Works 196号 特集 人事のダイエット
駿河生産PF|最後の一手間を人に残す「自働化」生産の実現
ものづくりの現場で必要な自動化装置・設備に組み込まれる機械部品・金型用部品を確実短納期で生産・供給する駿河生産プラットフォーム(駿河生産PF)。ものづくりの観点から、強靭で無駄のないオペレーションを維持するヒントを探る。

駿河生産プラットフォーム
金型ビジネス・ハブ 金型バックエンドセンター センター長
堀 英樹氏(写真右)
生産プラットフォーム・ハブ 執行役員
ME事業グループ MEバックエンドセンター センター長
黒田 悟氏(写真中央)
グローバル製造サービスセンター センター長
杉山 暢一氏(写真左)
工場の設備には多くの種類の機械部品が使われ、その半数以上が金属加工品であるといわれている。駿河生産PFの製品のほとんどは、顧客が、欲しい形状・寸法などをミクロン単位で指定する、受注生産の金属加工部品である。何が、いつ、何個来るか、実際に顧客からの受注が届くまでわからないなかで、「少量多品種生産(変種変量生産)」を「確実短納期」で行うのが同社のものづくりの特徴だ。その生産方式を可能にするには、デジタル技術を活用し、無駄を徹底的に排除したオペレーションが不可欠である。
金型バックエンドセンター長の堀英樹氏は言う。「無駄取りは製造業の宿命のようなものです。より速く、確実に、良品をお客さまに届ける。そのために全体のリードタイムをいかに短くするか、まずはそこを見ます」
たとえば、金属に穴をあけるパンチという金型部品の加工には、材料の出庫から検査まで従来は9つの主要工程があり、1件の受注が製品に仕上がるまでに、熟練工と多種多様な機械で約40時間を要していた。本格的な生産改善にあたっては、まずは全工程を見渡し、モノと情報の流れを徹底的に分析し、最適なものづくりをデザインし直し、無駄を徹底的に排除。カン(勘)・コツに頼っていた部分はデジタル技術を最大限活用しつつ自動化を実現。1つの注文ができ上がるまで淀みなく流れる生産ラインを実現させた。
「その結果として主要製品である丸パンチの生産ラインでは、1件の生産リードタイムは40分にまで短縮しました。また、熟練工の頭のなかに入っていた各寸法の公差(加工において許容される誤差)などのデジタル化を図ることで、必要な人手も減り、大幅なコストダウンにもつながる、という流れができました」(堀氏)
生産プラットフォーム・ハブ執行役員の黒田悟氏は、「たとえば現場の作業者に『コストを下げて』と言っても、彼らにとってコストはその場では見えないため、何をしたらいいかわからない。でも、『いいものを1個だけ狭く速く流す』という大きなコンセプトに基づき、どの工程にもモノが滞留せずに、するすると流れている状態がコスト的にも最もいい、と定義すれば、滞留=コストを悪化させているものと理解します」と説明する。

「自働化」の結果、駿河生産プラットフォームの広い生産現場に人はまばらだが、人は最後の一手間を担う重要な存在だ。
「科学的」納期遵守へのパラダイムシフト
駿河生産PFがこのような考え方にたどり着いたのは、ここ十数年の話である。それまでは「気合と根性で納期を守る」生産であった。当時の標準出荷納期は3日で、1本に40時間かかる加工を1日に数千本仕上げるために、出荷日に向けてひたすら走る。間に合わなければ時間外に、作業者が自らの手で配送して凌ぐなどの日々が続いていた。
「あるとき、標準出荷納期3日を2日にするためには、本来はいつから作り出さなければいけないのか、とシミュレーションをしました。すると出荷日マイナス4日、という結果が出た。つまり、受注する前から生産が始まっていなければならない。これが、『気合と根性』の限界と、科学的なアプローチの必要性を認識したポイントとなりました」(黒田氏)
標準出荷納期を2日とするため、工程全体、個々の工程、そして工程間の無駄を統合的に検証していった。結果、実際の加工作業のみならず、注文の着手順序を決める「差し立て」のデジタル化、必要な機能に絞り込んだ設備の内製、工程間の自動搬送、検査結果の自動判定など、愚直な改善を積み重ねた。最初からすべてを一度に変えるのではなく、ある程度贅肉が落ちてから自動化を進める、という順序で筋肉質化を図った。
リードタイムにこだわった結果、標準出荷納期が1日短縮された後でも、生産には余裕が生まれ、納期遅れや作業者の残業も減り、顧客からの急な注文にも応えられる体制になった。また、余剰人員はリスキリングで他工程やエンジニア職に配属転換するなど、人手不足の解消にも役立っている。
一方、すべての生産工程の自動化・無人化を図ることを目的としているわけではない。「すべての工程を自動化することもできるのですが、最後の一手間を自動化するのには、それまでの工程をすべて自動化したのと同じくらいの開発コストがかかる。それはむしろ投資のムダになります」(黒田氏)。駿河生産PFにおいては「ニンベンのつく自働化」が開発コストと生産コストのバランスにおけるリーンな生産のカギとなっているのだ。
改善を広げ、モチベーションを維持
間接部門であるグローバル製造サービスセンター長の杉山暢一氏は「製造における物の流し方、考え方は間接部門でも生きる」と言う。「我々のものづくりの考え方は事務業務にも応用できると考え、自分の工程のインからアウトだけではなく、前工程、後工程のインとアウトも見て改善を考える、という意識をまず統一しました。自分の業務の専門性、特殊性ではなく、リードタイムにこだわることで、全体最適が実現されるという意識が浸透しつつあります」
黒田氏は、「製造でも、間接業務でも、現場の人たちがサボろうとしているわけではない。だから、『今、マズイよね』というのは、幹部がしっかり指摘して、『ひと転がり目』を作ることが重要」と強調する。
それでも、「いまだ製造の改善は2合目くらい」(黒田氏)だという。手つかずの領域や「カン・コツ」への依存もまだあるなかで、リードタイムにこだわる改善をベースに、「習熟レス(習熟不要)」によるミスの削減、コストの削減というサイクルを継続させている。
現場のモチベーション維持も工夫のしどころだ。「全員の活動とすること、これが改善を続けるには必須です。幹部だけで改善を推進しようとしても、現場の人たちが、その改善によるメリットを理解できなければ改善活動は止まります。全員が参加して、一人ひとりが少しずつ速く流せれば、皆にとって楽になるよね、という実感が必要なのです」(堀氏)
特に技術開発は期間が長い分、マラソン状態になってモチベーションの維持が難しい。「変化が見えてこそ、モチベーションが上がります。外の世界の変化も取り込みながら、変化に向いていくための仕掛けとして、業務外ですが、ロボットOSやAIなどを対象とした部活動も始めました。個人のWill、『やりたい』を満たせるような仕掛けも非常に重要です」(黒田氏)
納期を死守する「気合と根性のWill」はいまだに大切だという。ものづくりにおけるダイエット(無駄取り)は人事の領域にも参考になりそうだ。
Text=佐々木貴子 Photo=刑部友康
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