Works 190号 特集 本気の 女性リーダー育成

MUFG/同質的な集団は衰退する 経営陣が危機意識共有しダイバーシティ推進

2025年07月28日

三菱UFJフィナンシャル・グループ(以下、MUFG)は、同質性の高い組織から脱却するため、男性管理職の意識改革やコース別人事の廃止を進めている。グループCHRO(最高人事責任者)の國行昌裕氏に、危機意識を持つに至った経緯や施策の効果を聞いた。

國行昌裕氏の写真

MUFG 執行役常務 グループCHRO
國行昌裕氏
1994年三菱信託銀行入社。MUFG経営企画部、三菱UFJ信託銀行(以下同社)ニューヨーク支店、市場国際部、英国法人CEO、同社常務執行役員兼MUFG・三菱UFJ銀行常務執行役員財務企画部長などを経て、2025年4月より現職。


MUFGは、全社員の55%を女性が占める一方、女性役員比率は社外取締役も含め6%弱に留まり(2024年3月末時点)、女性の給与水準も男性を100とした場合58.4と、格差が大きい(2023年度、全従業員対象)。コース別人事において一般職が女性中心であった経緯や、上位職に女性が少ないことが、賃金格差の要因となっている。

國行氏は「マイナス金利政策下で『銀行の時代は終わった』といわれるようになったころから、経営トップ層がこうした組織のあり方に強い危機感を持つようになりました」と話す。

「同質的な人が集まり、同じような考え方しかできない企業は、変化に対応できず衰退してしまう。生き残るためにはまず、組織にいるのに生かされてこなかった女性たちのバリューを引き出さなければいけない、という認識を共有するようになったのです」

2022年度から年に2~3回、部店長と次課長対象のDEIフォーラムを開催し、経営層から「管理職こそ働き方や性別役割分業の意識を変え、家事・育児にコミットすべきだ」という強いメッセージを発信している。コース別人事については、信託は2020年4月、銀行は2025年4月に区分を解消し、証券も2025年10月に解消を予定している。

國行氏は2025年4月にCHROに就任。「私のような人材がCHROに就いたこと自体が、会社が本気で変わろうとしていることの表れではないか」と話すように、國行氏は人員数ではグループ内の「マイノリティ」である信託銀行出身で、人事部長の経験もない。24時間365日働くのが当たり前、という古いバンカーのイメージと違い、週末には妻の料理教室を手伝い、子どもの学校のPTA役員も率先して務めてきた。家事・育児などを通じて培われる能力が仕事にも生きることを実感しているだけに、若手が2~3日程度の育休を申請しようものなら「もっとしっかり休んで本気で子育てし、家族の信頼なり仕事に生かせる経験なり、今しかできない収穫を得てほしい」とハッパをかけるという。「『長く休んでいい』などと言うと周囲は驚きますが、会社が私に期待しているのは、異質な意見を投げ込み変化を加速させることだ、と考えて行動しています」

男性社員に対しては、男性に1カ月以上の育児休業を推奨するほか、3月の国際女性デーに「共育て塾」を開催して、他社勤務を含むパートナーにも参加してもらい、「共育て」の意識浸透を図っている。

DEIの「落伍者」を出さない 女性のマインド変革も重要

多くの日本企業と同様、MUFGも休日出勤や残業をいとわない男性社員が「花形」部署に配属されるなど、配属や業務の偏りは存在し、結果的に男女の職位の差を生んできた。こうした歪みを正すためにさまざまな施策を実施し、女性マネジメント比率は24%まで上がってきた(2025年3末時点)。

一方、男性からは「女性だけ優遇すると男性の意欲が下がる」といった不満も聞かれるという。國行氏は「われわれが『組織決定なのだから従え』と上から考えを押し付けても、不満を持つ人は腹落ちできない」と強調する。

「わかりやすいたとえとして、男性は英語塾に通い、女性は塾に行かずに同じクラスで競争しているようなものだと伝えています。それだけ配属や環境に差があり、そのギャップを埋めれば全体のレベルが上がって男性にもメリットがあるのだと伝えると、理解しやすいようです」

過渡期の施策として必要であることを伝え、「フォーラムをはじめ、さまざまな機会で役員が繰り返し丁寧に説明することで、男性側にも『落伍者』を出さないようにしています」。

女性に対しては、役員メンタリングや銀行・信託・証券の3社合同での研修・セミナーを通じて管理職を目指す意識を持つよう働きかけている。「管理職を打診すると、『自信がない』『家庭との両立が大変そう』などと躊躇するケースもあります。しかし職位が上がるほど周囲の理解力のレベルが上がり、意見も理解してもらいやすくなるなど、管理職のメリットややりがいがあることを伝えると、前向きになってもらえます」

「空気読まない」会議に 多様な尺度で人を評価

一連の取り組みを通じて、組織にも変化が表れ始めている。これまで役員や上司の意見に別の提案をする社員は比較的少なかったが、最近は役職が上の人の意見に反論するなど、いい意味で「空気を読まない」振る舞いが増えてきているという。

「みんなが同意する会議は快適で決定も速いですが、必ずしも経営上のベストアンサーではないことは、過去の歴史が証明しています。今は『人と違うことを言おう』という空気も生まれていますし、想定外の意見のなかに検討に値する内容もたくさんあります」

一方で「花形」部署の長時間労働や夜の会食、週末の接待ゴルフなどは、今もまだ時間に制約のある人材を配属するうえでの壁になっている。「エースこそ定時帰り」という新たな意識を作り、夜の会食や休日のゴルフは代役を立てることで育児中の人もそのポジションに就けるようにするなど、運用を工夫することで乗り越えられるのではないか、と國行氏は指摘する。「何よりもわれわれ人事や現場が、『このポストは男性でないと務まらない』という考えを捨てることが重要です」

部店長向けフォーラムでも、部店長自身がマネジメント職の働き方を改善し、アンコンシャス・バイアスを排除したうえで自分の後任となり得る部店長候補の女性を育てるよう、メッセージを発信している。

女性のなかには、女性向けのメンタリングや研修に時間と労力を割くことが負担だとする声もあるが、「研修などで自分や組織の考えを言語化するスキルを身につけることは、管理職になってから必ず役立ちます。本人と、受講を促す立場である上司に狙いやメリットを説明し、理解を深めてもらおうとしています」。

育児による時短勤務者に対しては復職後研修・上司面談による早期時短解消の意識付けや、家事代行・ベビーシッターなどの制度支援も行っている。「一時期キャリアを減速しても、遅れを取り戻して管理職になれるという姿を示せれば、周囲の意識も変わるはずです」

それでも男性上司のなかには「女性はリーダーシップや決断力が弱く、意思決定層に向かない」という考えを持つ人もいる。しかし國行氏は「即断即決で声が大きい人の判断が、本当に組織にとってベストなのか。声は小さいが熟慮を重ねたうえでの判断が、実は正しいこともあるのではないか」と疑問を投げかける。「声の大きい人もいれば熟慮する人もいる、まったく別の視点でみんなをハッとさせるような意見を出す人もいる、というのがあるべき姿です。さまざまな尺度で人を見て、多様な組織を実現するのがCHROの仕事だと考えています」

Text=有馬知子 Photo=今村拓馬