全国就業実態パネル調査「日本の働き方を考える」2019シニアの仕事の量・質は適切なのか 坂本貴志

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今年、リクルートワークス研究所「全国就業実態パネル調査(JPSED)」では、シニアの働き方に着目した。報告書では、シニアの労働者はほぼ一様に労働時間が減少し、給与も減少するということを明らかにしている。

ここでは、より仕事の中身に焦点をあてて、シニアが実際にどのような仕事を任されているのか、その内情を探っていこう。

50歳を境に、仕事の負荷は急速に減少

まずは仕事の負荷を確認してみよう。JPSEDでは、「処理しきれないほどの仕事であふれていた」かどうかについて、自身の職場でどれくらいあてはまるかを聞いている。これに「あてはまる」「ややあてはまる」と答えた人を仕事の負荷が高い人とすると、その年齢別の分布は以下のようになる(図1)。

仕事の負荷が高い人の割合は、30代前半にピークを迎える。入社して以降、徐々に任される仕事が増え、30代前半までは負荷が単調に増える。そして、年を経るごとにやや負荷が高い人の割合は低下するが、30代後半から40歳(仕事の負荷が高い人の割合:25.5%)を過ぎ50歳(同23.2%)頃までは比較的高い水準で推移している。

しかし、50歳を過ぎると、仕事の負荷が高い人の割合は急速に下がり始め、69歳(同8.2%)に至るまでその傾向が続く。定年を機に任される仕事の質・量が変わるということを耳にするが、かなり前の段階から仕事の調整が行われている事実をつきつけられる。

図1 仕事の負荷が高い人の割合(年齢別)
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出典:リクルートワークス研究所「全国就業実態パネル調査(JPSED2019
注1:数値は、3年中央移動平均。
注2:55歳から64歳までを網掛けしている。
注3:xa19を用いたウエイト集計を行っている。

仕事の質がレベルダウンする

仕事の「量」が年齢を重ねるごとに軽減していくことがわかったが、仕事の「質」はどうなっているのだろうか。JPSEDでは、より仕事の質に着目した設問を設けている。「あなたの担当している仕事は前年と比べてレベルアップしましたか」という設問において、「大幅にレベルアップした」「少しレベルアップした」と答えた人をレベルアップした人とし、「少しレベルダウンした」「大幅にレベルダウンした」と答えた人をレベルダウンした人としたうえで、年齢ごとの分布をみてみよう(図2)。

レベルアップした人の割合をみると、年齢とともにその比率は低下する。若い人には、その人にとって難度の高い仕事を割り振られる傾向が強い。しかし、年を経るに従い、人によってはそのような機会が相対的に少なくなっていくのだろう。

一方、レベルダウンした人の割合は、30歳で9.6%、40歳で10.0%、50歳で11.0%となり、大きな変化はみてとれない。年を経るごとに仕事がレベルアップし続けることは難しくなってくるが、レベルダウンとまで答えた人は少数派なのだ。しかし、50歳を過ぎるとその傾向は一変する。レベルダウンした人の割合は50歳から明確に上昇を始め、60歳時点ではその割合(15.1%)がレベルアップした人の割合(13.5%)を逆転する。

図2 仕事がレベルアップ/レベルダウンした人の割合(年齢別)
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出典:リクルートワークス研究所「全国就業実態パネル調査(JPSED2019
注1:数値は、3年中央移動平均。
注2:55歳から64歳までを網掛けしている。
注3:xa19を用いたウエイト集計を行っている。

仕事の質まで下げる必要はない

以上の分析からわかったことは、仕事の量や質は、50歳を境に低下していくということだ。これをどう考えるべきか。年をとるごとに個人の仕事への嗜好は変わっていくのだから、その変化に応じて仕事の量や質も低下するのはやむを得ないというのも一つの考え方だ。

しかし、ここではあえて、長年のキャリアに基づくシニアの豊富な経験を、もっと世の中に活かしてもよいのではないかと主張しておきたい。仕事の量の調整はまだしも、仕事の質をレベルダウンさせるような割り当てを行っているのだとしたら、そこには課題があると言わざるを得ない。シニアの豊富な経験を業務に活かさないのはもったいないではないか。

シニアの個々の意思を最優先にしながらも、よりその能力を活かす仕組みづくりを行いたいものである。

坂本貴志(リクルートワークス研究所/研究員・アナリスト)

・本コラムの内容や意見は、全て執筆者の個人的見解であり、所属する組織およびリクルートワークス研究所の見解を示すものではありません。