Works 190号 特集 本気の 女性リーダー育成

女性活用は企業の業績を向上させるか

2025年07月07日

組織の多様性は業績に寄与するといわれるが、現実はどうなっているのか。日本企業における女性活用状況と企業業績との関係を、2000年代初頭、2010年以降のデータを用いて実証分析した慶應義塾大学教授の山本勲氏に聞く。


イメージ風景写真Photo=今村拓馬

女性活用と企業業績の関係については日本でも研究の蓄積が進んでおり、私自身もいくつか分析を手掛けています。

このうち2004年から2011年のデータを用いた分析では、女性正社員比率が高い企業ほど利益率が高くなる傾向が見られましたが、これにはいろいろな解釈が考えられます。1つは、女性活躍が進んでいる企業ほど、イノベーションが促進され業績が向上しているというものです。

他方、経済学のなかでは、逆説的な解釈もよく指摘されていました。当時の日本では、女性の賃金が不当に低く設定されていたため、女性を多く雇用する企業ほど人件費を抑えることができ、結果として業績が向上しているというものです。実際、外資系企業が日本の優秀な女性を中途採用する際に、前職の給与水準の低さに驚いたという話をよく耳にしました。つまり企業から見ると、同じ優秀な人材でも女性のほうが安く獲得できたということです。

しかし、女性活用がさらに進み賃金水準が上がれば、人件費の節約効果はなくなります。その後、2010年から2015年のデータで行った分析では、女性正社員比率と企業業績の関係性は見いだせませんでした。ポジティブに解釈すれば、2010年代に入り、女性が不当に低い賃金で雇われる状況が改善してきたとも考えられます。

一方、管理職については、女性管理職比率(全管理職数に占める女性管理職の数)と業績との関係性は確認できませんでした。しかし、女性管理職登用率(女性従業員数に占める女性管理職数)が高いほど、企業の生産性が向上していました。これは、女性が管理職に昇進しやすい環境を整備することによって、結果的に誰もが働きやすくなり、生産性向上につながったのではないかと考えています。

性別や年齢だけでない 「認知的多様性」を実現する

ちなみにイノベーションと多様性の関係については、海外も含めてさまざまな研究が行われていますが、プラスに働くという結果の一方、強すぎるアファーマティブアクションが短期的な業績低下を招くなど、ネガティブな影響を示す結果も出ています。理由としては調整コストがかさむなどが考えられます。ただ、少子高齢化で労働力不足が進み、価値観も多様化している日本においては、多様性の推進は欠かせないものであり、イノベーション創出にもプラスに働くと考えています。

近年、人的資本経営の重要性が指摘され、従来のように新卒を一括採用して、一律の研修を行い、年功で昇進させるのではなく、個々の状況に応じたキャリア形成が求められています。この流れのなかで、自ずと多様性は取り入れられていくでしょう。

そこで大切になるのは、性別や年齢や国籍など属性の多様性にとどまらず、考えや価値観の違いに注目する「認知的多様性(コグニティブダイバーシティ)」です。企業によっては「女性活躍」を掲げて経営者が満足してしまったり、男女を区別することで分断が生じてしまうケースもありました。「女性だから」ではなく、一人ひとりの成果や能力をきちんと見ていく仕組みが必要だと思います。

その点でも、ジョブ型は親和性の高い仕組みだと思います。日本的なメンバーシップ型の雇用慣行は女性に不利な面が多く、最近は、従来の男性的な働き方を望まない若年層も増えてきました。もちろん課題もありますが、ジョブ型の導入により、企業単位でも労働市場全体でも流動性が高まり、多様な人がより柔軟に働けるようになる。結果として、女性のキャリアの選択肢も広がっていくのではないでしょうか。

1つ注意するとすれば、「女性にはこの仕事」「男性にはこの仕事」と偏った運用にならないようにすることです。運用を誤ると、流動性が高まっても、逆に男女の役割を固定化することになりかねません。

また、取り組みにあたっては、きちんとデータを収集して活用することも大切でしょう。人的資本経営を実施している企業の分析をしたところ、人的資本開示をしている企業ほど業績がよいことがわかりました。積極的に情報開示できるほど、人的資本経営が進んでいるからだと思いますが、データを取ることで自社の実態を可視化でき、施策の進捗も把握できます。時系列で定点観測をし、客観的に課題を検証していくことで、取り組みが前に進み、好循環を生み出していけるのではないかと思います。

Text=瀬戸友子 Photo=山本氏提供

山本 勲氏

慶應義塾大学商学部 教授

1993年慶應義塾大学商学部卒業。2003年ブラウン大学経済学部大学院博士課程修了(経済学博士)。1995~2007年日本銀行勤務。慶應義塾大学商学部准教授を経て、2014年より現職。