Works 193号 特集 採用のジレンマ

採用の未来を解く5つのキーワード|「選ばれる」企業への転換

2026年01月29日

採用の未来5つのキーワード

企業はどのように採用と向き合い、個人はどのようにしてよりよい選択をしていくのか。人材ビジネスの役割はどうなっていくのか。採用をめぐる未来を、『2040年の人材ビジネス大予測』共著者の黒田真行氏、インディードリクルートパートナーズHR統括編集長・藤井薫の取材から導き出した5つのキーワードで読み解いていく。

黒田真行氏の写真

ルーセントドアーズ 代表取締役
黒田真行氏 1988年、リクルート入社。以降、30年以上転職サービスの企画・開発の業務に関わり、「リクナビNEXT」編集長、「リクルートエージェント」ネットマーケティング企画部長、「リクルートメディカルキャリア」取締役などを務める。2014年、リクルートを退職し、ルーセントドアーズを設立。

藤井 薫

インディードリクルートパートナーズ HR 統括編集長
藤井 薫 1988年リクルート入社以来、人材事業のメディアプロデュースに従事。「TECH B-ing」編集長、「Tech 総研」編集長、「アントレ」編集長、リクルートワークス研究所「Works」編集部、「リクナビNEXT」編集長を経て、2019年より現職。著書に『働く喜び 未来のかたち』(言視舎)


1.採用から『“アトラクション” “才要”』 へ

「“採用”という言葉そのものが、時代に合わなくなりつつあります」と、ルーセントドアーズ代表取締役の黒田真行氏は言う。「そもそも採用は“採集する”と“使用する”を組み合わせた言葉です。つまり、企業が主体で人を“使う”ことを前提にしています。しかし現在既に、求人の椅子の数より人の数が減り始め、企業が人を“採る”時代から、人に“選ばれる”企業だけが生き残る時代に変わりつつあります」

労働力人口の減少は、採用という概念の土台を揺るがせている。同特集内コラム「人手不足で転職率は変わったか? データで解く採用市場10年の変化」で坂本が指摘したように、AIやロボットの導入は人口減少スピードよりも遅い。「採用は、リクルーティング(recruiting)からアトラクション(attraction)へと変わりつつあります。企業に今後、より強く求められるのは、人の心を惹きつける力です」(黒田氏)

企業は自らの存在理由を語り、その物語に共感する人が集う。採用は、関係を生み出す行為となる。

藤井は、採用という言葉を変えていくことを提案する。「採用という言葉は企業が主語。これからは“才要”という言葉を用いてはどうでしょうか。人の“才”を、企業の“要”にすえるという考え方です。個人は企業の要として働き、そのなかに自分の幸福の要がある。そうやって、持続可能な関係が生まれると考えています」

2.『多毛作化』

採用からアトラクション才要へ。この変化は、雇うと雇われるの関係を溶かし始めている。「企業と個人が一対一で結ばれる構造が崩れ、複数の関係と活動を組み合わせて働く『多毛作化』の時代が、既に始まっている」と、黒田氏は指摘する。従来、働くことは1つの畑を耕し続けること、つまり1つの会社で1つの役割を担うことが一般的だった。「ところが今は、1つの会社・部署に所属しながらも、社外で学び、フリーランスやアルバイトで副業し、社内外の異なる仕事やプロジェクトに関わる。複数の収入源を持つ人が増えているのです」(黒田氏)

その背景には停滞する賃金以上に、人々の価値観の変化の影響がある。エンゲージメントの対象は会社ではなく、自分の成長や社会とのつながりなのだ。目先の利く企業は囲い込むより関わり続ける戦略へと舵を切り、副業・兼業の解禁が流れを加速させている。「企業はもはや社員を所有することができません。人の能力は“共有”のフェーズに入っています。重要なのはどれだけ長く一緒に働けるかではなく、どんな形で関係を続けられるか。人と企業が必要なときに交わり、離れ、またつながる。それがこれからの働き方の基盤になるでしょう」(黒田氏)

3.採用の『一強多弱』

企業が人に選ばれる時代であり、人の意識は自身の成長やキャリア形成にある。主導権は確実に個人に移り、企業の間には採用格差が広がっている。黒田氏は「一強多弱の時代」という言葉でそれを表す。「コロナ禍後、優秀人材に複数の企業からのオファーが集中する状況が起こっています。一部の企業は求める人材の獲得に成功していますが、多くの企業はまったく人が集まらなくなっている」(黒田氏)

この格差の要因は単に好業績やブランド力、高待遇ではないという。「問題は、採用競合と比較して自社の魅力を自分たちが理解していないこと。人事や経営層が決め付けている『我が社の魅力』が、候補者の心を惹くポイントかどうか、裏取りできていないケースが多い。自社が求める優秀人材が望む企業像に、自社を継続的に近づけることができる企業だけが、採用の勝者になり得ます」(黒田氏)

採用が選ぶ行為ではなく、選ばれるための行為に変わった今、どれだけ自社の存在理由を、相手の言葉で語れるかが問われる。自社の本質を、これから活躍してほしい人材の視点で理解し直せるかどうかにかかっている。

