Works 198号 特集 ミッドサイズカンパニー 世界での勝ち方
PwC|中央集権型の人事から事業起点のHRMへの転換が中堅企業のカギ
【日本発 世界で勝てる中堅企業をいかにつくるか】世界企業への処方箋
事業環境の変化を背景に、人事の役割は大きく変わりつつある。人事部だけで人材を管理する従来型の発想から、事業起点で人材を捉える仕組みへ。中堅企業に求められる人事変革について、PwCコンサルティングの北崎茂氏に聞いた。

PwCコンサルティング
執行役員 パートナー
北崎 茂氏
外資系IT企業を経て現職。2022年より組織人事コンサルティング事業のリードを務める。専門領域は組織設計、人事戦略策定、人員計画策定、人事制度設計、人事プロセス・システム設計、EX/EVP設計、M&A、チェンジマネジメントなど。
「ここ数年で、人事に求められる役割は劇的に変化しています。かつての人事は、企業のなかでブラックボックスに近い存在でした。人事権を中央の人事部が集中的に持ち、経営陣からも『人事は人事部に任せる』という関係が成立していました。しかし、人的資本開示の要請が強まったことで、状況は一変しました」と、PwCコンサルティングの北崎茂氏は話す。
その象徴が投資家だ。かつて人事担当者がIRの場に登壇することはほとんどなかったが、現在ではCHROが投資家に対して人材戦略を説明するケースも珍しくない。人材への投資や組織の変革など、経営そのものに関わる質問が投げかけられるようになった。
さらに、事業部門との関係も変化している。事業環境の変化が速くなり、必要な人材も事業ごとに異なるため、中央の人事部だけでは現場のニーズを把握しきれなくなっているからだ。
「たとえばAI人材といっても、事業によって求められるスキルはまったく違います。だからこそ、人事は事業部とのパートナーシップを深めなければなりません。中央集権型の人事から、より権限を移譲した分権型の人事へ変わる必要があります」
そこで重要なのは、人事の変革を人事部起点ではなく事業起点で進めることだ。事業ポートフォリオが変われば、それに応じて人材ポートフォリオも変えなければならない。その設計を担うために求められるのは、従来の人事知識よりも、むしろ事業を理解し人や資金をどう配分するかを考える事業企画のセンスだ。近年、大企業を中心にHRBPの設置が進み、事業企画経験者が登用されることも少なくないという。
北崎氏は、さらに踏み込んで、責任構造そのものを見直す必要があると指摘する。
「本来、事業に必要なヒト・モノ・カネはすべて事業責任者が管轄すべきものです。これまでは、そのうちヒトの部分だけを、人事部にアウトソーシングしていたにすぎません。たとえば、事業部が必要な人材ポートフォリオを描いたのであれば、その実行責任や予算も事業サイドに持たせるべきでしょう。本来の姿に戻していくことが必要です」
「人事部」という枠を超え事業に最適な人事機能を再構築
こうした人事の変革は、大企業だけの課題ではない。中堅企業では、組織全体に経営者の目が届きやすく、トップがヒト・モノ・カネを直接管理することで、迅速な意思決定が可能になる。一方で、その強みが企業の持続可能性を損なうリスクにもなる。
「中堅企業では、経営者1人への依存度が非常に高く、サクセッションプランが十分に機能していないケースも少なくありません。事業環境が大きく変わったとき、トップの判断が外れると企業に大きな影響を与えるリスクがあります。非上場企業が多いため、外部からの強制力も働きにくいのが難点です」
事業規模が拡大すれば、社長1人ですべてを把握することはできなくなる。特に複数事業を展開するようになれば、事業ごとに必要な人材も異なるため、権限委譲と人事機能の再設計が不可欠になる。
人材育成への投資配分も課題だ。製品サイクルが数カ月単位で更新される時代に、社員のスキルのアップデートが追いつかなければ、企業の競争力は失われてしまう。特に日本企業全体の課題として、新卒層への投資に偏重し、管理職以上への投資は手薄になっていると北崎氏は指摘する。この育成投資をいかに加速できるかが、規模の限られる中堅企業にとって大きな分かれ目になる。
従来、企業規模が大きくなると、トップ直轄のマネジメントが立ち行かなくなり、人事部を設置して機能を集中させることが一般的だった。しかし、そうした硬直的な人事部をそのまま導入しても、現代の市場環境には適応できない。
「むしろ人事部という部署があるから、人事に関することはすべて人事部がやるべきだ、という発想になってしまいます。長年にわたって蓄積された強固なバイアスがあるから、事業側も、自分たちに余計な仕事を押し付けてくるなと嫌がります。しかし、現代の人材マネジメントは1つの部署だけで完結するほど単純ではありません」
既存の人事部という枠組みそのものを根本から見直し、従来の人事部門と事業部に組み込むべき人事機能と責任構造のバランスを考えつつ、自社の事業構造に最適化された人事機能をゼロベースでデザインすることこそ、規模の大小を問わず、今の経営に求められている議論なのだ。
中堅企業の海外展開を左右する展開力をどう築くか
欧州では、中堅・中小企業でありながら世界市場で高いシェアを誇る企業が多数存在する。しかし、北崎氏は、日本企業がこれらを単純に模倣しようとしても難しいと指摘する。
欧州大陸では国境を超えた物流や経済活動が容易であり、複数国を1つの市場のように捉えることができる。これに対して日本企業は、海を越え、言語や物流、税制などの壁を乗り越えて海外市場へ進出しなければならない。
「日本の中堅・中小企業がグローバル展開する際の難度は、欧州企業とは根本的に違います。大企業ですら、海外拠点に日本人駐在員を送り、現地化を進め、人材を育てるというプロセスに数十年かけてきました。それを地方の中堅企業が同じように再現するのは、資金力やブランド力の面でも非常に難しいのが実情です」
一方、日本企業には明確な強みもある。製品や技術の品質だ。特に自動車部品など、地域ごとの嗜好に左右されにくい分野では、日本企業の技術力は十分に世界で戦える。ただし、いい製品を持つだけでは足りず、それを展開する力が伴わなければ、グローバル市場で成長させることは難しい。北崎氏は「いいモノと展開力の掛け算がビジネスだ」と主張する。
「だからこそ、足りない展開力をアライアンスやM&Aなどによって補うことが重要になります。しかし日本企業はM&Aを単なる『買い物』で終わらせてしまうケースが今もなお散見されます。重要なのは、その後にどう組織を統合してシナジーを生み、新しい価値を創出できるかです」
優れた技術も、人や知識を外部から取り込み、組織のなかで新陳代謝を起こせなければ、いずれ陳腐化する。グローバル展開を進めるうえでも、国内市場で勝ち残るうえでも、鍵となるのは組織構造の見直しと人事機能の抜本的なアップデートなのだ。
Text=瀬戸友子 Photo=今村拓馬
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