Works 193号 特集 採用のジレンマ

シスメックス|職種別採用と相互マッチングで新卒のキャリア自律と組織の活性化を促す

2026年01月20日

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医療関連の検査機器・試薬の総合メーカー、シスメックスは2021年度の新卒入社から職種別採用を導入し、入社後は新入社員と職場が互いに希望を伝え合ったうえで両者をマッチングする仕組みも設けた。新卒からキャリア自律してもらうことを目指したこの取り組みは、どのような効果を上げているのだろうか。

寺田誠子氏の写真

人材開発部
寺田誠子氏


人材開発部で採用を担当する寺田誠子氏によると、職種別採用を始めたきっかけは、2020年4月に管理職へ、さらに2021年10月に一般職へジョブ型の人事制度を導入したことだった。「ジョブ型人事制度の導入は、会社と従業員の関係性をより対等な形に変え、社員に自律的にキャリアを築いてほしいという考えからでした。それに伴い採用の方法も、会社と学生がよりお互いに選び選ばれる形へ変えようとしたのです」

人事には近年、総合職一括の募集では人を集めづらくなってきた、という悩みもあった。総合職での内定者が辞退し、入社前に配属先をオファーした他社へ流れてしまう事態も起きていた。「総合職採用の場合、入社後も人事が真剣に適材適所を考慮して配属先を決めても、実際に配属してみるとそれぞれの期待値にズレが生じるなど、人事と新入社員、職場すべてにとって、あまりよい結果につながらないケースもありました」

職種別採用では基礎・要素技術の研究、製品開発、営業など約20職種のなかから、学生が希望職種にエントリーする。管理部門に関しては、当初「コーポレート部門」一括で募集していたが「たとえば人事と経理では仕事は大きく異なり、まとめて採用すると学生の希望に応じにくい」ため、人事、経理、広報IRなど募集職種を細分化した。

事業部門も採用にコミット 職種の「リアル」を伝える

学生が自らキャリア(職種)を選ぶことの課題として、仕事の内容を理解せずにイメージだけで決めてしまうことのリスクを挙げる企業も多い。同社の場合、従来は人事が中心となって進めていた採用プロセスに、事業部門にも関わってもらうことで、これを乗り越えようとしている。「最初は面接官を担ってもらう程度でしたが、年を追うごとに学生への広報などにもコミットしてもらうようになりました。今は職種別のオンラインイベントなどにも該当部門の社員が登壇し、学生に職場の実態をよりリアルに伝えています」

事業部門にとっては本業に採用活動が上乗せされるため、負担は高まることになる。人事が最初に協力を要請するときには「通常の業務だけでも忙しいのに」と渋い顔をする部門もあるという。これに対して人事は、その部門への応募者の減少を示すデータや、部門の関与によってどれだけ採用者数が増えるかという予測の数字などを提示し、部門を説得する。「一度選考に関わってもらい、より多くの人材を採用できたという成功体験が得られると、それ以降は積極的にコミットしてくれるようになります」

採用から配属までのプロセス採用から配属までのプロセス図解出所:シスメックス提供

マッチングの精度を高める アルゴリズムも活用

入社後のミスマッチによる早期離職の防止にも、事業部門が一役買っている。

配属先の決定にあたって、新入社員が自分の専門性やキャリアの希望を、部門側が実際の業務内容や身につくスキルを、お互いにプレゼンテーションする機会を設けている。そのうえで、新入社員は希望する配属先を、部門側は来てほしい新入社員を、順位を付けて申告する仕組みだ。当時協業していた東京大学マーケットデザインセンター(UTMD)と共同開発し導入したマッチングアルゴリズムによって最終決定する。

職種別採用に転換した2021年度、「他の部門へ異動する気はない」と回答した新入社員の割合は、前年の64.4%から85.7%へ伸びた。「人事としても採用改革は成功だったと考えていますし、部門側からもよい評価をもらっています」

一連の配属の仕組みは、新入社員にキャリア形成意識を持ってもらうことにもつながった。「新入社員はプレゼンを通じて、自分がどんな仕事をしたいのかを改めて考え始めます。プレゼンの結果が配属を左右するという緊張感や、自分が望んで配属先を決めたのだという覚悟も、キャリアへの意識を高めています」

人事も内々定者の懇親会や内定式、新入社員研修など、折に触れ「どんなキャリアを歩みたいか考えてください」というメッセージを発信している。さらにジョブ型や社内公募などの人事制度があることも、キャリア自律の必要性を「上書き」している。

どうしてもミスマッチが起こった場合、入社後1~2年目の社員を対象に、別の部門と再度マッチングできる制度も設けられている。若手社員の受け入れを表明した部署に社員自身が申し込みをして、面談と半年間の「トライアル期間」を経て、双方が合意したら正式に異動する仕組みだ。

「文系・学部卒」の採用機会が 拡大し、多様化進む

職種別採用によって、採用の「母集団」にも変化が生まれた。男女比や最終学歴、学部や出身大学などの多様性を担保できるようになったのだ。

総合職を一括採用していた時期は、「関西の技術系の企業」というイメージが先行し、関西にある大学の理系の院卒者にエントリーが偏る傾向があった。また、学部卒の学生と修士号、博士号取得者を同じ枠で選考すると、結果的に学部卒の学生が漏れやすい面もあった。「職種別に選考することで、『総合職』では採用されなかった人材にも光があたるようになりました」

採用数も2021年度の50数人から2024年度には100人超、2025年度には130人と増加し、「結果的に、職場の充足率も上がったと思います」。

今後の課題として寺田氏は「採用のエントリーや配属の際、イメージ先行で特定の職種へ応募が集中するといった偏りを整える仕掛けを作ること」を挙げる。

学生のなかには「社外の人と接する仕事をしたい」「先端技術に触れたい」「堅実で安定的な仕事をしたい」など、職種とは別の軸で就職先を選ぶ人もいる。「採用選考でこうした志向を把握し、適性検査の結果などを組み合わせて、人事側から『あなたにはこの職種が向いているのでは』と提案する仕組みなども作りたい。そうすることで、学生の選択肢が増え、同時に職種の偏りの解消にもつながるのではないかと考えています」

Text=有馬知子 Photo=シスメックス提供