Works 190号 特集 本気の 女性リーダー育成

クオータ制は日本に馴染むか 民間手動で女性登用進んだイギリスの事例

2025年07月18日

欧州議会が2013年、上場会社の非業務執行役員に占める女性の割合を40%以上とする指令案を可決し、女性登用が進む欧州諸国。なかでも特色ある取り組みのイギリスについて、イギリス会社法に詳しい久留米大学教授の本間美奈子氏に聞いた。


イメージ風景写真Photo=今村拓馬

EU指令案可決を受け、欧州諸国のなかには、役員の一定割合を女性にするクオータ制を法律で導入した国もありましたが、イギリスでは法制化への抵抗感が根強く、企業が自主的に対応し、国はそれを支援する方法を採りました。特徴的なのは、独立したレビュー機関が企業の進捗状況を評価し、報告書で毎年度公表していったことです。

国の後押しでできたレビュー機関「デーヴィス・レビュー」は経済界のトップ経験者や大学の研究者らで構成され、2011年、FTSE100企業*に対し、2015年までに取締役会に占める女性の割合を25%以上に、また上場企業が取締役や上級管理職、従業員の女性割合を毎年度開示するよう会社法の改正を勧告しました。

当初は女性登用への理解が十分でない企業も多く見られたものの、レビュー機関は企業トップを啓発してきました。時には企業に対して課題を指摘し、改善を求める文書を送付。トップだけでなく、取締役会議長や法務・総務部長にまで送ることで、徐々に理解が広がっていきました。2015年公表のファイナルレポートによると、FTSE100企業平均では、取締役会の女性割合は2011年の12.5%から2015年には26.1%に増加しました。

成功要因は計画的な取り組みと 企業主導の自主規制アプローチ

ただ、まだEU指令案の示す「女性割合40%」までには隔たりがあります。後継となるレビュー機関「ハンプトン─アレクサンダー・レビュー」は、FTSE350企業に対象を拡大し、2020年までに取締役会と管理職上位二階層に占める女性を33%以上にすることなどを求めました。2021年公表のファイナルレポートによると、FTSE350企業平均で取締役会に占める女性割合は、2016年の23.0%から2020年には34.3%に、管理職上位二階層ではFTSE100企業平均で2016年の25.1%から2020年には30.6%に増加しました。
イギリスが着実に成果を上げた要因は2つあります。1つ目は、レビュー機関が10年かけて、計画的に取り組みを進めたこと。後継の機関には、前身の機関から引き続き参加したメンバーもいました。女性割合の数値目標を段階的に引き上げ、対象企業も拡大する意図があったように思われます。2つ目は、あくまで企業が情報開示を基本として自主的に規制するアプローチにしたこと。企業には数値目標未達や非開示による罰則は科されませんが、進捗状況は報告書により可視化され、同業他社との比較を通じて自社の強みや課題が明確になり、取り組み推進の契機となりました。
一方、ノルウェーではクオータ制が導入され、期限までに女性取締役の割合40%以上という目標が達成されない場合、企業名の公表や解散などの罰則が示されました。結果として女性割合を増やすことには成功したものの、少数の有能な女性に取締役のオファーが殺到するなどしました。
近年、日本企業に対しても機関投資家の目線が厳しくなり、日本企業は女性登用を進める必要に迫られています。イギリスの手法は他社の動向を気にしがちな日本企業にも効果が期待されます。日本の現在の取り組みも企業の自主的な努力と情報開示を基本としており、イギリスの影響が見られるようです。現在、女性活躍推進法のもとで企業が開示する情報の多くは選択制になっていますが、企業の女性登用を進めるためには、女性登用に関する項目すべての情報開示を義務化することが求められます。

Text=川口敦子 Photo=本間氏提供

本間美奈子氏

久留米大学法学部 教授

早稲田大学大学院で修士号(法学)取得。2001~2003年メルボルン大学、ロンドン大学で客員研究員。専門分野は会社法。研究テーマは、株式会社の管理・運営システム、会計監査人、非財務情報の開示と質の保証など。