Works 193号 特集 採用のジレンマ

正社員から正社員への転職が加速。求人数はコロナ前の2倍

2026年01月15日

マクロで見れば流動化の小さな兆しが見える程度だが、キャリア採用市場とそこでの企業・個人の行動にぐっとフォーカスすると、異なる、あるいは顕著な変化が見えてくるだろうか。

津田郁(左)と藤井薫(右)の写真津田 郁(左)
インディードリクルートパートナーズ リサーチセンター センター長
金融機関を経て、2011年リクルート海外法人(中国)入社。専門領域は組織行動学・人材マネジメントなどの組織論全般。「人的資本経営の潮流と論点」やリクルートワークス研究所「プレイングマネジャーの時代」の調査・分析を担当。

藤井 薫(右)
インディードリクルートパートナーズ HR 統括編集長
1988年リクルート入社以来、人材事業のメディアプロデュースに従事。「TECH B-ing」編集長、「Tech 総研」編集長、「アントレ」編集長、リクルートワークス研究所「Works」編集部、「リクナビNEXT」編集長を経て、2019年より現職。著書に『働く喜び 未来のかたち』(言視舎)。

増える正社員から正社員への転職 転職希望者はいずれ転職行動に出る

インディードリクルートパートナーズのリサーチセンター長、津田郁によれば、「最も大きな変化は、これまであまり動きが見られなかった正社員層が動き始めたこと」だという。下記のグラフは、総務省の「労働力調査」をもとに津田が分析した、2018年第1四半期を起点としたときの転職者数の増減率を示したものだ。2020年のコロナ禍以前はすべての雇用形態でまんべんなく人が動いていたが、コロナ禍以降は非正規から非正規の転職者は減少傾向にあり(グラフ色)、一方で正規から正規は一貫して増え続け(グラフ色)、「長期雇用前提の日本型雇用の“本丸”正規雇用の世界で、流動化が進み始めた」(津田)といえそうだ。

同じ労働力調査を使った分析で、正規から正規の年代別の転職者の増加率を見ると、20代だけでなく、35歳から44歳のミドル層、さらには50代まで増えているという。「『35歳転職限界説』という言葉もありましたが、もはや過去の話だといえるでしょう」(津田)

同特集内「人手不足で転職率は変わったか? データで解く採用市場10年の変化」のコラムで記した転職者比率の割合(グラフ)はまだ実数として増加していないが、今後増えていく可能性は十分にある。労働力調査の正規の職員・従業員の転職希望者比率は、2010年代後半には10%前後だったものが、2020年以降上がり始め、2022年10~12月期以降には15%を超えている。

「転職希望があっても踏み出せていない予備軍が多くいます。周囲に転職する人が現れると、『自分も転職してみよう』と刺激を受ける人は増えていくと思います。副業調査で副業する理由を聞くと、『周囲の影響』と答える人が多い。それと同様の現象が転職でも起こり得ます」(津田)

若手にフォーカスすると、2019~2021年に就職した人を対象とした調査によれば(リクルートワークス研究所「大手企業における若手育成状況調査報告書」)、「現在の会社で定年・引退まで働き続けたい」と回答した人は20.8%にすぎない。一方、「すぐにでも退職したい」は16.2%、「2、3年は働き続けたい」は28.3%と、若手の離職率の高さを裏付ける意識のありようも垣間見える。

雇用形態別 転職者数の増減(実数、2018年第1四半期起点)雇用形態別 転職者数の増減(実数、2018年第1四半期起点)*Qは1月起点の四半期(例:2025年1Q=2025年1~3月期)
各四半期(Q)の2018年第1四半期(以下1Q、1~3月)比の増減値を可視化したもの。たとえば、2025年2Qの「前職正規→現職正規」の転職者数は2018年1Qと比較して25万人増え、同時期の「前職非正規→現職非正規」の転職者数は7万人減っているという見方をする。
出所:総務省「労働力調査」をもとに津田作成

求人数はコロナ前の2倍に “X”人材など難度の高い求人も

求人件数の増加も、転職希望者の背中を押す可能性がありそうだ。インディードリクルートパートナーズの転職支援サービス、リクルートエージェントの求人件数の推移を見ると、リーマンショック以降増え続けた件数がコロナ禍で一時的に落ち込んだ後、2022年以降急速に回復し、2025年現在はコロナ前の2倍以上に達している。

また、リクルート「企業の人材マネジメントに関する調査2023」によれば、「企業の人事課題」は「新卒採用の強化」が21.0%だったのに対し、「中途採用・キャリア採用の強化」が26.9%と上回っている状況だ。

難度の高い求人も増えているという。その代表的なものが、DX(デジタルトランスフォーメーション)、GX(グリーントランスフォーメーション)、SX(サステナビリティトランスフォーメーション)など、企業が迫られるさまざまな変革をリードする“X”人材だ。

「自社にない知見や新しい事業戦略を担う人材を外から採る動きが広がっています。既存の人材だけでは難しい変革をリードする人材を外から迎えようとしているのです」と、インディードリクルートパートナーズのHR統括編集長・藤井薫は説明する。

しかし、それは必ずしもうまくいっている状況ではない。「かつてはキャリア採用に消極的だった企業も参戦するなど、人材獲得競争は激しさを増しています。企業は必ずしも必要な人材を充足できている状況ではないのです」(藤井)

Text=入倉由理子 Photo=今村拓馬