Works 198号 特集 ミッドサイズカンパニー 世界での勝ち方
ピジョン|権限委譲しつつ連携強化へ CxO体制で海外事業に横串を通す
【日本発 世界で勝てる中堅企業をいかにつくるか】世界で勝つ日本の中堅企業
育児用品製造のピジョンは、哺乳器の国内シェアが80%に上り、中国でも45%と高いシェアを維持している。人材・サステナビリティ戦略統括責任者(CHRO)の原美奈子氏に、中堅企業が国内外で存在感を発揮し続けるために、必要な取り組みを聞いた。
育児用品製造のピジョンは、哺乳器の国内シェアが80%に上り、中国でも45%と高いシェアを維持している。人材・サステナビリティ戦略統括責任者(CHRO)の原美奈子氏に、中堅企業が国内外で存在感を発揮し続けるために、必要な取り組みを聞いた。

ピジョン
人材・サステナビリティ戦略
統括責任者(CHRO)
原 美奈子氏
原氏は2025年1月、大手素材メーカーからピジョンに転じ、同年3月に代表取締役社長に就任した矢野亮氏のもとで経営体制や人事制度の改革を進めてきた。同社に入って最初に驚かされたのが、「全社員が自分の言葉で存在意義(Purpose)を語れる」ことだった。「社員の多くが『赤ちゃんとお母さんの役に立ちたい』と考えて入社しているうえに、自分の仕事が実際に役立っていることを、街中などでも商品を見かけることで実感しやすい。お客さまへの貢献を自分ごととして言葉にできるのが、大きな強みだと感じました」
世界シェア倍増に挑戦 戦略転換し組織も変える
同社は1978年にシンガポールに事業所を構え、1990年にはタイに製造拠点も設けるなど、早い時期に海外に進出した。海外売上比率が10%に満たない時期もあったなかで海外事業を継続してきたのは、創業者をはじめとした経営トップの次世代を担う赤ちゃんに貢献したいという意思に加え、「赤ちゃんの発達は人種や国籍問わず全世界共通なので、市場別に製品を大きく変えることなく、ほかの国の市場への展開ができる可能性を有している」という考えもあったからだという。
また同社の製品は、安全性がとりわけ重視される。「創業以来続けてきた70年間の研究の蓄積のほか、大人が思いもよらないような動きをする赤ちゃんへの安全性なども徹底的にチェックするよう、法で定められた基準よりもさらに厳しい品質基準を、という品質へのこだわりから、独自の評価基準も設け、世界中の赤ちゃんとご家族に安心・安全な製品を届けてきました」
これまで同社の海外事業は、各地域の事業本部に権限を委譲し、開発から製造、販売まで部内で完結させる形で進められてきた。売上高で日本をしのぐ中国事業も「権限を中国トップに委ね、自由に挑戦し、市場を開拓することも業績拡大につながった」と原氏は分析する。進出以降は長年日本人が中国事業のトップとして派遣されていたが、現在は現地人材の育成も進み、現地社員から経営リーダーが生まれ、トップを担っている。
一方、矢野社長は2026年2月第9次中期経営計画で世界シェアを倍増させるという挑戦的な目標を掲げた。戦略の基本の方向性は、ピジョンの主力商品である哺乳器と、アメリカで買収したブランド「ランシノ」による母乳育児サポートで、哺乳器・乳首※のグローバルシェア20%の圧倒的ナンバーワンの地位を築くことだ。「今までピジョンとランシノはそれぞれ独立して事業運営をしてきました。今後は両ブランドの強みを発揮しながら、攻略できていない巨大マーケットで成長していく必要があるのです」
その達成に向けて、権限委譲しつつもグローバルの連携を強化するという戦略転換を打ち出した。
「事業本部に権限を委ね、それぞれで力を発揮してもらうのと同時に、各地域の事業本部に『横串』を通すことにしたのです」
「事業本部に権限を委ね、それぞれで力を発揮してもらうのと同時に、各地域の事業本部に『横串』を通すことにしたのです」
