Works 190号 特集 本気の 女性リーダー育成

若い男性は「仕事優先」0%。雇用不安定化や格差拡大が要因か

2025年07月28日

静岡市で仕事と家庭の優先度を調査したところ、30代以下の男性で「仕事優先」と回答した人の割合は0%だった。調査を監修した静岡県立大学教授の犬塚協太氏に、意識変化の要因を聞いた。

男性の育児風景


2021年に静岡市からの委託で、「男女共同参画市民意識調査」の監修を行いました。年代別に仕事と家庭の優先順位を聞いたところ、30代以下の男性では「仕事優先」を希望する割合が0%だったのです。「仕事優先」の回答は最も多い世代でも10%以下ではあるものの、「ゼロ」は予想外でした。

若い男性の意識が明確に家庭志向に向かっていることは、全国的な調査でも確認できています。若い世代は圧倒的に共働き世帯が多く、現実問題として夫たちの家事育児は不可欠です。私自身大学で教えるなかでも、10年ほど前から男子学生が「結婚したら子育てに関わりたい」と話したり、就活でワークライフバランスを推進する企業を選んだりするのを見て、変化を実感しています。

社会にジェンダー平等の概念が浸透したことが、男性の意識変革を促した面もあるでしょう。しかし、概念だけでこれほどの変化が起きたとは考えづらい。若者たちの親世代にはまだ、共働きでも父親が家計の柱を、母親が主に家事育児を担う性別役割分業が残っており、価値観が一変するほどの生育環境ではないからです。むしろ雇用の不安定化や格差拡大といった外部要因によって、必要に迫られて意識が変わった可能性が高いと考えています。

働いても報われない 男性に広がるニヒリズム

1990年代前半ごろまで、男性が仕事を優先することは「美徳」とされました。しかし、バブル崩壊後の就職氷河期や非正規雇用の拡大で、男性の雇用も不安定になり、格差が拡大しました。それによって男性に「懸命に働いても報われはしない」というニヒリズムが広がり、家族がいる人は家族との生活に、未婚であれば趣味などのプライベートライフにそれぞれ充足感を求める傾向が強まったのではないか。家庭を犠牲にして働く父親世代を反面教師に「あんな働き方はできない、したくない」と考えるようになった面もあるでしょう。

一方、女性たちは就労が進むにつれて、男性に自分と同水準かそれ以上の収入を求めるようになり、低所得の男性の未婚化が進みました。また中間層から転落するリスクが高まるなか、よほどの高収入を安定的に維持できる男性でなければ、1人で家計を背負うのも難しくなりました。この結果、男性が結婚相手を得るには一定水準の収入を確保すると同時に、妻が働き続けられるよう家庭での負担も分かち合う必要性が生じたのです。

前出の調査では、30代以下の男性たちの3割弱が、実際には「仕事優先」の生活を送っていると回答しました。静岡県は高度成長期型の古い体質の製造業、特に中小企業が多く、保守的な働き方が温存されやすい。このため、企業側が男性のニーズに合った働き方を提供できず、希望と現実が乖離しているという事情もあります。

しかし経営者たちにこの事実を話しても、「大変ですなあ」とどこか他人ごとで、危機意識が薄いと感じます。また経営者が働き方を変える必要性を認識しても、具体的に何をすればいいかわからず行動に結び付かない、というもどかしさもあります。経営層の危機意識を高めること、初めの一歩となる具体的なアクションを提示することが、今後の課題といえるでしょう。

Text=有馬知子 Photo=犬塚氏提供(犬塚氏写真)

犬塚協太氏

静岡県立大学
国際関係学部国際関係学科 教授
男女共同参画推進センター長

専門は家族社会学、ジェンダー社会学など。浜松市男女共同参画審議会会長や富士市男女共同参画審議会会長など、女性活躍推進に関する多くの役職も務めている。