全国就業実態パネル調査「日本の働き方を考える」2019子どもの有無と働き方の柔軟性の関係 ―専門職女性のキャリアに注目して― 池田岳大・三輪哲

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知識基盤社会とも言われるように、労働市場において専門知への要求が高まり、それに呼応する形で専門職が近年拡大している。そうした労働需要に応えるうえでもこれまで十分に活用できてこなかった女性労働者の活躍が期待される一方で、特に子育てとの両立という点において長時間労働や硬直的な働き方が彼女らの活躍を阻害する要因となっている。専門職全体の長期的な発展を考えるうえでも、子どもができた後の働き方の柔軟性について理解しておくことは重要であると考えられる。そこで今回は「全国就業実態パネル調査(JPSED2019」を用いて、子どもの有無と働き方の柔軟性の関係を読み解いていく。以下では、勤務日あるいは勤務時間を選ぶことが可能かどうかを働き方の柔軟性の指標として、特に専門職女性に焦点をあて検証していく。

子なしの場合と比べて
子ありの場合に働き方の柔軟性が大幅に向上

1は、子なしの場合と子ありの場合とにおける女性の働き方の柔軟性の変化に関する散布図である。これはJPSED2019Q46を用いて、横軸を勤務日に関する柔軟性、縦軸を勤務時間に関する柔軟性とし、それぞれ「勤務日を選ぶことができた」と「勤務時間を選ぶことができた」という項目についてどれくらいあてはまるかの問いで「あてはまる」「どちらかというとあてはまる」を選んだ場合に「柔軟性あり」と考え、その該当割合を示したものである。つまり、右上に向かうほど柔軟性が高い状態であると考えられる。ここでは比較的サンプルサイズの多い専門職に加え、比較対象としてホワイトカラー職である「管理職」「営業職」「事務職」の結果もプロットした。それぞれの職種について、矢印の起点が子なしの場合、終点が子ありの場合となる。

結果は明らかであり、どの専門職においても子なしの場合と比べて子ありの場合に右上に移動しており、勤務日、勤務時間ともに柔軟性が大きく向上していることがわかる。比較対象として示した3つのホワイトカラー職と比較したときに特に変化の大きい専門職は「建築・土木・測量技術者」「金融関連専門職」「医師、歯科医師、獣医師、薬剤師」である。

図1 勤務日と勤務時間の柔軟性  
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注1:サンプルは女性のみに限定している。
注2:XA19を用いたウエイトバック集計を行っている。
注3:矢印の起点が「子なし」、終点が「子あり」を示す。

働き方の柔軟性の向上は
雇用形態の変化と強く関連している

1で示したような結果から、ただちに「専門職女性はキャリアと子育ての両立を達成している」と解釈できるのだろうか。結論から言えばそれは早計であると考えられる。その理由として、図2に示した子どもの有無別の正規雇用割合をみていきたい。ここには先ほど取り上げた専門職の変化を示している。子ありの場合に正規雇用割合が大幅に低下するのは「医師、歯科医師、獣医師、薬剤師」「社会福祉専門職」「金融関連専門職」で、30%ポイントから50%ポイントほど正規雇用割合が低下している。これらの職種は図1の分析で「勤務時間・勤務日ともに柔軟性が大幅に向上した」と述べた職種と重なる。つまり、子ありの場合の大幅な柔軟性の向上は、正規雇用から非正規雇用へと転換したことが大きな要因であることが示唆される。

一方、「建築・土木・測量技術者」「ソフトウエア・インターネット関連技術者」「保健師、助産師、看護師」は子ありの場合の正規雇用割合の低下幅は相対的に小さい。とはいえ、正規雇用割合は50%前後にとどまることから、これらの専門職においても子育てをしつつ、正規雇用として柔軟な働き方を達成することは決して容易ではないことが示唆される。

図2 専門職における子どもの有無別の雇用形態
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注1:サンプルは女性のみに限定している。
注2:XA19を用いたウエイトバック集計を行っている。

キャリアの接続と働き方の柔軟性の両立を目指して

以上より、専門職女性の働き方に関して、子なしの場合よりも子ありの場合において働き方の柔軟性が向上しているものの、それと同時に雇用形態が正規雇用から非正規雇用へと転換しており、正規雇用キャリアとのトレードオフのもとに柔軟な働き方が成立しているという実情が示唆される。冒頭で示した専門職の発展や専門知の拡大を見据えるならば、女性のキャリアの断絶は大きな損失となる。

専門職の専門分化が進む昨今、多様な労働力を有効活用する施策がすべての専門職で画一的なものになるとは考えにくい。各部門が「柔軟な」発想をもって、女性のキャリアを継続する制度設計や専門職市場の構築を実現することを期待したい。

池田岳大(東京大学大学院)
三輪哲(東京大学社会科学研究所 教授)
・本コラムの内容や意見は、全て執筆者の個人的見解であり、
所属する組織およびリクルートワークス研究所の見解を示すものではありません。