全国就業実態パネル調査「日本の働き方を考える」201950代の出向経験は中高年齢者のモチベーションを下げるのか 孫亜文

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リクルートワークス研究所(2019)「再雇用か、転職か、引退か-『定年前後の働き方』を解析する-」Part2では、シニア期に直面する役職定年と定年が、中高年齢者の仕事満足度を下げると示した。報告書では、役職が変わることで、職務特性も変わり、これまで得られていた充実感が得られなくなるため、モチベーションが下がると考察している。「役職定年」以外にも、50代での「出向」や「希望のセクションからの異動」も、働く人のモチベーションを低下させるといわれる(注1)。ここでは、出向に着目し、50代の出向経験が中高年齢者のモチベーションを下げるのかをみていく。

まず、50代で出向を経験する人はどれぐらいいるのだろうか。出向は正社員を対象とした制度であるため、ここでは集計対象を50歳時点に正社員であった男性に限定する。また、50代での出向経験を、直近の出向が50歳以降にはじまった場合とする。
現在50代のうち50代で出向を経験した人の割合は5.5%であり、現在60代では10.9%である(図1)。一定数の中高年齢者は50代に出向を経験していることがわかる。

図1 50代で出向を経験した人の割合

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出所:リクルートワークス研究所「全国就業実態パネル調査(JPSED)2019」
注1:xa19でウエイトバック集計している。
注2:集計対象を50歳時点に正社員であった男性に限定している。

次に、50代での出向経験が中高年齢者のモチベーションを下げるのかをみていく。モチベーションの代理変数として、ここでは仕事に満足していることと生き生き働くことを用いる。50代での出向経験がモチベーションを下げる場合、50代出向経験者の方が、50代出向未経験者よりも、仕事に満足している人の割合と生き生き働いている人の割合は低いと予想される。

2は、現在50代の人の仕事に満足している人の割合と生き生き働いている人の割合について、50代出向経験者であり現在も出向中である人と、50代出向未経験者を比較したものである。
50代出向経験者(現在出向中)のうち仕事に満足している人の割合は32.6%であり、50代出向未経験者(32.7%)とほぼ変わらない。生き生き働いている人の割合は、50代出向経験者(現在出向中)が28.0%50代出向未経験者が26.0%と、大きく変わらない。50代での出向経験は、50代の仕事に満足していることと生き生き働くことにネガティブな影響を与えるといわれるが、ここでは確認できない。

図2 50代での出向経験別の仕事に満足している人の割合と生き生き働いている人の割合(現在50代)
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出所:リクルートワークス研究所「全国就業実態パネル調査(JPSED2019
1xa19でウエイトバック集計している。
2:集計対象者を50歳時点に正社員であった男性に限定している。

では60代になるとどうなるだろうか。図3は、現在60代の人について、50代での出向経験別に仕事に満足している人の割合と生き生き働いている人の割合をみたものである[2]
50代出向経験者である60代のうち、仕事に満足している人の割合は52.1%であり、50代出向未経験である60代の48.0%よりもわずかに多い。生き生き働いている人の割合は、50代出向経験者(52.8%)の方が、50代出向未経験者(39.1%)よりも、13.7%ptも多い。50代での出向経験は、60代の仕事に満足していることと生き生き働くことに対してもネガティブな影響を与えるといわれるが、むしろ50代で出向を経験した60代の方が仕事に満足していたり、生き生きと働いていたりする人が多いことがわかる。

図3 50代での出向経験別の仕事に満足している人の割合と生き生き働いている人の割合(現在60代)
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出所:リクルートワークス研究所「全国就業実態パネル調査(JPSED2019
1xa19でウエイトバック集計している。
2:集計対象者を50歳時点に正社員であった男性に限定している。

若年中堅期であれば、出向の主な目的は人材開発の意味合いが大きく、個人のモチベーションもあがりやすい。しかし、定年がみえている50代で出向となる場合、ネガティブなイメージをもたれることが多い。多くの場合、それが中高年齢者の働くことへのモチベーションの低下につながると考えられるが、必ずしもそうとは限らない。たとえば、50代の出向がきっかけで今までとは異なる仕事を経験する。それによって視野が広がり、新たなスキルを学ぶ機会に恵まれる。それが働くことへの充実感につながり、中高年齢者になってもモチベーション高く働き続けられるのかもしれない。

50代での出向経験は、中高年齢者になっても生き生きと満足して働き続けるための前向きなきっかけにもなりうるのである。

注1)定年後研究所の調査によると、50代において「役職定年」「50代での出向」「希望のセクションからの異動」などを経験することで、「働くことに対するモチベーション」が下がる傾向があることが明らかになっている。同研究所では、この現象を「50代シンドローム」と呼んでいる。
注2)現在60代の50代出向経験者とは、直近の出向期間が50歳から59歳までの場合に限定している。

孫亜文(リクルートワークス研究所/研究員・アナリスト)
・本コラムの内容や意見は、全て執筆者の個人的見解であり、所属する組織およびリクルートワークス研究所の見解を示すものではありません。