Works 198号 特集 ミッドサイズカンパニー 世界での勝ち方

ハーマン・サイモン氏|高い自律性と真のグローバル化が日本の中堅企業の生きる道

2026年10月09日

【スペシャルインタビュー】
ハーマン・サイモン氏が1996年に出版した『Hidden Champions(隠れたチャンピオン)』は、グローバル市場のリーダーでありながら、名の知られていない中堅企業を表舞台に出した名著だ。30年の時を経て、ドイツを中心とした隠れたチャンピオン企業はどのように変わってきているのか、日本の中堅企業はどうあるべきかをサイモン氏に問う。

ハーマン・サイモン氏の写真

サイモン・クチャーアンドパートナーズ創業者兼名誉会長
ハーマン・サイモン氏
Prof. Hermann Simon

戦略・マーケティング・価格設定の専門家として国際的に高い評価を受け、世界で最も影響力のある経営思想家を選ぶ「Thinkers50 Hall of Fame」に名を連ねる。マインツ大学、ビーレフェルト大学、ハーバード・ビジネス・スクール、スタンフォード大学、ロンドン・ビジネス・スクール、INSEAD、慶應義塾大学、マサチューセッツ工科大学などの教授職を歴任。『グローバルビジネスの隠れたチャンピオン企業』(中央経済社)をはじめ著書多数。ボン大学で博士号および教授資格取得。


隠れたチャンピオン企業とは、
●世界市場で3位以内、あるいは大陸で1位
●40億ドル以下の売上であること
●世の中に知られていないこと
という定義に該当する中堅企業を指します。
 
それなりの規模があるとはいえ、フォーチュン500に入るような大企業と比べると小規模な中堅企業が、なぜ世界市場のリーダーになれるのか。それには3つの柱があります。
 
まず1つ目は、自らが戦う市場で世界一を目指すという経営者の極めて強い野心です。多くの場合、創業者の並々ならぬ起業家精神、野心、そして事業推進のエネルギーが原動力となり、会社を引っ張ります。
 
ではいかにして世界一を目指すのか。これは「集中」によってです。あれもこれもと事業を広げるのではなく、自社の得意領域に徹し、その市場に集中することが企業を世界最高レベルへと導くのです。これが第2の柱です。
 
しかし、特定の領域に集中することは、戦う市場を狭くしてしまうデメリットがあります。この問題を克服するのが、3つ目の柱であるグローバル化です。
 
市場というと、一般的には自動車、航空機、電気通信などの大型市場が想起されますが、現実の世界は何十万もの細分化された市場で構成されています。全体の構成比で、大型市場はおそらく1%未満にすぎず、残りの99%は中堅・中小企業がリーダーになれる市場、つまり、ニッチ市場です。ニッチ市場だからこそ、グローバルにその市場をつかむことで、中堅・中小企業にとっては十分な大きさとなります。
 
この3つの柱は、時代が変わっても、隠れたチャンピオン企業の成功の鍵として機能しています。

自律的、積極的なグローバル展開が隠れたチャンピオン企業を生み出す

 ドイツには約1600社、日本には約300社の隠れたチャンピオン企業が存在します。なぜドイツにより多くの企業が存在するのか、その理由を構造的な違いから説明します。たとえば、輸出統計を見ると、2025年の輸出額は、ドイツが1兆7640億ドル、日本は7380億ドルで、約2.4倍の開きがあります。これを人口1人当たりの輸出額にすると、ドイツが2万1000ドルに対し、日本は6000ドルで、その開きは3.5倍まで拡大します。
 
この輸出を支えているのが、ドイツでミッテルシュタントと呼ばれる中堅企業です。隠れたチャンピオン企業の1600社でドイツの輸出額の約60%を構成しているのです。
 
加えて、ドイツの隠れたチャンピオン企業は、グローバルな拠点網を築いています。多くの企業が50以上の現地法人を所有しており、なかには100以上の企業もあります。
 
日本の隠れたチャンピオン企業は、従業員数が平均3200人、売上が約9億ドルで、ドイツの従業員2100人、売上6億ドルと比較すると規模自体は大きめです。しかし、彼らの主な顧客は日本の大企業であるため、自律的なグローバル展開、進出度合いはやや低めです。このグローバル化の進展の差異が、ドイツにより多くの隠れたチャンピオン企業が存在する理由の1つです。
 
ドイツで中堅企業のグローバル化が早期から進展したのには、歴史的な背景もあります。第一次世界大戦が終了した1918年まで、ドイツは23の君主国と3つの自由都市で構成されていました。つまり、たとえばミュンヘンにある企業がドレスデンの企業と取引する場合、それは国(バイエルン王国とザクセン王国)をまたいだ取引だったのです。そのため、事業を拡大したい企業は、早い段階から国際化せざるを得ませんでした。私はこの国際的な環境への慣れを「精神的国際化」と呼んでいます。精神的国際化の進展が、ドイツに多くの隠れたチャンピオン企業が存在することに影響しています。

グローバル化は時間を要す 忍耐力、持久力が試される

“Made in Germany”へのこだわりが強かったドイツも変わりつつあります。輸出も持続的に増えているものの、対外直接投資がより増えています。製造はもとより、研究開発においても国際展開を果たした企業のほうが、ドイツ国内にとどまった企業よりも成長率が高いというデータもあります。
 
同様に、かつてドイツの隠れたチャンピオン企業は意思決定権限を本社に集権化していましたが、今は現地への権限委譲、権限分散化を進めています。
 
その際、最大のボトルネックになり得るのは「人」です。現地で適正な人材を見つけ、育て、任せるには時間がかかります。何よりも信頼関係をいかに構築するかが重要であり、これもまた時間を要します。私自身の会社、Simon-Kucherも含め、多くの企業が、この難しさを経験しながら、現地化を進めてきています。
 
海外の拠点を立ち上げたあと、利益が出て、人も育ち、という状態になるには、数年間かかることを覚悟しなければなりません。忍耐力、持久力が試されます。
 
この点において、多くの隠れたチャンピオン企業が同族企業であるというのは、実は有利に働きます。短期的な収益に左右されず、長期的な視点を持つことが可能だからです。世界の大企業のCEOの平均在任期間は6年ですが、ドイツの隠れたチャンピオン企業のCEOの平均在任期間は21年にも及びます。長期戦に適した体制といえるのです。

日本の大手顧客からの独立性を高めることが第一歩

日本の中堅企業の未来に向けた私からのアドバイスは、第1に「日本の大手顧客からの独立性を高めること」です。ドイツ企業は独立性が高く、日本ほど大企業と緊密に結びついていません。ドイツがかつて強さを誇った自動車産業や化学産業は現在困難な状況にありますが、一方で、データセンターや半導体、エネルギー関連の分野は大きく伸びています。独立性が高ければ、成長分野により自由にアプローチでき、成長を取り込みやすくなります。
 
第2に「可能な範囲で独自のグローバル化を進め、グローバルな拠点網を構築すること」、そして第3に「社員(特に若い世代)が語学を含めた国際経験をできる限り積めるよう支援すること」です。日本社会は同質性が高く、外国人を社会の対等なメンバーとして受け入れるのが難しいと思います。だからこそ、真のグローバル化を追求し、人材の多様化を図らなければなりません。少子高齢化が進む社会の10年後、20年後の姿を踏まえると、この問題には今から取り組むべきだと考えています。

Text=佐々木貴子 Photo=サイモン氏提供

関連する記事