Works 194号 特集 適材適所の葛藤

「個性」を言語化し、パーソナリティの視点から「同魂異才」の組織を目指す

2026年03月19日

適材適所の配置を実現するには、個人の能力や特性をどのように捉え、組織としてどう活用するかが問われる。曖昧な個性論に陥らず、科学的な視点から人材を活かすには何が必要か、國學院大学の鈴木氏に聞く。

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國學院大学 経済学部 教授
鈴木智之氏

慶應義塾大学総合政策学部卒業。東京工業大学大学院社会理工学研究科修了。アクセンチュア、wealth share 代表取締役社長、東京大学大学院情報学環特任准教授、名古屋大学経済学部経営学科准教授などを経て、2025年より現職。


ビジネスの現場でも「個性が大切だ」とよく言われますが、最大の問題だと思うのは、個性の定義が明確にされていないことです。「人間力」のような曖昧な表現に終始したり、人材要件を定義していても解釈が人によって異なっていたりするケースが少なくありません。

たとえば、日本企業の採用基準で常に上位に入る「協調性」。「協調性がある人」という場合、多くは「周囲とうまくやりながら成果を出す人」というニュアンスで使います。しかし、パーソナリティ特性研究の代表的なフレームワーク「ビッグファイブ」では、「他者の意見を受け入れる受容性」を指します。基準を設けても定義が曖昧では、どのような人を採用すべきか不透明なままです。

重要なのは、個性とは何かを会社として言語化し、個々の感覚や好みだけで人を選ばないようにすることです。たとえばゴールドマン・サックスでは、知的能力だけでなく「粘り強さ」を重視しています。マーケットのよし悪しやディールの成否にかかわらず、粘り強く取り組む人が最後に勝つという価値観を社内で明確に言語化しているのです。アマゾンには「Bar Raiser」という社内資格があり、選任された社員が面接で、その求職者が自社の求める人物像の定義に照らして基準を満たしているか、採用判断を下す役割を担っています。

これらは特定の人を否定するためではなく、一人ひとりの現状を正しく把握し、基準に照らして高い要素は活かし、そうでない要素は伸ばしていくためのものです。まずは、組織内で個性を見る目を揃えることが先決です。

「多様な個性を活かす」ことは大切ですが、数が多いだけの無秩序な多様性は、カオスでしかありません。基本的な価値観や目的意識は共通したうえで、個人の持つ多様な能力や個性を活かす「同魂異才」の組織を目指すべきだと思います。

認知・非認知研究から 個性を3つの要素で捉える

では、人間の個性や特性を何で測ればよいのか。一般的には、考える系の能力「認知能力」と、感じる系の能力「非認知能力」とに分けられます。

実は、個性に関してアカデミックな研究が始まったのも、19世紀後半からと、歴史はそう古くありません。その中心は心理学です。このうち最も研究の歴史が古いのは、認知能力です。認知能力には学力と知的能力の2つがあり、学力は経験に依存した問題解決能力、知的能力は経験に依存しない問題解決能力を指します。つまり、習ったことができるかどうかによって、知的能力の高さを必ずしも判断できるわけではありません。

知的能力をさらに掘り下げると、すべての知的活動の基礎となる「一般知能因子(GMA)」と、特定の知的活動に利用される「特殊知能因子」に分かれます。仕事のパフォーマンスを予測するうえでも、GMAが最大の指標であるというのはこれまでの定説となっており、グーグルでは採用の4要件の1つとして「一般的な認知能力」、すなわちGMAを掲げています。

一方、非認知能力は経営の世界で人間関係論などによってかねて重視されてきましたが、近年さらに注目されるようになった主なきっかけの1つは、ノーベル経済学賞を受賞したジェームズ・ヘックマンの研究です。恵まれない家庭の子どもに対する非認知サポートが大きな社会的成功につながることが実証的に示されました。つまり、仕事の成功においても、意欲や自信、粘り強さといった非認知能力の重要性が明らかになりました。

ただし、非認知能力に関しては、心理学の研究と企業の現場では「能力」の捉え方に違いがあります。企業の現場では、能力は教育や経験によって上昇的変化するものという期待が前提にあります。一方、心理学で能力というと、GMAを暗黙的に指すことが多くあります。「GMAの80%は遺伝で決まる」という研究もあるほど、変わりにくいものを指すことが多いのです。

そこで私は、変えることのできる「非認知能力」と、性格のように不変ではないが容易には変わりにくい「非認知特性」を切り分け、「知的能力」「非認知能力」「非認知特性」という「個の3要素」として提唱しています。採用時には変わりにくい「特性」を見極め、人材育成で「能力」を高めていくと考えると、実務的にも活用しやすいでしょう。

「聖人君子」を脱し、個性の両面性を使いこなす

ただし、「誠実」という特性を持つ人が常に誠実に行動するかといえば、必ずしもそうではありません。人の特性は特定の状況において活性化されたり、逆に抑制されたりします。100の能力を持っていても、状況によって50になったり130になったりするのです。

特性活性化理論という1960年代ごろに起源のある理論があります。それ以前は個性は固定的なものという見方が主流でしたが、「状況変数」という要素が関わっていることがわかってきました。

たとえば開放性の高い人は、自由な環境でパフォーマンスが向上しますが、厳格なルール下では抑制される傾向があります。つまり、適材適所を実現するには、「この特性を持った人が自社には必要だ」という考え方だけでは安易すぎます。「この特性を持った人が、どういう状況だったら、その強みが発揮されるか」という視点が必要です。

また、個性に着目すると、組織は往々にして、誠実で協調性があり、かつ仕事も完璧な「聖人君子」を求めがちです。しかし、完璧な人間など存在しませんし、個性には必ず両面があります。

近年、「ダークトライアド」という特性が世界的に注目されています。他者をコントロールしようとするマキャベリアニズム、強い自己中心性を持つ自己愛傾向、強い衝動性を持つサイコパシー傾向からなる特性で、問題行動に関わるものとして従来は研究が進んできました。しかし、一見ネガティブな特性も、状況によっては強力なリーダーシップの源泉になり得ることが実証的に報告され始めています。現状を打破してブレイクスルーを起こす人は、ある意味では、既存のルールや周囲への忖度を軽視するような面を併せ持っているともいえます。

個性の研究は差別との闘いの歴史でもあります。たとえば知的能力は20世紀にアメリカで大論争になりました。当時はまだ人種で論じることが社会に存在し、白人と黒人の知的能力を比較するような研究が行われ、それが人種差別につながるという批判がありました。現在でも個性研究を誤った形で使うと、「あいつは誠実さに欠ける」などのレッテル貼りにつながる危険性があります。

重要なのは完璧さを求めることではなく、人間誰しもが持つ、それぞれの特性の現在地を理解し、強みをどう活かすかを経験を通じて学ぶことです。そのためにも、組織として「個性とは何か」を理解し、共通のフレームワークを持つことが不可欠です。

※「葛」は正しくは旧字体/下が「ヒ」

Text=瀬戸友子 Photo=今村拓馬