Works 198号 特集 ミッドサイズカンパニー 世界での勝ち方

田宮寛之氏|情報や商談が集まる日本のグローバル・ニッチトップ企業

2026年10月23日

【日本発 世界で勝てる中堅企業をいかにつくるか】日本の中堅企業の現在地
東洋経済新報社の田宮寛之氏がこれまで取材した企業の数は約4000社。著書『日本人が知らない!!世界シェアNo.1のすごい日本企業』(プレジデント社)には、田宮氏が注目する無名の成長企業も多数掲載されている。こうした企業には、どのような強みがあるのだろうか。

田宮寛之氏

東洋経済新報社 記者・編集委員
田宮 寛之氏

日経ラジオ社、アメリカでの高校教員を経て1993年東洋経済新報社に入社。『週刊東洋経済』編集部デスク、『オール投資』編集長などを経て、2009年「東洋経済HRオンライン」を立ち上げ編集長となる。2014年「就職四季報プラスワン」編集長を兼務。2016年から現職。


「就活生は有名大企業ばかりに目を向けているが、世界屈指のすごい企業は日本にいくらでもあります」と、田宮氏は説明する。その代表が「グローバル・ニッチトップ(GNT)」企業だ。GNT企業とは、小規模マーケットで圧倒的な世界シェアを占め、サプライチェーン上で重要な製品を持つ優良企業のことだ。「ニッチ分野は市場が小さいために新規参入が少ない。トップ企業には情報や商談、パートナーも集まってきやすく、その領域での強さや地位は簡単に揺るがない。一度ナンバーワンになると、取引先のレベルも上がる。たとえば専用の製造機械をつくるときも、優良な機械メーカーとの協業が可能になります。ナンバーワンゆえにナンバーワンであり続ける好循環が生み出されています」

しかし、大手の下請けからスタートしたB to B企業が多く、知名度は高くない。「系列や下請け構造が日本の中小企業を弱体化させたともいいますが、その構造が彼らを成長させた側面もあります」

最初は、「言われたことをそのままやる」立場からスタートするが、そのうち立場が逆転することがある。「その核心にあるのがすり合わせの力です。顧客と密なコミュニケーションを重ね、高い要求を実現するために技術を研鑽し、大手だからこそ得られる情報に触れ、その会社でしかつくれない優位性のある製品を開発してきたのです」

GNT企業はオーナー企業が多い。「強い意思決定権限を持つため、長期的なR&D投資が可能です。『自分のアイデアを実現したい』という高い意欲を有する経営者も多く、たとえば『売上の10%は研究開発に投じる』といった方針を貫くことで、2位以下の追随を許さない技術力を生みます」

人間関係やネットワークを生かし、地方から世界へ

地方に本拠地を置く企業が多い点も注目すべきだ。GNT企業が海外展開するパターンは3つある。1つ目は日本国内のニッチ市場でトップになった後に、海外進出して世界的に高いシェアを確保するパターン。2つ目は知名度が低いため国内の大手企業から相手にされず、海外で実績を作って国内へ逆上陸するパターン。そして3つ目は国内市場が小さいので、最初から世界展開を目指すパターンだ。

今や、彼らの主戦場は世界市場であり、あえて東京や大阪に本社を構える必要がない。「コストのかかる都心オフィスを避け、地方の工業団地から直接世界へ輸出する実利的なスタイルを確立し、地元の強い人間関係やネットワークを生かして、世界と対等に渡り合っているのです」

課題もある。深刻な人手不足と高齢化による技術伝承の危機だ。「GNT企業はその知名度の低さゆえに人材の採用に苦しんでいます。職人や技術者が持つ高度な技術をAIやデジタルへ落とし込む試みが進むものの、社内でDXを強力に推進できる人材の確保はなかなか難しい。また、ドイツのような公的機関主導の産業クラスターに比べ、日本の産学連携は経営者個人のつながりに依存しがちです。今後は地元の大学や高専を核としたネットワークの構築が不可欠でしょう」

「日本の優良企業が減っているということは一切ない」と田宮氏は断言する。「果敢な挑戦を支援する環境を整え、彼らの底力をいかに次代へとつなぐかが、日本の未来を左右すると思います」



Text=入倉由理子 Photo=今村拓馬

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