Works 194号 特集 適材適所の葛藤
適材適所を最大化するチームケミストリー。技術・頭脳・メンタル・関係性の要諦
自ら企業を経営しつつ、グロービス経営大学院ではマネジメントの教員も務め、かつジュニアサッカークラブの代表でもある平野氏。ビジネスにもスポーツにも共通する「適材適所」の要諦とは何かを語ってもらった。

セカンドリーム 代表取締役
平野善隆氏
総合商社を経てグロービスに入社。その後、セカンドリームを設立。現在は代表取締役として同社の経営に携わると同時に、グロービス経営大学院の教員、ジュニアサッカークラブ下丸子シューターズの代表兼コーチを務める。
私は大学卒業後、総合商社に就職しました。管理部門に配属され、なかなか仕事の成果を出せずに苦労しました。そんななか、社内で優秀な人たちであっても相性の悪さやコミュニケーション不全が原因でチームが機能しないことがあるのを目にして、人と組織に興味を抱くようになりました。そして、マネジメント教育を手掛けるグロービスに転職しました。
サッカーを始めたのは小学生のときでした。その後、大学時代に東京都大田区のジュニアサッカークラブ下丸子シューターズのコーチを務め、社会人になって再び縁あって同クラブの監督を務めることになりました。今は元Jリーガーに監督を譲り、代表としてクラブを経営しながら、コーチとして現場にも立っています。
サッカーチームは当然ながら適材適所で選手を配置しないとうまく機能しません。たとえばスピードのある選手をフォワードに、背の高い選手をディフェンスに配置するといったことだけではなく、複数の要素が関係してきます。また、試合前に「これがベストだ」と考えて配置したとしても、対戦相手や局面によって適材適所は刻々と変化します。そうしたなかで試行錯誤をしながら最適解を探っていくと、そこで見えてきたものはビジネスの世界でも活かせることがわかってきました。スポーツチームをモデルに考えるとわかりやすい面があるので、私はマネジメント教育の際にもよくサッカーチームを例に話をしています。
関係性の問題は、コーチと子どもの間でも起こる。上司の考え方や上司との関係性の固定化が部下の成長に影響を与えていないか注視する必要がありそうだ。
Photo=平野氏提供
能力にメンタルが伴わないと パフォーマンスは発揮できない
では、ジュニアサッカーで適材適所を実現するために何を見ているかというと、まずは身体能力と技術です。身体能力は、足が速い、スタミナがあるなど。技術は、キックを正確に蹴ることができる、ボールを相手に取られずうまく扱えるといったことです。たとえばパワーがあってキックを強く正確に蹴ることができる選手は、後方から前線にボールを送る役割に向いていたりします。
次にポイントになるのが、頭脳です。たとえばポジションごとの役割を理解しているか、あらゆる局面において相手と味方の位置やスペースなどを認知し今どう動くべきかを整理することができるか、によって適性ポジションを決めます。
そして、これらと併せて重要なのがメンタルです。自分の役割を理解し、同時に「やってやるぞ」というメンタルがセッティングできていればパフォーマンスは発揮されます。ところが、与えられた役割に苦手意識があると、能力はあるのにパフォーマンスを発揮できないことがあります。監督が「この子はできる能力がある」と期待してほかのポジションに配置しても、本人が「実は苦手なんだよな」「やりたくないな」と考えているとうまくいかない。だからメンタルを見ることは非常に大事です。
それなら本人がやりたいポジションをやらせればいいのかというと、それが本人の適性と必ずしも一致するわけではないのが難しいところです。本人が希望しないポジションを任せる場合は、メンタルを整えに行きます。ポイントは2つ。1つは、そのポジションに必要な能力を持っていると評価し、期待をしっかり伝えること。もう1つは、タスクをシンプルにすることです。たとえば、フォワードに必要な役割をすべて要求すると、その時点ではまだできないことがあり、「だからやりたくないって言ったのに」というネガティブなメンタルになってしまう。なので、「スピードを活かして前に走ればOK」といったように、1つか2つのタスクに絞って試合に送り出します。
関係性がよくない場合は 物理的にポジションを離す
実は最も重要なのが関係性です。互いを信頼してパスを出したり、協力して守備をするということは、個々の能力はあっても組み合わせがはまらないとうまくいきません。その結果、「1+1」が「1.5」になってしまうことがよくあります。
たとえば、自分にパスが来ると期待して前に走ってもパスが来ないことが続くと、「じゃあ自分もお前にはパスを出さないよ」となってしまう。そうした様子が見られたら、同じサイドには配置せず、両者があまり関わらないようにするといった配慮をします。この関係性は、サッカークラブのなかだけでなく、学校での出来事などが影響している場合もあるので、何が原因かを丁寧に探る必要があります。
また、新しいメンバーが入ったときはチーム全体の関係性が崩れてしまうことがあります。危険信号が出るのは、1つに指導者がそのメンバーを褒めすぎて、既存のメンバーの不満が高まってしまうとき。もう1つは、逆に期待と実際のプレーの落差が大きいとき。この場合、プレー面でよい連携は期待できません。そんなときは、早めに介入して、お互いにリスペクトし合える関係性を再確認させるようにします。
関係性の問題は選手同士だけでなく、コーチと選手の間で起きることもあります。コーチにはそれぞれのサッカー観があり、ドリブル重視、パスワーク重視などポリシーとする戦術も違うので、そのコーチのもとでは評価されない選手が出てきてしまう。コーチといえど、主観からは逃れられないのです。だから、1年間1人のコーチが担当したら、次の年は違うコーチが見るといった形で指導や関係性が硬直化しないよう配慮しています。
ビジネスの世界では近年、ジョブ型の導入や、それに伴うスキルマップの作成など、可視化されやすいスキルを重視して適材適所を考える傾向が高まっています。もちろんスキルはとても大事ですが、お話ししてきたように、メンタルや関係性といった要素にも十分に気を配らないとチームとして機能しなくなります。
子どものサッカーチームも大人のビジネス組織も両方見ているなかで感じるのは、どちらも適材適所を巡る課題に大きな違いはないということです。ただし、子どもは不満があれば素直に表に出しますが、大人は我慢してしまう。そのため、問題があっても爆発するまで表面化しにくい面があります。子どもも大人も心理的安全性がある環境づくりは欠かせません。マネジャーは、相手が我慢していることを浮かび上がらせるようコミュニケーションを工夫することも時に必要になります。
※「葛」は正しくは旧字体/下が「ヒ」
Text=伊藤敬太郎 Photo=今村拓馬
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