全国就業実態パネル調査「日本の働き方を考える」2019ワークライフバランスを実現するためには、職種別の対応が必須 孫亜文

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職業と働き方との関係に着目した前回のコラムでは、Works Indexの5つ目のIndexとして設計しているIndexⅤ「ディーセントワーク」を用いて、医療・介護関連職の働き方について考察した。今回は、3つ目のIndexとして設計しているIndexⅢ「ワークライフバランス」に着目して、職種別の結果を考察してみよう。

非正社員の割合が高い職種では、ワークライフバランスの水準も高い

IndexⅢ「ワークライフバランス」とは、適切な労働時間や休暇などがあり、無理なく働くことができるかを示すIndexである。残業がなく、休暇も十分にとることができ、勤務時間や勤務場所を個人が選べる環境であることが望ましい。働き方改革で働き方の自由度が向上したことに伴い、ワークライフバランスは2年連続で上昇している(図1)。

図1 IndexⅢとその内訳
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出所:リクルートワークス研究所「Works Index 2018」

ワークライフバランスの水準が高い5つの職種をみてみると、家政婦(夫)・生活サービス職、ウエイター・ウエイトレスや販売店員と、サービス職が上位を占めている(表1)。サービス職のワークライフバランスの水準が高いのは、短時間勤務を希望して非正社員として働く女性が多いからかもしれない。

表1 ワークライフバランスの水準が高い5つの職種における属性と働き方の状況
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出所:リクルートワークス研究所「全国就業実態パネル調査2019
注:xa19を用いてウエイトバック集計している。

正社員の割合が高い職種における課題は、職種によって異なる

では、正社員の割合が高い職種ではどのような特徴があるのだろうか。
正社員の割合が高い職種を左から順に並べ、ワークライフバランスの水準をみてみよう。全体(就業者)と比べると、正社員の割合が高い職種(左側の職種)の水準は決して高くないことがわかる(図2)。

図2 正社員割合の高い職種を左から順に並べたときのワークライフバランスの水準 ※クリックで拡大します正社員割合の高い職種を左から順に並べたときのワークライフバランスの水準

出所:リクルートワークス研究所「全国就業実態パネル調査2019
注:xa19を用いてウエイトバック集計している。

なかでも正社員の割合が高い5つの職種について、Indicatorの水準をみてみると、Indicator-3「出産・育児・介護による退職がない」以外は、職種によるバラつきがみてとれる(図3)。これらの職種では、女性もしくは介護をしている人の割合が低いため、Indicator-3「出産・育児・介護による退職がない」で大きな差がないと考えられる(表2)。

図3 正社員割合の高い5つの職種のIndicatorⅢの水準
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出所:リクルートワークス研究所「全国就業実態パネル調査2019
注:xa19を用いて集計している。

表2 正社員の割合が高い5つの職種におけるIndicator-3の水準と属性の状況
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出所:リクルートワークス研究所「全国就業実態パネル調査2019
注:xa19を用いて集計している。

職種別の働き方改革推進がワークライフバランス向上を実現させる

正社員の割合が高い職種のワークライフバランスを向上させるためには、どうすればよいのだろうか。いくつかの職種について考えてみよう。

自衛官、警察官では、特にIndicator-4「勤務時間・場所自由度」が低い(表3)。交番のお巡りさんのように場所の制約が強い職種のため、ここへのアプローチは難しいだろう。しかし、当直明けの残業をさせない取り組みや、スケジュールの共有と管理を徹底することで休暇を取得しやすくするなど、Indicator-1「残業がない・短い」とIndicator-2「休暇取得」の水準を向上させる取り組みは有用になると考えられる(注1)。

トラックドライバーでは、ともにIndicator-1「残業がない・短い」のスコアが低い(表3)。これらの職種では、待機や客待ちなどの手待ち時間が長い傾向にある。すでにモバイルなどのテクノロジーを活用した、荷待ち時間の短縮やリアルタイムでの乗車希望把握などがあるので、それら手待ち時間を減らす取り組みをさらに推し進めることが効果的ではないか。

ソフトウェア関連技術職では、Indicator-4「勤務時間・場所自由度」のスコアが低い(表3)。働き方の柔軟性をあげる制度としてテレワーク制度があり、この職種でのテレワーク制度導入割合をみると、25.6%と比較的高い(就業者平均7.4%)。しかし、本人に適用されている割合をみると、12.8%と半分ほどに減少する。今回(20202月時点)、新型コロナウイルスの影響で、多くの企業で在宅勤務が推奨されている。9割の社員が在宅勤務に支障を感じていないIT系企業があるなど、テレワーク制度の有用性が示されている。このような、場所を問わない職種では、テレワーク制度の導入と適用を推進することが、ワークライフバランスの向上を促す可能性が高いと考えられる。

表3 正社員割合の高い5つの職種のIndexⅢとIndicatorⅢの水準
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出所:リクルートワークス研究所「全国就業実態パネル調査2019
注:xa19を用いてウエイトバック集計している。

職種によって働き方が異なるのは当たり前であり、どの職種にとっても有効な対策というのは限定的にならざるをえない。テレワーク制度のような新しい取り組みは、場所の制約が少ないIT系の職種では役に立つのに対し、警察・医療関係者のような場所の制約が厳しい職種にはそぐわない。むしろスケジュールの共有や管理など、これまでの働き方を地道に見直す取り組みのほうが功を奏すだろう。

多様な働き方が増えているなかで、誰もが理想的なワークライフバランスを実現するためには、職種の特徴を踏まえた取り組みが今後さらに求められる。

(注1)「休めば休むほど、捜査効率アップ―警察組織が働き方を見直した本当の理由とは。」Business Insider JapanHPhttps://www.businessinsider.jp/post-166343

孫亜文(リクルートワークス研究所/研究員・アナリスト)
・本コラムの内容や意見は、全て執筆者の個人的見解であり、所属する組織およびリクルートワークス研究所の見解を示すものではありません。