従来は中国、日本、シンガポールという地域別の事業本部とランシノを運営する事業本部が混在していたが、既存の3地域に米州・欧州を加えた4地域の「リージョン制」に完全移行した。そのうえで、人材・サステナビリティ領域のCHROをはじめ、製品&サプライチェーン、ブランド戦略など各専門領域のチーフオフィサーが、全リージョンを横断的に担当するCxO体制をつくった。この結果、たとえば、直近では中東情勢の影響に伴い資材価格が高騰した際、「CPO/CSCO(チーフプロダクトオフィサー/チーフサプライチェーンオフィサー)」がいち早く全工場の状態を把握し、グローバルで調達を最適化できたという。
さらに各地域の事業本部責任者(事業役員)と機能別CxO(経営役員)を新たに「グループ執行役員」とし、役割・責任と報酬の関連性を明確化して、グループ執行役員を担える最適な人材を国籍問わずアサインできるようにした。
「グループ執行役員の評価・報酬制度を統一し、本社の戦略に合わせたミッションを渡して達成を求めるようにしたことで、全リージョンの方向性がそろいやすくなったと思います」
一方で事業本部側には、グローバルで意思決定を諮ったり他地域と調整したりと、新たなタスクが生じることになった。「CxOである『横串』を担う人と、事業本部長らリージョンで動く人の間に摩擦が生じないよう、コミュニケーションの質と量はさらに増やしていく必要があります」
※哺乳瓶に取り付けて使用する吸い口部分
※哺乳瓶に取り付けて使用する吸い口部分
リーダー人材確保が課題 人事も全世界「ワンチーム」
CHROである原氏の大きなミッションの1つが、新しい戦略の実行を牽引する人材の獲得と育成だ。まずグローバルで戦略実行上重要なコアポジションのサクセッションプランをつくり、サクセッサー候補とそのレディネス(準備状態)の見える化をした。サクセッサー候補の育成ゴールをそのポジション就任とし、足りないスキルや知識を身につけるためのトレーニングを個別に実施している。一方、リストアップの手前の段階にいる次世代の育成については、集合型のトレーニングで成長を支援して母集団形成をする、という二段構えの仕組みをつくろうとしている。ただリーダー候補の人材は、まだまだ不足しているという。
「これからは事業本部の枠を超えてコミュニケーションを取りながら、ランシノとピジョンという2つのブランドを横断的に展開できる人材が求められます。このため従来であれば十分に力を発揮できた人材にも、新しい戦略を実行するための能力やスキルを身につけてもらうという、大きなチャレンジが必要になったのです」
人事に関しても、従来は「各事業本部のなかでそれぞれ閉ざされた世界」(原氏)だったという。そのため原氏らは新たに、グローバルで情報を共有し人事施策を迅速に実行できる体制をつくろうとしている。そのキックオフとして、世界各地の事業本部の人事マネジャーを日本に集めて関係づくりに取り組み、その後も毎月、オンラインで現状報告や課題の共有を続けている。
「対話を通じて、人事担当者を『ワンチーム』にしようとしています。まだまだ課題は多いですが、着実に関係性は進化してきたと思います」
大手と中堅、両方の企業でマネジメントを経験した原氏は、中堅ならではのよさとして「スピーディな意思決定」を挙げた。
「多くの事業を展開していると、1つの施策を進めるにも全事業部門と調整する必要がありますし、施策も総花的になりがちです。一方で当社のような単一事業は、意思決定のプロセスがスピーディですし、事業にフィットした施策も打ち出しやすいと感じます」
原氏がCHROに就任して約1年弱。短期間に数々の変革をなし得たのには、こうした迅速な意思決定プロセスが大きく影響しているのだろう。
一方で人員規模が限られるため、さまざまな人と関わるなかで仕事を学ぶ、という環境づくりには難しさがあるという。「部署の規模が小さいので、たとえば新人が入ったとき、部内の細かい配置換えや多くの先輩との交流を通じた学びを得づらいのが悩みです。だからこそ人事でグローバルのコミュニティをつくったように、地域・事業をまたいだ学び合いが大事だと思います」
Text=有馬知子 Photo=今村拓馬
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