Works 194号 特集 適材適所の葛藤

ソフトバンク|手挙げ制による異動を基本に、社員のキャリア形成と適材適所を同時に実現

2026年03月13日

ソフトバンクは今、大手通信事業者として日本のインフラの根幹を支える一方、生成AIを核とした新規事業に大胆な人的リソースのシフトを進めている。この動的な状況のなかで、同社はどのように「適材適所」を進めているのか。

萩原 篤氏の写真

ソフトバンク
コーポレート統括 人事総務本部 組織人事第一統括部 統括部長
萩原 篤氏


AIが加速度的に進化するこれからの社会を見据え、「次世代社会インフラの構築」を掲げるソフトバンク。AIと通信の融合(AI-RAN)を中心とした技術革新によってモバイルネットワークのさらなる進化を目指す同社は、人事に関する「適材適所」をどのように捉え、実現しているのだろうか。直近でも、米OpenAI社との合弁会社の設立など新たなる領域への挑戦に向けて、現在進行形で組織のダイナミックな変化と成長を続ける同社では、人事異動の主軸に手挙げ制を置いている。コーポレート統括人事総務本部組織人事第一統括部統括部長の萩原篤氏は、「会社主導による異動もありますが、フリーエージェント(FA)制やジョブポスティング(JP)制度を活用して、それぞれの社員が希望する部門へ異動するケースが多いです。中長期的な視点でソフトバンクグループのさらなる成長を実現するために、各部門で必要になるポジションを社内から募集するといったやり方が一般的です。OpenAI社との合弁会社を作った際も、中心メンバーは会社が指名しましたが、同時に50名程度のジョブポスティングを全社に出して、手挙げで募集しました」と、説明する。

教育・制度・採用を組み合わせて 最適な人材ポートフォリオを構築

同社は人事戦略として、「最適な人材ポートフォリオ構築」を掲げている。社内研修機関のソフトバンクユニバーシティによる多様な学習機会の提供、FA制度・JP制度・社内副業制度・社内起業制度など各種制度の整備、高市場価値人材の積極的採用などを組み合わせた総合的な人事施策により、最適な人材配置と個々の社員の主体的なキャリア形成とを同時に実現することを目指す。

「クラウド事業を新規に始めた際には、教育とセットで異動するリスキリング型ジョブポスティングという取り組みを実施しました。教育に関しては、外部に依頼するのではなく、ソフトバンクユニバーシティおよびAIに特化した研修コンテンツを持つ子会社を活用。育成型ということもあり、スキルが十分でない段階で異動している社員もいるので、すぐに成果を出すというわけにはいきませんが、1年~1年半くらい経つと異動先での評価も高まってきます」

一連の取り組みを通して、「生成AIを活用した生産性の向上による既存領域の業務の効率化」と「新規領域へ人的リソースの戦略的な再配置」の両輪で適材適所の人材配置を推進。実績ははっきり数字に表れており、過去2年間に約1000人が新領域へシフトしたという。同社の社員数は約2万人なので、5%ほどがこの短期間に動いていることになる。

制度としてFA制度やJP制度を導入している企業は多いものの、実際に自ら手を挙げて動く社員がどれだけいるかは次なる課題となりがちだ。では、ソフトバンクでは、なぜこれだけの数の社員が動いたのか。その要因は、同社が10年にわたり、社員が自らキャリアを切り拓き、前向きに挑戦する姿勢を重視して採用・教育に取り組んできたことと、上司が人材を囲い込まず後押しする文化の存在にある。

また、さまざまな部門から人を集めて急仕上げで作った組織がうまくワークするポイントについて、萩原氏は次のように説明する。

「『これをいつまでにやる』というミッションが決まると、全員が同じ方向を向き、時間軸も共有することができる。バックグラウンドは関係なく、ミッションありきなので、そこでの迷いはないですね。高い目標が与えられると、それを実現するためにみんなで“祭り”のように取り組む文化があります」

1人100個のAIエージェントを作る 全社員参加型のプロジェクトを実施

2025年夏には、このような社員一人ひとりの意識や企業文化を象徴する取り組みが行われた。

「月に1回、社長の宮川潤一がウェビナー形式で全社員に発信する場を設けているのですが、そこで“一人ひとりがAIエージェントを作ろう”という話が持ち上がりました。その企画が一気に加速し、部門を問わず全社員が1人100個のAIエージェントを作るというプロジェクトが立ち上がりました」

AI分野における国内トップランナーであるソフトバンクとはいえ、全員がAIに強いわけではない。だからこそのこのミッションなのだろうが、さすがに100個は無茶な目標に思える。しかし、まさに“祭り”のように全社員がこのミッションに取り組み、プロジェクトスタートから2カ月半で250万個のAIエージェントが完成したという。

「もちろん私も作りました。仕事用では人事規定をすべて学習させて、わからないことをすぐに聞けるものなどですね。異動してきたばかりで知識が足りないときに非常に役立ちました」

プロジェクト後のアンケート調査では、約9割の社員が生成AIの理解度が深まったと回答。また、約8割が生成AI活用イメージが向上したと回答している。プロジェクトを通して生成AIの日々の業務への活用が促進されることはもちろん、自らのキャリアを考える際の選択肢が増えた社員も多いはずだ。

「ソフトバンクは『守るべきインフラとしての既存事業』と『全力で取り組むべきAIなどの新規事業』の両利きで動いています。時代に合わせて筋肉質な組織にしつつ、新しい領域へ人をシフトさせていくことで、両方の事業で適材適所を実現していきたいですね」

※「葛」は正しくは旧字体/下が「ヒ」

Text=伊藤敬太郎 Photo=伊藤 圭