Works 198号 特集 ミッドサイズカンパニー 世界での勝ち方

JETRO|日系中堅企業の海外進出割合71%、グローバルサウスも視野

2026年10月09日

【日本発 世界で勝てる中堅企業をいかにつくるか】日本の中堅企業の現在地
JETRO(日本貿易振興機構)による「日本企業の海外事業展開に関するアンケート調査」からは、中堅企業が限られたリソースを既存拠点の強化などに充て、地に足の着いた事業を展開する姿が浮かび上がった。調査担当者に中堅企業の事業展開の現状と課題を聞いた。

JETRO安田 啓氏(写真左)、馬場安里紗氏(写真右)の写真

JETRO
調査部 国際経済課長
安田 啓氏(写真左)
 
調査部 国際経済課 リサーチ・マネージャー
馬場安里紗氏(写真右)

JETROは2002年度から同調査を実施しており、2025年度は3369社から回答を得た。2024年の改正産業競争力強化法施行に伴い、今回の調査から「中堅企業」を再定義し、301社が中堅企業に区分された。
 
調査によると、海外拠点を持つ企業の割合は、大企業が95.1%、中堅企業で71.1%、中小企業は27.7%であり、中堅企業は大企業に迫るものがある。調査を担当した調査部国際経済課長の安田啓氏は、「中小はグローバル展開といっても輸出をメインとする一方、中堅企業は海外拠点を置き、一段階進んだ事業を展開している姿が見えてきました。大企業と比較すると、中堅企業の進出先はアメリカや中国、ASEAN諸国が中心で、大手が展開するインドなどグローバルサウスは未開拓の企業が多いのも事実です」と話す。
 
第2次トランプ政権下のアメリカで政策が不安定化する、いわゆる「米国リスク」への対処では、中小企業との差が出た。中小企業は、リスクヘッジのための事業移管先として、EU諸国を検討する割合が高かった。「中小企業のなかには、EUの厳しい規制や商習慣などを理解しないまま、市場規模の大きい先進国というイメージを先行させ、EUを選定する企業もあるのではないか」と、安田氏は分析する。「一方で中堅企業は、日本への回帰を検討したり、グローバルサウスに着目したりする動きが見られました。中堅企業の多くは、欧州ビジネスの難しさに対する知識や経験があります。EUより難度の低い現実的な移管先を検討したり、リサーチをしたうえであえてリスクを取ろうとしたりするなど、一歩進んだ展開を模索しています」(安田氏)
 
また、調査を通じて見えてきたのが、中堅企業の海外展開に関する「手堅い」姿勢だ。既に海外に進出している企業に、拠点拡大の意欲について聞いたところ、大手は「拡大を図る」が53.5%に上ったのに対し、中堅は「現状維持」が48.1%と、「拡大を図る」の43.9%を上回った。
 
「大企業が多くの国への展開を模索するのに対し、中堅は規模を維持し、限られた経営資源を既存拠点の安定化に集中させるなど、地に足の着いた事業を展開している印象です」(安田氏)

希望者不足やアンマッチで海外人材確保が課題に

[図表1]今後の海外進出方針
[図表2]海外展開人材の採用【人数的な確保の状況】[図表2]海外展開人材の採用【人数的な確保の状況】
[図表3]海外展開人材の採用【海外展開人材の能力・適性】
[図表3]海外展開人材の採用【海外展開人材の能力・適性】
[図表1]今後の海外進出方針出所:JETRO「第24回 日本企業の海外事業展開に関するアンケート調査」

同課リサーチ・マネージャーの馬場安里紗氏は、中堅企業が海外事業を展開するうえで、大きな課題となっているのが人材不足だと強調する。
 
調査では、海外展開を担う人材の人数を「十分確保できている」と回答した中堅企業の割合が8.2%にとどまり、大手の16.1%、中小の15.3%に比べて大幅に低かった。人材について必要な能力・スキルを十分備えている、という中堅企業は6.2%とさらに低く、大手の12.7%、中小の11.5%に比べて不足感の強さが際立った。
 
海外人材の確保に関しては、企業規模を問わずさまざまな課題が生じている。
 
自由記述で課題を聞いたところ、872社が「語学力」を挙げたほか、「希望者不足」を挙げる企業も265社に上った。なかには「マネジャークラスの現地責任者を担える人材が大幅に不足している」「希望者は入社間もない若手が多く、(実務経験が不足しているため)現地の就労ビザを取得しづらい」といった記述もあった。
 
馬場氏は「希望者が減少する一方、求められるレベルは高まっており、マッチングがうまくいっていない現状があると考えられます」と分析する。こうした傾向はすべての規模の企業に共通するが、中堅の場合、一定数の人材を確保する必要がある一方で、大手に比べると知名度や人件費に割けるリソースが不十分な面があり、不足感が強まる結果になった可能性もある。
 
駐在希望者が減っただけでなく「海外でも、優秀な人材の採用が難しくなっている」とも、安田氏は指摘する。海外進出企業を対象とした別の調査では、円安や現地の物価上昇に伴い、賃金コストが上昇する傾向が見られた。
 

一方で、海外では福利厚生や労働環境の整備など、賃金以外の要素も人材を惹きつける大きなファクターになっていた。「チームワークで仕事を進めることなど、日本的な企業文化が海外の人材にとって魅力的に映っていることも、意外な発見でした」(安田氏)

大企業の場合、現地企業の買収なども頻繁に行っており、経営手法をグローバル化せざるを得ない面もある。一方で中堅は、日本本社の企業文化を海外拠点に取り入れることで、人を集める余地もありそうだ。

グローバルサウスに関心も 下請け脱却の過渡期

かつて海外に進出する中堅企業は、顧客である大手メーカーの要請で、同じ国に拠点を設けるケースが多かった。顧客企業という後ろ盾があったからこそ、限られたリソースで現地の事業基盤を整えることができた面もある。しかし市場環境が厳しくなるなか、中堅企業も日系の大手顧客だけでなく、海外の企業に自ら販路を拡大する必要性が高まっている。
 
安田氏は「たとえば自動車産業なら『EVシフト』のような変化に伴い、現地や欧米企業など新たな顧客の開拓が求められるようになりました。自動車に限らず多くの産業で、中堅企業は変化の過渡期にいるのだと考えています」と語った。
 
ベトナムやインドネシアといった今まで事業を展開していなかったASEANの国、インドなどグローバルサウスに目を向ける動きが広がりつつあるのは、中堅企業が新たな道を模索していることの表れともいえる。馬場氏が個別企業にヒアリングを実施したところ、中東やインド、アフリカなどへの事業展開を通じて、業績を拡大する事例が見られた。
 
「たとえば関東地方のある食品製造機械メーカーは、海外生産で製造コストを抑えるのではなく、日本に製造を集約し、技術力を強みに競合企業との差別化を図っていました。そのうえで現地の販売代理店を活用し、輸出を通じてビジネスを拡大する戦略でした」(馬場氏)
 
一方で、生産拠点を設けることで、その国の市場に深く入り込むだけでなく、そこを拠点に地域全体へと事業を拡大する例もある。ある素材メーカーは、パラグアイに工場を建設したことをきっかけに国内の情報の獲得が進み、道路の舗装事業に乗り出した。同時に、ブラジル、ペルー、チリなどへの周辺国事業を本格化した。
 
「確かに、海外進出にあたって現地人材の労務管理など多くの課題に直面している中堅企業があるのは事実です。それでも試行錯誤しながら自社に合ったビジネスモデルを見つけ、成長する企業も現れています」(馬場氏)

Text=有馬知子 Photo=刑部友康

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