Works 190号 特集 本気の 女性リーダー育成

AIで女性へのバイアスを払拭できるか

2025年07月28日

男性上司が女性の部下をマネジメントする際、無意識のバイアスが育成や配属を歪めてしまうことがある。AIの活用によって、バイアスを排して女性の能力を伸ばすことは可能だろうか。企業のAI導入を支援するパロアルトインサイトCEOの石角友愛氏に聞いた。

イメージ写真Photo=今村拓馬


中国の囲碁教室でAI教師が囲碁を教えた結果、女子生徒が男子以上の速さで上達し、5カ月で男女差が解消したという話を聞いたとき、無意識のバイアスが女性の成長を阻むことを実感しました。AIが男女関係なく同じ反応を返す一方で、人間の教師がいかに女子より男子生徒に肯定的な反応を返していたかがわかります。

囲碁も日本企業も、育成する側の大半が男性という構図は同じです。このため上司が配属や身につけるべきスキルなどをアドバイスする際、「女性は出産育児を控えているから、この部署のほうが向いている」といったバイアスが入り込むことがあります。こうした無意識のバイアスは、受け手の人生を歪める可能性がありますが、AIを使えば回避できます。若い女性の場合、男性上司よりAIのほうが、心理的なハードルが下がり相談しやすいかもしれません。

企業側も、助言や育成のプロセスがデータで残るので、データを解析し問題点を改善することもできます。このようにAIならではの透明性、公平性は企業側と従業員、双方に大きなメリットがあると考えています。

バックラッシュを逆手に取る AIが少数派を公平に評価

もちろんAIにも、学習させるデータの偏りや設計者のバイアスが反映されてしまうリスクはあります。ただ人間にいくら研修を実施しても、潜んでいるバイアスが何かの機会に表出することもある。比喩的な言い方ですが、100人の上司をコントロールするより、1人のAI設計者のバイアスを解消するほうが効率的だと思います。

従来、アメリカにはAIのリスクを回避するため、採用現場での使用を禁止する動きもありました。しかし今は採用現場で、AIを適性検査などに搭載して求職者のスキルを調べるといったケースも増えています。「リスクがあるから使わない」のではなく、起きた問題をその都度解決しながら使い続けるほうが建設的です。

最近は、AIが利用者の意図や嗜好に合わせて回答する「AIアライメント」も研究されています。教育や採用の現場では場合によっては不要な「忖度」をするリスクもあるので、活用領域によって対応を考える必要はあります。

トランプ政権発足後、アメリカではDEIの取り組みから撤退する企業が出ています。DEIが企業利益やイノベーションの源泉であることがうまく社会に伝わらず、多くの人がDEIを単なる「優遇措置」と捉えてきたことが、バックラッシュの一因だと思います。2023年にアファーマティブアクションに関する違憲判決が出ていたことも、大きな引き金になりました。

ただDEI関連の制度が撤廃されてもなお、多様性の重要さに対する議論は変わりません。マイノリティの人たちが活躍し続ければ、DEIに反発していた人も実力を認めざるを得ず、多様な人材の活用はむしろ加速する可能性もあります。その際、AIを活用すれば評価の公平性を担保でき、当人や周囲の納得感も高まります。

ただし、AIを導入するなら、ユーザーの「使いこなす力」を均質化することも大事です。既にAIを使いこなせる人と、そうでない人の格差が生じ始めています。今後は利用者に基本的なリテラシーとリスクを伝えることで、AIを「人間の仕事を奪う」として排除するのではなく、前向きに活用するための環境整備が求められるでしょう。

Text=有馬知子 Photo=石角氏提供

石角友愛氏

パロアルトインサイト
CEO/ AIビジネスデザイナー

グーグル本社、AIベンチャーなどを経て、シリコンバレーでパロアルトインサイトを起業。著書に『AI時代を生き抜くということ ChatGPTとリスキリング』(日経BP)など。ハーバード・ビジネス・スクール修了(MBA)。