Works 194号 特集 適材適所の葛藤
「縦・横・斜め」の移動により活躍の可能性を広げるミスマッチ解消
日本企業のミスマッチの現状をあらわにした久保田氏。ミスマッチを組織や人事の仕組みが引き起こす現象だと指摘する。配置の仕組みをどのように変えていけばいいのだろうか。

アビームコンサルティング
執行役員 プリンシパル 人的資本経営 戦略ユニット長
久保田勇輝氏
外資系コンサルティングファームを経て、2022年よりアビームコンサルティングに参画。人的資本経営コンサルティングのチームのリーダーとして、国内大手企業に対し、経営・事業戦略と人事戦略を統合した人的資本経営の実践を支援。著書に『人材マテリアリティ─ 選択と集中による人的資本経営』(日経BP)がある。
ミスマッチを引き起こす最大の要因は、内部流動性の低さです。
そもそもキャリアとは、昇進・昇格という上へ向かう1本の階段ではないはずです。しかし現場を見渡すと、そうした柔軟なキャリア形成とは逆行する文化が根強く残っています。別の部署に横異動することが「左遷」と捉えられるという話も聞くほどです。異動が本来持つ「活躍の可能性を広げる」という意味が失われ、配置が暗黙の格付けになってしまっている。こうした環境では、挑戦したい人も動けず、企業も人材の可能性を十分に引き出せません。
マッチングは常に上のキャリアへと上ることではなく、従業員がいちばん活躍できる場所を選択することの繰り返しです。そこで私が提案するのは、「縦・横・斜め」を自由に移動できる仕掛けとカルチャーの構築です(図1)。
[図1]マッチングの仕掛けづくり
出所:久保田氏作成
横移動は異なる領域や人、価値観に触れる探索の機会
縦の上方への移動は従来の昇進です。求められるスキルが現状の自分を少し超えている場所にあえて移動していくことで成長を促進します。本来、企業は「できる人」を配置するのではなく、「伸びる人」に挑戦の機会を渡すべきなのです。しかし実際は短期成果が優先され、挑戦の芽が企業側の都合で潰されてしまうことも少なくありません。だからこそ、スキル要件の明確化、不足をどう学ぶかのプロセス設計と同時に、挑戦しても安全な心理的基盤づくりが必要になります。
一方で、横の移動は「もっと活躍できるかもしれない」という仮説を検証することだと考えます。私は複数の企業データを分析するなかで、同じ部門に長く滞留することで、特にミドル以降、人材の成長が止まる組織があることを見てきました。仕事の内容も、期待される能力も変わらないままでは、どれだけ優秀な人でも伸びしろがなくなってしまう。横移動は、異なる領域や人、価値観に触れ、新たな能力を磨くための探索そのものです。
さらに、縦と横の掛け合わせで起こるのが「斜め上」への移動、つまり抜擢です。これは非連続な成長を引き起こし、企業のイノベーションにも直結する配置になり得ます。しかし日本企業では、抜擢が属人的に行われることが多く、また柔軟性に欠けることも少なくありません。本来の抜擢は、ケイパビリティ、成長余地、意欲、行動特性といった複数の観点から、データに基づいて行われるべきものです。
下・斜め下への移動も キャリアの再設計として肯定する
もう1つ、私が強調したいのが「斜め下」や「下」への移動の有効性です。多くの企業では、降格とみなされ、ネガティブなラベルが貼られてしまいますが、人は常に全速力で走れるわけではありません。ライフステージや専門性の転換期、心身の状態によっては、一度負荷を調整し、専門性を磨き直したり、態勢を立て直したりするほうが長期的な成長につながります。にもかかわらず、部署を移った後にそこからもう戻れない「片道切符の異動」になってしまう企業が今も少なくありません。専門性に合うポジションへ一時的に下がっても、成果報酬などで努力が正しく評価される仕組みを整えることで、キャリアの再設計を肯定するべきなのです。
忘れてはならないことは、内部の流動性を機能させるためには同時に明確な職務構造を設計することです。日本企業の多くは、中期経営計画を策定してもそこから必要となる職務構造を設計できていない。事業ポートフォリオの未来を描き、必要な組織能力と将来の職務像を逆算する。その未来と現在のギャップを把握し、どの人をどの方向に育成し配置するべきかを設計する。多くの人の声を聞いてきましたが、移動による豊かなキャリア形成の道筋を示すことにより、組織の外に出るという選択が確実に減っていくこともわかっています。それがマッチングの精度を高めることにもつながっていくと思います。
※「葛」は正しくは旧字体/下が「ヒ」
Text=入倉由理子 Photo=今村拓馬
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