Works 195号 特集 経営とインクルージョン
フィリップス・ジャパン|現場に大きな裁量を委ねるインクルーシブリーダーシップ
フィリップスは組織の多様化を進めるとともに、現地法人に裁量を委ね地域に合わせた事業を展開することでグローバルに成長してきた。2026年3月にフィリップス・ジャパン代表取締役社長に就任した安部美佐子氏に、国や人材の「違い」を受け入れることの意義を聞いた。

フィリップス・ジャパン
代表取締役社長
安部美佐子氏消費財業界や投資銀行業界、ヘルスケアの業界などを経てフィリップス・ジャパン入社。スリープ&レスピラトリーケア部門の事業部長として約750人のメンバーを束ねたあと、2026年3月1日より現職。
安部氏は米系企業などを経てフィリップス・ジャパンに入社した。社長就任前は、在宅医療の領域であるスリープ&レスピラトリーケア部門の事業部長を務め、ジャスパー・ウェステリンク前社長から経営のバトンを託された。
オランダに本社を置くフィリップスは、グローバルでD&Iの取り組みが進んでいる。安部氏自身、アメリカで勤務していたときの職場は同国で教育を受けた社員が多数を占めたが、フィリップスに転職してからは欧州各国や北米・南米、アジア地域など、実にさまざまな国籍の社員と一緒に働くことになり、人材の多様さを実感したという。
「日本のユーザーや顧客の多くは、当社の本社所在地を知らないのでは。『本拠地』をあまり意識させないのは、組織が本当の意味で『グローバル』な証しだと感じますし、人材の多様さが、企業カルチャーに大きな影響を与えているとも思います」
安部氏は社長就任の際、本社の人事担当役員に「事業運営は、人を中心に置いて考えることが大事だ」というアドバイスを受けた。このことによっても、本社経営陣のインクルーシブな経営に対する「本気度」がうかがえたという。
「私も社長として、社員一人ひとりが高い意欲とエンゲージメントを持って働く組織を作りたいと考えています。そうすれば個人の力が自ずと足し算され、企業パフォーマンスの向上や前向きなカルチャーの醸成につながるはずです」
オランダに本社を置くフィリップスは、グローバルでD&Iの取り組みが進んでいる。安部氏自身、アメリカで勤務していたときの職場は同国で教育を受けた社員が多数を占めたが、フィリップスに転職してからは欧州各国や北米・南米、アジア地域など、実にさまざまな国籍の社員と一緒に働くことになり、人材の多様さを実感したという。
「日本のユーザーや顧客の多くは、当社の本社所在地を知らないのでは。『本拠地』をあまり意識させないのは、組織が本当の意味で『グローバル』な証しだと感じますし、人材の多様さが、企業カルチャーに大きな影響を与えているとも思います」
安部氏は社長就任の際、本社の人事担当役員に「事業運営は、人を中心に置いて考えることが大事だ」というアドバイスを受けた。このことによっても、本社経営陣のインクルーシブな経営に対する「本気度」がうかがえたという。
「私も社長として、社員一人ひとりが高い意欲とエンゲージメントを持って働く組織を作りたいと考えています。そうすれば個人の力が自ずと足し算され、企業パフォーマンスの向上や前向きなカルチャーの醸成につながるはずです」
事業運営をローカル化市場ニーズに柔軟に対応
フィリップスは日本で既に70年以上事業を展開し、シェーバーなどの家電製品や医療機器などの分野でシェアを獲得してきた。安部氏は、組織が日本に根付いた要因として「本社のやり方を一方的に持ち込むのではなく、ローカルに合わせて事業を運営しているからではないか」と分析する。
「当社には『ローカル・トゥ・ローカル』という言葉があり、現地調達やカスタマイズを通じて、その国の顧客に最適なサービスを提供することを重視しています。現地法人にも広範な裁量が与えられており、日本法人が独自で提供するサービスも多数あります」
「当社には『ローカル・トゥ・ローカル』という言葉があり、現地調達やカスタマイズを通じて、その国の顧客に最適なサービスを提供することを重視しています。現地法人にも広範な裁量が与えられており、日本法人が独自で提供するサービスも多数あります」
製品のハードウエアは大半がグローバル共通だが、本社の承認を得たうえで、製品に組み込むソフトを日本企業と協働で開発したり、基幹システムを日本のマーケットに合うようカスタマイズしたり、といったことが頻繁に行われている。ヘルスケア産業はその国の社会保障制度と密接な関係にあり、国ごとに異なる規制に対応しなければならない。こうした事情もあって、各国の現地法人はその国の法規制と全世界共通の「ジェネラル・ビジネス・プリンシプル」というルールの範囲内で、その国ならではのサービスを展開している。
「経営的にはグローバルで標準化したほうが、コストダウンも管理もしやすいでしょう。国ごとにサービスが変わると、組織が複雑になる面もあります。しかし各国のお客さまのニーズと規制に柔軟に対応するため、あえてローカル化を選択しています」
「経営的にはグローバルで標準化したほうが、コストダウンも管理もしやすいでしょう。国ごとにサービスが変わると、組織が複雑になる面もあります。しかし各国のお客さまのニーズと規制に柔軟に対応するため、あえてローカル化を選択しています」
さらに組織内部でも、現場のマネジャーに幅広い裁量が与えられている。たとえば人材育成に関しても、コンプライアンス教育のようなベーシックな部分は組織として共通化されているが、それ以外に何をするかは各部門にある程度、委ねられている。「各部門の統括者が人事担当者と相談し、必要だと判断したトレーニングを独自で行うことも可能です」
