Works 193号 特集 採用のジレンマ
オリンパス|経営体制と人事チームをグローバル化。「世界標準」の人事制度を組織に実装

オリンパスは国境を超え、適所適材で優れた人材を配置できるよう、人事制度を全世界で統一した。制度を形だけにせず有効に機能させるためには、経営幹部の構成や人事の体制など、経営・事業全体のグローバル化が鍵となっている。

日本地域人事バイスプレジデント 城下英介氏(左)
執行役CHRO 大月重人氏(右)
執行役CHROの大月重人氏は2019年に入社し、人事制度の改革を牽引している。大月氏が経営に参画した当時の同社は、「Transform Olympus」と呼ばれる経営改革プログラムの実行フェーズで、前年に新しいコアバリューを制定したほか、祖業である顕微鏡事業やカメラ事業などを売却し、グローバルな医療機器専業メーカーへと生まれ変わっていた。
2019年4月、日本の管理職層にジョブ型の人事制度を導入し、2023年4月には非管理職層にも対象を拡大した。「事業展開する国・地域のうちジョブ型でないのは日本だけでした。実力主義、成果主義的な制度設計に変えていかなければ、グローバルメドテックカンパニーとして生き残っていけないという大きな危機感が、特に経営層のなかで強まっていたのです」と、大月氏は振り返る。ジョブディスクリプションの様式や項目には、今も地域によってばらつきがあるが、2026年度中には統一する予定だ。「新制度導入によって社員の不安を感じる場面もありましたが、対話を重ねながら理解を促してきました。さまざまな改革の結果、採用においては具体的な職務や求められる行動を明確に提示できるようになり、採用活動の精度が向上しています」(大月氏)
さらに2023年4月には、管理職層の評価制度と等級制度をグローバルで共通化した。報酬制度は各地域の報酬ベンチマークに合わせて額面が変動するが、基本給と賞与の構成比が全世界で一致するよう、さらなる標準化を進める計画だ。「社員約3万人の約6割は海外で働いており、優秀な人材も世界中にいます。国境をまたいだ適所適材を実現するには、制度を統一する必要がありました」(大月氏)
たとえば等級制度の統一によって、ヨーロッパで等級が部長相当であれば、日本やアメリカに異動しても同じ等級が適用され、国ごとの制度の違いに起因する職責や処遇のズレがなくなった。異動の際、理に適った処遇を提示できるようになったことで、国をまたいだ配置もしやすくなった。
また人事評価は成果目標と行動評価を同じ割合で評価し、5段階の総合評価を出す。このうち行動評価の基準に「患者さん第一」や「イノベーション」といったコアバリューを反映させることで、国や地域が異なる社員に、一律にバリューを体現することも求めた。「行動を評価基準に盛り込んだのは、社員の行動変容を引き起こし、全社員が同じ方向に進むためです。単にコアバリューを改定し、社員が漠然と理解するだけでは組織は変わりません」(大月氏)
多国籍の「人事チーム」が 実働部隊に
世界で共通化された人事制度を組織に実装する部隊として、各地域の人事部門とは別にCHRO直轄のグローバルな人事チームを組成した。チームのメンバーは世界中に分散し、グローバル事業責任者と協働して人材育成や異動、要員計画の策定などを担っている。
日本企業の場合、マネジメント層などコア人材の人事管理は日本本社が主体的に担い、一般社員の管理は現地の人事部門に任せ、そして制度は国によって異なるというケースが少なくない。しかし、日本地域の人事バイスプレジデントである城下英介氏は「当社では、日本にグローバル本社を置いていますが、日本本社から海外人事を直接動かすのではなく、世界中の主要拠点で勤務するグローバル事業・機能責任者がグローバルな人事チームと協働してリードしています」と説明する。
グローバル人事チームの採用担当グループは、働く国や地域を問わないキータレントやエグゼクティブクラスの採用、役職者の後継者育成などにコミットする。地域ごとの採用担当者のスキルや判断基準のばらつきを防ぐため、面接の質問事項の共通化も進めている。採用担当グループのトップはアメリカ在住で、メンバーも多国籍にわたる。「世界で統一された制度があっても、実働部隊がグローバルでなければ運用はできません。採用や配置、登用も含め日本にある本社が主導して決めるのではなく、さまざまな国のメンバーで構成されるグローバルなリーダーシップチームの意思決定を、人事チームが支えるということが、制度運用の重要な土台になっています」(城下氏)
このようなチームを持ちながら、人事部門はあくまでもマネジャーをサポートする立場だ。「当社では、『人事のオーナーシップはラインマネジメントにある』と考えています。しかし、日本を含む一部の地域には、採用や育成は人事部門の役割だという認識が依然として残っているため、事業部門が主体的に採用や育成に関わるための仕掛けづくりにも取り組んでいます」(大月氏)
たとえば日本では、他国の好事例にならい機能部門ごとに専任の採用チームを置き、人事部門と職場との連携を強化することで、職場側に採用活動への当事者意識が強く持てるようにしている。
世界的な医療機器企業出身者など 経験豊富な社外取締役
新たな人事制度を組織に実装できた背景には、人事部門の取り組みだけでなく、経営体制そのもののグローバル化がある。同社の社外取締役8人のうち4人が日本以外の国籍で、いずれも世界的な医療系企業での豊富な経験を持つ。「当社の社外取締役は、業界での知見とグローバル経営の観点から多くの助言をくださっています。彼らの意見は、当社が今後グローバルメドテックカンパニーとして進むべき方向を示す、重要な指針となっています」(城下氏)
経営をチェックし建設的な意見を述べる取締役と、必要な施策を実行する執行役という役割分担は、幹部の採用でも機能している。
最大の好事例が、大手医療機器メーカー出身のボブ・ホワイト氏を新社長に迎えたことだ。2024年12月、社外取締役3人と大月氏を含めた社内の執行役3人からなるアドバイザリー・サーチ・コミッティを立ち上げた。人選にあたっては社外取締役の人脈や知見が生かされ、グローバル人事チームも採用をリードした。その結果、約半年後の2025年6月には新社長が就任するスピード人事が実現している。
社長をはじめ経営ポストのオファーについては、オリンパスに世界的なメドテックカンパニーとしてのブランド力があることで、前向きに受け止める候補者が多いという。「パーパスの実現を通じて、世界の人々の健康に貢献することへの共感を重視しています。また当社は海外でも20年、30年働き続けて幹部に昇格する社員が多く、長く活躍できることが魅力の1つになっているようです」(大月氏)
「変革は途上であり、これからも続く」と大月氏。同社のこれからの進化にも注目だ。
Text=有馬知子 Photo=刑部友康
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