視聴者の筋トレへのモチベーションを高める役割を担ううえで、どんなことを意識しているのだろうか。

「そこにはポリシーがあります。“自分自身がやること”です。声かけに関していうと、自身がやっているほうがやはり生きたワードが出てきます。文字面だけではなくて言い方も大事です。一つひとつの言葉や声の響きも、やっているからこそ出てくるものがあります。ですから番組ではカンペは作りますが、アドリブでセリフが変わることもあります。また、動きの邪魔をしないタイミングや、『このあたりでフォームが崩れるだろう』『このぐらいの回数でこんなごまかし方をするだろう』といったことを想定した声かけというのも大事にしています」

人事のダイエットを現場も納得できる形で進めるためには、間違いなくマネジャーの役割が大きくなるだろう。そんなマネジャーにとって谷本氏の指導者としての言葉は大いにヒントになりそうだ。

さて、最後に聞いておかなければならないことがある。「ダイエットが続かない問題」「痩せたとしてもすぐリバウンドする問題」だ。これに対して谷本氏はどのようなアドバイスをくれるだろうか。

「まず、ダイエットを期間限定で考えないほうがいいですね。特定の期間だけ食事量を減らして運動を頑張っても、やめればもとに戻る。ダイエットとは、身体をいい状態にするためにこういうふうに生活習慣を変えていきましょうということなんです。短期目標はあっていいですが、終わりはありません。クリアすれば次の短期目標が出てくるかもしれません。身体の変化とともに理想の身体も変化していくとしたら、ずっと変わり続けていけることになりますね(笑)」



Text=伊藤敬太郎  Photo=谷本氏提供

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