「一強多弱の格差は、やがて“一強多死”にもつながり得る」と、黒田氏は指摘する。人が充足できずに「人枯れ倒産」が起こる可能性すらあるというのだ。「既に介護・物流・建設など、エッセンシャルワークが極端な人手不足に陥っています。道路を直す人、バスを運転する人がおらず、事業が立ち行かなくなる現象が現実に起きている。こうしたことがどんな業界で起きても不思議ではない」(黒田氏)

一方で、ホワイトカラーを中心に人余りも起こっている。社会全体での人の再配置も、今、求められている。

4.ユニフォーミズムから『マルチフォーミズム』へ

企業が人材を充足していくには、多毛作化する個人に歩調を合わせていくしかない。「求められているのは、“ユニフォーミズム(均一拡大)”から“マルチフォーミズム(多中心・多様循環)”への転換です」(藤井)

新卒一括採用、終身雇用、同質的な評価制度など、日本の人材システムは長らく一律、直線上のユニフォーミズムの上に築かれてきた。そこで働く個人のキャリアは単線的で、人生や生活に対する価値観も同質的なものになりがちだった。「変化のスピードと個人の多様化が加速する今、そのモデルは限界を迎えています。マルチフォーミズムとは、社会や人生を中心に据えた“多中心”の社会構造であり、企業も個人も複線的に動きながら多様な循環を生む世界です。企業が組織や仕事のありようを多元的にして初めて、多様な仕事や経験を重ねながらキャリア形成したい個人を惹きつけることができるでしょう」(藤井)

人材獲得の方法も、新卒一括採用を中心とした一元的なものから、多層的に戦略化していく必要があると黒田氏は説く。「新卒・キャリア採用という雇用モデルだけでなく、内部異動や人材獲得のためのM&Aなどの手法を統合的にコントロールする配置戦略や、副業人材やフリーランスなどプロの活用を含めた労働力の質・量・コストなどを適正化するタレントアクイジションマネジメントができる力が求められています」

同時に、Section2でも既に述べたことだが、採用に関わる人のマルチ化、つまり人事に採用の権限を集中させず、現場や経営者のコミットメントを引き出すことも重要だ。会社全体で魅力を紡ぎ出し発信することに力を注いでいかなければならないのだ。

また、「採用を入り口だけと捉えず、入社後の活躍支援のマネジメントも含めた一連のマルチなプロセスへ進化させることも不可避」だと藤井は言う。「働く個人が未来の機会に自ら歩み出したくなる支援は、①安全道路(職場の安心感の醸成)、②後方支援(挑戦・達成への支援)、③前進駆動(ストレッチ目標の設定)、④貢献実感(社会的意義の実感・言語化)、⑤未来展望(将来へのキャリアのつながり)です。これらによって、働く個人は新たな機会を得て才能開花を実現していく。企業には離職を防ぎ、定着力が上がり、結果的に採用力も上がっていくという好循環が生まれます」(藤井)

一律拡大・一中心から、多様循環・多中心への転換を示す図

5.『雇用を創出する』人材ビジネス

人余りと人枯れという社会課題が深刻化する未来、人材ビジネスができることはあるだろうか。

黒田氏は、「今後の人材ビジネスの使命は、雇用の総量を増やすことにあります」と言い切る。「これまでの人材サービスは、企業からの人材獲得の依頼に応えることを主目的にサービスを開発してきました。いわば需要の仲介業です。でも、顕在的な求人を満たすだけでは、雇用の総量は増えない。必要なのは、存在しない需要を創り出すことだと考えます」

創り出すとは、企業がまだ気づいていない潜在的な可能性を可視化し、人と企業の新しい接点を設計することだ。「たとえば、『この人を採れば、事業が伸びる』『こういう人材を迎え入れれば、新しい領域を開拓できる』。そうした提案を、企業が求める前に提示できることが、人材ビジネスの本質的な価値です。AIなどのテクノロジーは、単に効率を上げるためではなく、その価値を最大化することにこそ使うべきです」(黒田氏)

人材ビジネスの役割は、人を動かすことではなく、これからの社会、これからの事業のためにどんな人材が必要なのか、企業の視界を広げることだ。たとえばタイミーがスポットワークという地平を切り開いたように、本当に人が不足しているのではなく、適切な雇用の形が提供されていないだけの領域はまだあるはずだ。人余りが起きている領域に対しては、その人たちのスキルを生かしたり伸ばしたりして、どういう方向に動かせば企業も個人もハッピーになるのかを構想する役割も果たせるだろう。

藤井のいう「才要」とは、単に今の空席を埋めることではなく、次の時代の事業や社会を形づくる営みだ。そこに参加する企業、人、人材ビジネスは、産業の未来をともに構想するパートナーでなければならない。

「人をどう集めるかではなく、人が働きたいと思える社会や組織をどう作るかが重要」と、黒田氏は言う。採用の未来とは、社会全体の構想力の問題なのだ。

Text=入倉由理子 Photo=刑部友康