Works 194号 特集 適材適所の葛藤

個人の「Will」や「Want」を起点に、スポンサーが個人に寄り添う適材適所

2026年03月13日

能力もパーソナリティも変化するもの。「個人と組織の成長を阻む、現代的「適材適所」に異議あり!」でそう言い切った大久保が考える、適材適所に個人の意思を取り入れるとき、起点になるものとは何か。

大久保幸夫の写真

リクルートワークス研究所 アドバイザー
大久保幸夫


人を配属する際には、これから伸びる可能性をどのように見極め、引き出すかが問われます。そのために欠かせないのが「Will」や「Want」といった、本人の内発的な動機の理解です。私は、人の成長にとって「好き」「興味がある」という感情ほど強いエネルギーはないと考えています。好きなことには自然とのめり込みますし、苦しくても続けられます。「やりたい」という気持ちは適性の半分を満たしているといっていいほどです。ところが、これまでの企業社会は、本人の「やりたい」よりも、「やるべきこと」を重視してきました。

視点を変えて仕事の価値を伝えるリフレーミングの活用を

とはいえ、全員のやりたいことを聞き、その仕事に就いてもらうのは現実的には不可能です。すべての異動を公募制やジョブポスティングによるものにしようとする企業が出てきていますが、それだけでは行き詰まってしまうことは間違いありません。

そのときに効果を発揮するのが、「リフレーミング」と呼ばれるアプローチで、キャリアアドバイスにおいて非常に有効だといわれています。本人がやりたくない、想像したこともないという仕事でも、視点を変えてその仕事の意味や価値を伝えると、興味が芽生える場合があるのです。

たとえば管理職になりたくないという人でも、実際のマネジメント業務の本質や魅力を伝えると、「それならやってみたい」と考えが変わることがあります。逆に話を聞いた結果、「やはり興味がない」と再認識するのであれば、それはそれで構いません。

「スポンサーシップ」も重要です。人をよく見ている上位管理職が、「これをやってみないか」と提案し、本人の同意の後でチャレンジを促します。人を見る力を持ち、個人をキャリアに向き合わせるスポンサーや支持者になり得るマネジメント層が寄り添い、背中を押すのです。

すべてを本人任せにして「好きに探しなさい」では動けない人も多い。一方で、企業がすべて決めてしまえば、キャリアオーナーシップは育ちません。その矛盾を解消するためにも、「抜擢=強制」ではなく、「ストレッチアサインメント=合意」のあり方が重要です。背伸びした仕事に挑むとき、本人の合意があるかどうかで、その後の成長が大きく変わることは間違いありません。大切なのは、本人の意思を丁寧に解きほぐし、真の「Will」や「Want」を見つけることなのです。

短いジョブローテーションで 俯瞰的理解や興味の芽を育てる

定期異動はどう考えるべきでしょうか。私は、従来のように「すべての人を」「3年など長期スパンで」動かすことに大きな意味があるとは思いません。若手人材に限定し、もっと短い期間で複数の部署をテンポよく回るようにすべきです。1部署は半年から1年程度、数カ所を経験し、本人の興味や得意なこと、キャリア観が見えてくるタイミングで次のステップを設計するのが望ましいでしょう。ジョブローテーションは、高度な技能を身につける場ではなく、俯瞰的理解や興味の芽を育てるためのものだからです。

もちろん、若手期を過ぎれば話は変わります。ある程度専門性を蓄積する時期には、短期で動かすのではなく、腰を据えて取り組む時間を与え、同時にプロジェクト任用などを活用しながら「変化のある経験」を提供する必要があります。長くいることで深い理解が生まれ、何年かしてから大きく能力が開花する人もいます。

人の成長パターンは多様です。一律のルールではなく、本人の学習特性に合わせて判断していくべきです。

※「葛」は正しくは旧字体/下が「ヒ」

Text=入倉由理子 Photo=刑部友康