データから見る高校卒就職の課題と展望高校卒業後、ずっと働いていない若者の存在を考える

高校生の就職内定率は99.3%(※1)(2020年卒)と高く、リーマンショックの2010年卒でも93.9%、さらに遡ってITバブル崩壊後の2002年卒で89.7%と、不況期でも約9割の高校生が就職することができている。
他方、高校の現場においては「進路未決定」問題の存在が知られている。「卒業時点で就職も進学もしていない」高校生のことである。上記の高校生の就職内定率は、対象が“学校やハローワークからの職業紹介を希望した生徒”(※2)に限定されており、進路未決定の高校生たちはこの“学校斡旋”の対象になっていないことが多く、結果として内定率の計算に入っていない。
進路未決定の高校生たちについては、様々な検証がなされており、文部科学省の学校基本調査では「左記以外の者」(就職も進学もしていない者)として集計されている。ただ、この数については大学浪人を予備校に通わずにしている者も含む。このため、「働いていない高校卒者」について、その実数は年間数万人ともいわれているが正確に把握されていない状況である。

今回、高校生の卒業後の状況について、リクルートワークス研究所の最新の調査(※3)の結果を用いて見える化を試みた。
上記の「卒業時点で就職も進学もしていない」高校卒業者については、「その後仕事が決まった」、「自分が何をしたいか悩んでいたが資格を取るために専門学校へ行くことにした」、はたまた「自宅浪人から進学した」といったケースも多くあることだろう。
こうした多様性がある中で、なお問題になるのが、「その後も継続して進学もせず就業もしていない」人々の存在である。

高校卒の20代の4.9%が一度も働いたことがない

まず、学校卒業後に継続して未就業の者(一度も働いたことがない者(※4))がどの程度いるのかを明らかにしたい。調査が行われた時点まで、学校卒業後一度も就業経験がない29歳以下の割合という形で整理してみよう(図表1)。

図表1:一度も働いたことがない者の割合(29歳以下。直近の卒業者を除外(※5))図表1.jpg

進学を目的とした進路未決定者(過年度生・自宅での浪人生等)の影響を除外するために直近2年間の卒業者は除外している。
結果としては全体で高校卒が4.9%と、専門学校卒の1.9%、大学卒の1.6%に比べて高い数値となっていることがわかる。
ここで今一度確認するが、この数値は単純な“非就業率”ではない。学校卒業以降、“一度も働いたことがない者の割合”である。就業未経験率、とも呼べる。若者にとって売り手市場ともいわれてきた現代社会の中で、就業を経験したことがない若者が一定数存在していることは留意すべきであろう。そしてその割合において、高校卒業者の割合が男女問わず高いという事実は、私たちが向き合わなくてはならない社会課題のひとつである。その背景にはどんな原因があるのだろうか。

高校生の「内定率」は何%なのか

未就業に課題を持ちつつ、視点を高校卒業時点に戻そう。学校・ハローワークが把握していない高校生まで合わせた「内定率」について推計してみたい。
文部科学省の学校基本調査では進学しない者について、「正規の職員等」「正規の職員等でない者」「一時的な仕事に就いた者」「左記以外の者」という分類で高校卒業者を把握している。「正規の職員等でない者」と「一時的な仕事に就いた者」はともに有期契約の被雇用者であるが、概ね前者は契約期間が1年以上、後者は1年未満という違いがある。
このうち、「左記以外の者」については、進学も就職もしない者であるが、就職を念頭に置いているのか進学を念頭に置いているのかは不明である。このため、ほかの統計を用いてこの内訳を推計(※6)し、「左記以外の者」のうち46.0%が進学を希望しない者として考える(※7)。その結果が図表2である。

図表2:「内定率」の推計(2019年卒を題材としたもの)(※8)
図表2.jpg

冒頭で触れた通り、2020年卒の就職内定率は99.3%、更に2019年卒は99.4%であった。この2019年卒を題材として推計した場合、進学も就職もしない者を含めると実質的な「(正規の職員への)内定率」は85.1%となる。この85.1%については、この後のキャリアによって更に多様な状況にあることを前稿で述べた(前稿の図表3)。
また、非就業者が合わせて10%以上存在し、4.9%については高校卒業時点から20代の終わりまで仕事に就かない可能性があることも重要である。この推計によれば、高校卒業時点で就業していない者の半数弱は、「その後も働いていない」ことを示唆している。「働いていない」理由には様々なものがあると考えられるが、この実態が示す高校生の卒業時点での“多様性”を私たちは知らなくてはならない。

こうした多様性に対して、現在の学校教育システムは十分な支援を提供できているだろうか。本研究プロジェクトではこうした視座を持ち、検討を進めていく。

(※1)厚生労働省「令和元年度 高校・中学新卒者のハローワーク求人に係る求人・求職・就職内定状況」取りまとめ。以下注記なきものについてすべて同様。
(※2)同上。
(※3)リクルートワークス研究所「全国就業実態パネル調査」
(※4)就業したことがない、については就業形態(雇用者、自営業、会社役員等)・雇用形態(正規社員、契約社員、派遣社員、アルバイト等)問わず、学校卒業後一切の就業経験がないことを指す。
(※5)サンプルサイズ3699。浪人生の影響を除外するべく直近2年間(2018年卒、2019年卒者)を集計から除外している。ウェイトはXA20を使用。
(※6)独立行政法人労働政策研究・研修機構が2010年に全国2000校の高校を対象に調査した結果によれば、卒業者のうち就職も進学もしていない者(左記以外の者)の中で、「進学希望で、受験浪人中」は37.0%、無回答が17.0%であったため、残りの46.0%を進学希望のない者として推定する(独立行政法人労働政策研究・研修機構「高校における未就職卒業者支援に関する調査」)
(※7)なお、ほかの調査として、東京都が2011年度卒業者に対して実施した高校卒業後進路未決定者に対する調査がある。これによれば、卒業後の学習行動として、「学校に入ってもいないし、勉強もしていない」は67.0%。就労活動では「アルバイト・パート・契約社員」が66.4%、「現在、仕事を探している」13.8%、「働いていないし、仕事も探していない」は13.1%であり、卒業後に決定した就労については、非正規の労働を主流とした厳しい労働環境が指摘されている(古賀正義<2016>「進路未決定高卒者に関する実証的研究-困難地区の進路多様校や特色校での3年間のパネル調査を中心に-」)
(※8)文部科学省「学校基本調査」(令和元年度)に上記推計と図表1での結果を合わせたもの。