Works 193号 特集 採用のジレンマ

アイリスオーヤマ|チーム経営強化に向けた多層的な採用と理念の共有

2026年01月20日

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大きな体制変換を果たしたり新規事業を数多く抱えたりする企業は、新たな採用手法を模索せざるを得ない。そんな企業の代表例が、家電から食品まで幅広く手掛けるアイリスオーヤマだ。人事のトップに採用の実際を聞いた。

紺野聡氏の写真

管理本部 人事部 部長
紺野 聡氏


プラスチック成形を行う町工場として生まれ、メーカーが問屋機能を持つメーカーベンダーという独自の業態として発展、今や多岐にわたる事業をグローバルで展開するアイリスグループ。その中核にあるのがアイリスオーヤマ(以下、アイリス)だ。

その経営の大きな転換点は、実質的な創業者である大山健太郎氏から息子の晃弘氏が社長職を受け継いだ2018年だった。アイリスの人事部部長の紺野聡氏が話す。「現社長の大山(晃弘)が社長就任時、よくも悪くもトップダウン型からミドルアップ、ボトムアップ型のチーム運営に移行することを掲げました。結果、注力しているのが次世代を担う人材を採用し育てていくことなのです」

紺野氏は2007年新卒入社で、部長として人事部に配属されたのが2024年、40歳のときだ。それまでは営業10年、事業部長を3年、営業に戻った後、営業企画としてHRBP(HRビジネスパートナー)を4年経験してきた。営業畑出身が人事部長のポジションに就くケースは初だ。

事業領域拡大に伴う 人材と採用の多層化を目指す

また、新規事業への積極的なチャレンジなど、事業戦略も採用に影響を与えている。

ロボティクス事業、食品事業、ヘルスケア事業などの新規事業に加え、かつての新規事業だった家電事業、発光ダイオード(LED)照明事業が主力事業化する動きに伴い、2025年から新卒の配属先として、①ロボットの開発職、②LED照明の制御設計職、③現場で導入先に合わせて細かい制御を組み立てるLEDのフィールドエンジニア職、④データ分析を行うデータプランナー職、の4職種を新たに設け、それぞれ数人が配属された。

高度人材に特化した採用だけではなく、新たな採用経路も開拓している。

2024年から複数の大学と連携したデータドリブンワークショップをスタートさせた。「アイリスはECサイトも運営しており、そのPOS(販売時点情報管理)データなどを参加学生に提供、こんな施策を打てば売り上げが伸び、リピート客の増加につながるのではないかという仮説を立ててもらうんです。専門知識を持ったアイリスの社員も参加し、実践的なデータ分析やマーケティング戦略も学んでもらいます。2024年の参加者から4人が入社しました。2025年も大学を入れ替え、実施しています」

そのほか、実際の商品化を目指す大学ゼミ対抗のインターカレッジコンテスト、Sカレ(StudentInnovation College)にも2024年から参加している。2025年は、アイリスが提示した「ユーザーイン発想の視点による、持ち運びたくなるバッテリー商品の提案」というお題に対し、20の大学のゼミが競う。「こちらは採用に即、結びつくわけではありませんが、大学への一定のアピールを見込んでいます。また、最終プレゼンには社長も出席、経営の採用に対するコミットを提示する場ともなっています」

狙っているのは国内ばかりではない。時期や現在の数字は明確にしていないものの、アイリスは海外売上比率を50%以上に引き上げることを明言している。そのために必要なのが海外人材だ。現在、海外に16社18工場を展開しており、それぞれの経営層は日本人が、現場のマネジメントは現地人材が担っている。

2024年から海外勤務希望の日本人学生が参加するボストンキャリアフォーラムにブースを出すようになった。2025年には日英バイリンガル向け就職イベントの東京サマーキャリアフォーラムにも出展したところ、非常に多くの学生に来てもらえたという。

また、2025年10月には中国の上海・大連にて当社独自イベントとして中国キャリアフォーラムを実施した。「こちらはロボティクス、IoT、家電、システムを中心とした技術者の採用を狙ったものです。これらのグローバル人材の採用数は2025年卒の約2倍を見込んでいます。そのほかに、海外で現地採用した人材を日本に呼び、働いてもらう試みも始めました」

採用にあたっては「意欲、人柄、能力」の3つを見る。特に人柄は、チーム経営を重んじる社風から、コミュニケーション力などを重視している。「これらを面接で見抜くというのは大変難しい。質問を重ねていくなかで、仕事に不可欠な芯の強さも確かめていくしかないと考えています」

紺野氏は同時に、営業経験が豊富という実績を生かし、採用で「自社の見せ方」に工夫を凝らすようにした。「当社は生活者の不満・不便を解消するユーザーインという発想を大切にしています。自分たちのメッセージだけではなく、学生の身になって、彼らが知りたいと思う情報を盛り込むようにしました。採用チームには、人を採るのではなく、ファンを増やすことを考えてほしいと言っています」

結果、2025年卒の新卒採用では、大卒約300人、高卒約100人をそれぞれ採用した。

新卒向け、キャリア採用者向けの 手厚いオンボーディング研修

新入社員研修には特に力を入れている。約2カ月間、大卒、高卒に分かれ、時期をずらして本社のある宮城県の拠点で行う。人事主導での実施だが、他部門からの応援もあるという。「仕事のマナーを含め、社会人の基礎を学んでもらうことから始まり、企業理念の理解浸透、製造現場での実習、配属部門ごとの実地訓練と盛りだくさんの内容です」

キャリア採用者向けにも、キャリア研修を実施している。「入社3カ月後に1回目、半年後に2回目を行っています。こちらも宮城県の拠点に集まってもらい、部署横断の集合型で実施します」

このように同社がオンボーディングに注力する背景には、大山社長が掲げる「チーム経営」の実現が常に念頭に置かれていることがある。「1人でできる仕事はありません。それぞれが部署や年齢、ポジションの垣根を越えて連携するには、同じ理念を共有する仲間として招き入れる必要があるのです」

そもそもアイリスには年功序列という考え方がない。それを象徴するのが3車線人事という考え方だ。「登坂車線、走行車線、追い越し車線のように、3車線があって、これらが行き来可能です。しかも、役員含めたすべての社員は上司や同僚、部下、関連部署から360度多面的評価を定期的に受けます。また、グループ売り上げ8000億円弱規模の企業でありながら、経営トップとの距離も非常に近い。これらが相まって風通しのいい風土が実現、アイリスで働きたいという人たちを増やしています」

Text=荻野進介 Photo=刑部友康