各部署が「一人ひとりが活躍できる」ような運営を行っているかどうかを見る指標の1つとなっているのが、年2回の「エンゲージメントサーベイ」の結果だ。各部門のマネジャーは、部署ごとに示されるエンゲージメントスコアの変化を見て、チームの状況をある程度把握している。
「スコアが高い職場はメンバーが意見や提案を出しやすく、自分たちが事業にコミットしているという充実感を持っていると考えられます。マネジャーの多くは、たとえばスコアが低下したら部下への接し方を見直すなど、現場の改善に役立てています」
「人の役に立ちたい」が共通項 医療改革に貢献したい
フィリップスはグローバル本社から現地法人へ、現地法人から現場のマネジャーへと権限を委譲することで、国や人の「違い」を受け入れ経営に生かしてきたといえる。「性別も国籍も、年齢や経歴もさまざまな社員が集まっているので、『フィリップスらしい』社員像を描くことも難しい」と、安部氏は言う。
「ただ『人の役に立ちたい』という思いを持っていることは、多くの社員に共通しています。ミッションである『Impact with care(ケアを通じて世界に影響をもたらす)』も、こうした意識があるから浸透しやすいのです」
本人の価値観に任せるだけでなく、ミッションを各職場に根付かせる取り組みも行っている。たとえばグローバルの経営陣と従業員が意見を交換する「タウンホールミーティング」などの場で、ミッションの重要性を発信し続けているほか、人事評価システムでも、成果を出すプロセスに関しては、ミッションを念頭に置いて評価している。
人を大事にするカルチャーが浸透していることで、自ずとチームワーク重視の風土も醸成された。「本社や海外法人の社員を見ても、マチュアな(成熟した)人が多い印象です。複数の国の社員が議論するときなども自分の意見ばかり主張せず、人の意見を聞く姿勢が見られます」
日本法人も、外資系にもかかわらず安部氏のように勤続年数の長い社員が多く、こうした社員の多くが、長く働く理由に「人のよさ」を挙げるという。「仕事を通じて人の役に立ちたい、という方向性が一致しているからこそ、メンバー同士の関係性がよく、働きやすいのだと思います」
一方、安部氏は日本法人の課題として、コミュニケーションをこれまで以上に充実させることを挙げた。同社にはオフィス系の職種については、週3日は出勤するというグローバルのルールがあるが、コロナ禍以降、対面でのコミュニケーション機会が減った社員も出てきたためだ。「こうした社員に対しては、個別のフォローを通じてチームとして実力を発揮できるようにするためのサポートが必要です」
グローバル本社から、日本法人への期待は非常に大きいという。市場規模が大きいこともあるが、海外諸国に先駆けて少子高齢化が進展していることも大きな理由だ。日本で培ったノウハウや技術が、将来グローバルの市場でも役立つと考えられている。
「日本法人にはデジタル化などの支援を通じて、日本の医療現場の変革に貢献することが求められています。在宅医療と施設医療を結びつけ、患者が病院から在宅へと円滑に移行できる環境整備などにも、一定の役割を果たしたいと考えています」
「ただ『人の役に立ちたい』という思いを持っていることは、多くの社員に共通しています。ミッションである『Impact with care(ケアを通じて世界に影響をもたらす)』も、こうした意識があるから浸透しやすいのです」
本人の価値観に任せるだけでなく、ミッションを各職場に根付かせる取り組みも行っている。たとえばグローバルの経営陣と従業員が意見を交換する「タウンホールミーティング」などの場で、ミッションの重要性を発信し続けているほか、人事評価システムでも、成果を出すプロセスに関しては、ミッションを念頭に置いて評価している。
人を大事にするカルチャーが浸透していることで、自ずとチームワーク重視の風土も醸成された。「本社や海外法人の社員を見ても、マチュアな(成熟した)人が多い印象です。複数の国の社員が議論するときなども自分の意見ばかり主張せず、人の意見を聞く姿勢が見られます」
日本法人も、外資系にもかかわらず安部氏のように勤続年数の長い社員が多く、こうした社員の多くが、長く働く理由に「人のよさ」を挙げるという。「仕事を通じて人の役に立ちたい、という方向性が一致しているからこそ、メンバー同士の関係性がよく、働きやすいのだと思います」
一方、安部氏は日本法人の課題として、コミュニケーションをこれまで以上に充実させることを挙げた。同社にはオフィス系の職種については、週3日は出勤するというグローバルのルールがあるが、コロナ禍以降、対面でのコミュニケーション機会が減った社員も出てきたためだ。「こうした社員に対しては、個別のフォローを通じてチームとして実力を発揮できるようにするためのサポートが必要です」
グローバル本社から、日本法人への期待は非常に大きいという。市場規模が大きいこともあるが、海外諸国に先駆けて少子高齢化が進展していることも大きな理由だ。日本で培ったノウハウや技術が、将来グローバルの市場でも役立つと考えられている。
「日本法人にはデジタル化などの支援を通じて、日本の医療現場の変革に貢献することが求められています。在宅医療と施設医療を結びつけ、患者が病院から在宅へと円滑に移行できる環境整備などにも、一定の役割を果たしたいと考えています」
Text=有馬知子 Photo=刑部友康
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