Works 198号 特集 ミッドサイズカンパニー 世界での勝ち方
清水馨氏|中堅企業の3タイプ、自ら市場を切り拓く企業が強い
【日本発 世界で勝てる中堅企業をいかにつくるか】日本の中堅企業の現在地
一口に中堅企業といっても、その実態はさまざまだ。独自の強みを磨き、世界で戦える中堅企業の条件とは何なのか。20年以上にわたり中堅企業の経営者へのインタビューを重ね、『中堅企業の質的成長』の著書がある千葉大学大学院の清水馨氏に聞いた。

千葉大学大学院 社会科学研究院
教授
清水 馨氏
慶應義塾大学商学部卒業。慶應義塾大学大学院商学研究科博士課程単位取得退学。2023年博士号取得。2013年千葉大学法経学部教授。2017年4月より現職。専門は中堅企業論、イノベーション論。
20年以上にわたり、中堅企業240社の経営者へのインタビューを重ねてきた清水馨氏。清水氏は研究対象とする中堅企業を、従業員300~2000人規模の企業と設定している。これは2024年5月に成立した改正産業競争力強化法の定義(従業員2000人以下で、中小企業には該当しない企業)ともほぼ合致する。
「もともと下限の300人は中小企業基本法の定義に基づいて設定し、上限の2000人は1人の上司が直接管理できる人数と階層数をシミュレーションして導きました。調査を通じた体感としても、2000人を超える企業は事業や機能の分化が進んでおり、1つの境目になると思います」
清水氏は、中堅企業に共通した特質として「大規模案件を受託できる能力」を挙げる。たとえば緊急に発生した業務でも、大型現場に一気に人員を動員して即応する。人的余裕のない中小企業も、組織が固定化している大企業も、このような融通をきかせるのは難しい。
「『持ち込まれた案件は意地でもやり切る』といった泥臭いタフさを感じます。それが、最終的にここへ持ち込めば何とか解決してくれるという信頼につながっているのではないでしょうか」
特定の技術に頼らず次の市場を見据え強みを育てる
一方で、清水氏は「中堅企業は100社100様」だと指摘する。中堅企業は、大企業と中小企業の中間という規模ゆえに、大企業から中小企業まであらゆる規模の会社が競合にも取引先にもなり得る。
その成り立ちと顧客との関係から、清水氏は中堅企業を①一次サプライヤー型、②多産業接続型、③対大企業競合型の3つに分類している。
①は、特定の大企業からの注文に応え、与えられた仕様を高品質・低コストで実現することに強みを持つ。買い手である大企業からの指示を的確にこなす他律的文化になりがちだ。
②は、大企業との直接の競争を避け、特殊専門機能へと特化し、自社の技術を異なる産業や用途へ展開し、自ら市場を広げる。取引先と対等な立場で、自ら価格決定権を持つ。組織的にはルールを理解し納得して動く自律的文化が醸成されやすい。
③は、独自ブランドや高度な技術力・宣伝力を武器に、大企業と直接競合する。高級品から廉価品まで幅広く扱い、自らルールをつくる主体的文化が特徴だ。
この3つは明確に切り分けられるものではない。むしろ、持続的に強くなる企業は、一次サプライヤー型の技術力を基盤としながら、多産業接続型へと進み、やがて対大企業競合型の力を獲得していく。「取引先から指定された部品を作るだけでなく、自社ブランドを展開することで、価格決定権やオーナーシップを持つとともに、異なる市場から情報や技術を取り込む例が象徴的です。一次サプライヤー型と多産業接続型を自社内に備える企業は強い。多層化することにより、現場情報の深さと質が格段に違ってきます」
特定の顧客に依存することは、短期的には安定につながる。しかし、顧客の市場が縮小すれば、自社も同時に危機に陥る。だからこそ、一次サプライヤー型の企業にも、自ら別の市場へ接続する力が求められる。長年培った特定の技術だけに頼るのではなく、早い段階から別の事業や市場に挑戦し、新たな強みを育てておく必要がある。
自社の強みを正しく見極め、対等な取引関係を築く
ただし、規模の拡大においては中堅企業ならではの課題も存在する。人材育成のペースが事業成長のスピードに追いつかなければ、大きな歪みが生じる。急成長すれば中間管理職が不足し、経験の浅い人材を管理職に登用せざるを得なくなり、業務の漏れや不祥事などのリスクも高まる。
「規模拡大の過程で成長が踊り場に差しかかると、社員のモチベーション低下という新たな課題が生まれます。そこで、質的成長を優先し、むやみにスケールさせない割り切りをする経営者も少なくありません」
グローバル展開に成功している企業に共通するのは、国内取引にありがちな「今回は泣いてくれ」といった曖昧な妥協を排し、常に数値と根拠を示して交渉に臨む姿勢だ。無料サービスの要求には徹底して応じない。そのためには自社の技術力を客観的に把握しておく必要があり、そうでなければ買い叩かれるか、逆に高飛車になって失注しかねない。
もう1つの鍵は、取引先の選び方にある。中堅企業が求めるのは有益な情報とお金のいずれか、あるいは両方をもたらしてくれる相手だ。市場で最も影響力のある企業と取引することで、その顧客が持つ情報や市場牽引力が自社にも波及する。トップクラスの顧客の要求に応え続けることが、技術力を磨き、次の市場を切り拓く原動力になっているという。「日本国内で成功していない企業が、海外で成功することはありません。勝てる中堅企業は、自社にとって有益な情報と適切な対価をくれる顧客をシビアに見極め、非効率な取引を断ち切る決断力を持っています」
限られた資源をどこに集中し、どの顧客と組み、どの市場へ技術を広げ、トップの個人の力をどこまで組織の力へ転換できるか。その選択と実行の積み重ねこそが、日本の中堅企業が世界で勝つための条件となる。
Text=瀬戸友子 Photo=刑部友康
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