Works 195号 特集 経営とインクルージョン

日揮グループ|発想の大転換で、障がいの有無に関係なく活躍できる組織とインクルージョン

2026年04月24日

日揮パラレルテクノロジーズ(JPT)は、主に精神・発達障がいの当事者をIT人材として迎えることで、日揮グループ全体のDXに貢献している。代表取締役社長の阿渡健太氏に、「すべての社員が対等な立場で働ける職場」を作るためには何が必要かを聞いた。

阿渡健太氏の写真

日揮パラレルテクノロジーズ(JPT)
代表取締役社長
阿渡健太氏

2005 年日揮(現・日揮ホールディングス)入社、主に人事部門で採用などを担当し、JPTの立ち上げをリードした。2024 年3月より現職。パラテコンドー日本代表で、YouTuberとしても活動中。


JPT設立のきっかけは、2019年10月に日揮グループが分社化した際、一部グループ会社の障がい者雇用率が「法定雇用率」を下回ってしまったことだった。法定雇用率を達成するため障がい者を雇用しようとしても「1人も採用できない時期もありました」と当時、採用を担当していた阿渡氏は振り返る。
 
阿渡氏自身、先天性の両上肢障がいがあり障がい者雇用の枠組みで入社した。「身体障がい者は競争が激しくなかなか採れない一方、精神・発達障がいの当事者は体調に波があることなどを理由に、最終面接で『リスクがある』と判断され採用を見送られることが多かった。このままではいつまで経っても法定雇用率を達成できないと思いました」
 
日揮グループは当時、IT人材の採用難にも直面していた。2017年に「ITグランドプラン2030」を策定し、DXなどを通じた業務効率化を進めようとしていたが、必要な人材を確保できずなかなか取り組みが進まなかったのだ。
 
阿渡氏は障がい者の偏在を解消するため、2021年にグループ会社の障がい者雇用率を通算できる「特例子会社」としてJPTの立ち上げを提案した。ITスキルを持つ精神・発達障がいの当事者を採用し、グループ内の業務効率化に取り組むことで「障がい者」と「IT人材」という2つの採用難の解消に乗り出したのだ。

「1人1業務」で力を発揮 フルリモートで成果を評価

社員6人からスタートしたJPTは2026年4月の入社者を加えると、総勢56人となる。大半は、IT特化型の就労移行支援事業所を卒業したITエンジニアだ。
 
「社員の多くは能力の凹凸があり、得意分野では非常に優れた能力を発揮しています。ITスキルだけ見れば、年収1000万円を稼げるレベルの人もいます」
 
設立当初は、AI学習モデルの作成や小規模なアプリの開発を手掛けていたが、最近はプログラミングツールのUnityなどを使ったコンテンツの作成などにも領域を広げている。
 
「最初は僕が日揮グループの事業部門に営業して仕事を受注していましたが、最近は事業部門のほうからWebに掲載した実績を見て、効率化を依頼してくるようになりました」
 
2025年末の障がい者雇用率は2.65%と、法定雇用率の2.5%を上回った。2026年7月に法定雇用率が2.7%に引き上げられることもあり、今後3年で社員を70~80人ほどに増やす計画だ。採用倍率11倍という採用力の強さ、退職者も年間1~2人にとどまるという定着率の高さが、人事戦略を支えている。
 
人気の理由の1つは「1人1業務体制」という働き方だ。「設立時にチームで業務を進めたところ、人間関係の摩擦からリタイアする人が相次いだため、1人で仕事を完結したほうが効率的だと考えました」
 
「1人1業務」の場合、社員はマイペースで働ける半面、体調不良などのときに業務が遅れるリスクもある。事業を成り立たせるために大事なのが「重要だが緊急ではない仕事」を請け負うことだという。
 
「事業部門のIT化はこれまで、専門外の社員が本業の合間に進める『急を要しない仕事』でした。このため当社も納期のプレッシャーを受けずに作業できますし、納品後には『仕事が効率化されて楽になった』と喜ばれます」
 
納期は緩やかだが、社員個人の目標を定め達成を目指すことで、漫然と作業することを防いでいる。顧客と相性が合わなければ案件を変えるなど臨機応変に修正する、やり取りは基本的にテキストベースで行う、といった工夫もしている。
 
「『とりあえずやっておいて』といった、健常者なら何となく通じる指示が伝わらないことが多いので、文字化してあいまいさを排除しています」
 
「フルリモート・フルフレックス制」も、社員に力を発揮してもらうための重要な仕組みだ。体調が上下しやすいという社員側の事情もあるが、「成果だけを評価するので、働きやすい時間と場所を自分で選択してください」というメッセージでもある。ただ、社員に働き方を「丸投げ」するわけではなく、毎日退勤時に日報を提出してもらって体調変化や業務の進捗を確認するほか、定期的な面談を行うなどこまめなフォローもしている。

マネジャーにも当事者登用 企業の「当たり前」を見直す

阿渡氏らは会社設立の際、世の中で一般的になっている「働き方」をゼロベースに戻し、一から制度を構築した。「たとえば僕自身、『フルリモートは難しいのでは』という思いはありましたが、やってみたらうまくいきました」 また週1回、オンラインで「みんなで作る会議(みんつく会議)」を開くなど、当事者の声を聞くことも重視している。
 
「僕は発達・精神障がいの当事者ではないので、わからないことも多い。職場の細かいルールについては、本人たちの意見を踏まえて作っています」
 
現在の課題は事業の拡大に伴い、業務を管理するプロジェクトマネジャーや技術の指導役が不足していることだ。2025年10月に人事制度を変更し、技術者に加えてマネジャーのキャリアパスを新設して現場から登用を始めた。人とのコミュニケーションや複数タスクの同時進行を苦手とする人も多いが「苦手だからできない」で終わらせず、「どうすればできるか」を一緒に考えることで、乗り越えていけるのだという。
 
「たとえば管理職になった人も、タスクをリスト化するなどして業務をこなしています。自分の障がい特性や得手不得手を認識することは重要ですが、サポートがあれば苦手を克服し成長することもできる。これは障がい者雇用だけでなく、すべての職場に共通すると思います」
 
人事制度改革にあたっては「『1人1業務』をこなす力はまだないが、サポートすれば業務を遂行できる人」も働けるように制度を整備した。
 
「ほかの職場では働けない人も、当社なら能力の凹んだ部分を、制度でカバーできます。受け入れる人材の幅を広げ、なるべく多くの人に働く場を提供したいと考えています」
 
大企業で多様化が進まないのは、私傷病休職を年単位で取得でき、給与も一定程度保障されるという「手厚すぎる福利厚生」が壁になっているためではないか、とも阿渡氏は指摘する。
 
「福利厚生が手厚いと、休職が会社にとって『リスク』となり、精神・発達障がい者が休職可能性の高い『ハイリスク層』として採用時に敬遠されてしまう。時短勤務の取得者にフルタイム同等の賃金を保障すると、職場の不公平感を高め取得者の離職を招く恐れがあるのと同じことだと思います」
 
JPTでは社員が体調を崩して休職した場合、賃金は支給せず本人に公的な傷病手当金を受給してもらう。休職期間は3カ月で、復帰できなければ退職となる。誰でも週20時間からの短時間勤務が可能だが、勤務時間が減った分賃金も減る。
 
「ノーワーク・ノーペイを貫き成果で平等に評価すれば、障がい者や働き方に制約のある社員を職場に受け入れるハードルも下がると思います」


Text=有馬知子 Photo=日揮パラレルテクノロジーズ提供